仏、アルツハイマー型認知症治療薬保険適用外に
Ulala(ライター・ブロガー)
【まとめ】
・仏保健省、アルツハイマー型認知症治療薬の保険適用除外を決定。
・仏南西に「アルツハイマー病患者村」の建設開始。
・同村では、アルツハイマーの治療法の研究が行われる予定。
【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては写真説明と出典のみ記されていることがあります。その場合はJapan In-depthのサイトhttp://japan-indepth.jp/?p=40472でお読みください。】
フランスで、アルツハイマー型認知症治療薬が8月1日より保険適用を外されることになりました。
アルツハイマー病とは、脳の萎縮により、場所や時間、人物などの認識ができなくなるなどの記憶障害や、身体的機能が低下して動きが不自由にもなる病気です。
進行の度合いには個人差があり、10年経っても自立して穏やかに暮らしている人もいれば、わずか数年で寝たきりになってしまう人もいますが、現時点ではアルツハイマー病の根本治療薬はまだ出てきておらず、病気の進行を遅らせることができるとしたアルツハイマー型認知症治療薬が保険適用で処方されていました。
しかし、今回フランス保健省は、世界中でこれまでに発表された研究を調べた結果、投薬により消化器症状や循環器、神経症状等の副作用が懸念される一方で、病状を改善するような充分な治療効果は認められなかったとし、アルツハイマー型認知症治療薬4剤に対し「医療保険でカバーするのは適切ではない」との決定を下したのです。
対象となるのは下記の4製品。(カッコ内は日本での製品名)
・ドネペジル(アリセプト)
・ガランタミン(レミニール)
・リバスチグミン(イクセロン/リバスタッチ)
・メマンチン(メマリー)
同時に、保健省は「患者に対する薬以外のケアを強化する」考えも表明し、これらの方法にて今後は対応にあたると説明しています。
・一般開業医の役割の強化
・介護者の負担の軽減
・アルツハイマー病特別チームを全国に設置
とはいっても、フランス政府も薬物治療自体を否定しているわけではありません。現在も大きく予算をさいて研究は引き続き行われています。アルツハイマーの根本治療薬や治療法の研究はこれからも全世界の課題であることは間違いないのです。
そんな中、6月4日からフランス南西に位置するダクス市近郊で、いわゆる「アルツハイマー病患者村」の建設が始まりました。次の段階の研究とも言える試みです。
▲動画
このプロジェクトの指導者でもあるボルドーのペレグリン大学病院の神経学・疫学者ジャン・フランソワ・ダルティーギュ教授はこう言います。
「10年ほど、薬物治療を行わずケアする方法を研究してきました。しかし期待した成果はでませんでした。確かに自宅で療養している患者の家に支援者を送って手伝ったり、アドバイスなどをしていけば、介護者の負担も減り、患者の問題行動も多少は減らすことができます。しかし、認知能力自体は改善しないんです。何が一番重要なことなのでしょうか?今までの研究はそのことを見誤っていました。自転車に乗れたことを覚えていることが重要なのか、自転車に乗ることが重要なのか。ただ平穏でいることが大切なのか、人生を楽しんで生きることが大切なのか?この村では社会生活への参加を促していければと思っています。そのために病気でハンディキャップがある人でも普通に買い物したり、ペタンクをするなどができる環境を整え、人生を楽しむことを手伝うのです。」
▲図 フランスのアルツハイマー患者村 出典:Champagnat & Grégoire Architects
▲図 フランスのアルツハイマー患者村 出典:Champagnat & Grégoire Architects
よく、アルツハイマーを含む認知症について言われるのは、「本人にとっては病気でも何でもないが、どちらかと言うと社会的な病気である」というもの。つまり、社会に適応できないことが問題視され、そのことがさらに患者を追い詰めることにより問題行動などが起こる病気であり、誰かにとがめられるような生活ではなく、誰かが緩やかな補助をしてくれる生活を送ることができれば、問題ない生活が送れるとともに、脳の活性化にも役立つと言われています。
それを実現する村こそが、「アルツハイマー病患者村」。この、フランス初となるアルツハイマー病患者村は、オランダ・アムステルダムで行われている同様の取り組みが参考にされています。
▲写真 オランダのアルツハイマー病患者村Hogewey 出典:Hogewey
オランダの「認知症村」は、1992年に設立されました。この村では、例えばスーパーマーケットでは、レジでお金を支払うことを忘れても登録されたナンバーで一括で精算できるシステムになっています。一般社会で普通のスーパーならお金を払わなければ警察を呼ばれることになりますが、支払いのシステムが整っている環境では誰からも責められることはありません。
またスタッフがさりげなくサポートするので失敗経験にはならず、失敗経験から生まれる「できない」、「わからない」という不安感情が発生しにくくなります。失敗体験やそれによる暴言や暴力などが積み重なることが、問題行動の原因にもつながるため、なるべく不安にさせないことが大切なのだと言います。
▲写真 オランダのアルツハイマー病患者村Hogewey 出典:Hogewey
そういったサポートを行っていった結果、オランダの「認知症村」の平均入居年数(寿命)は、開設当初から比べると約2.5年から3.5年に伸びました。問題行動が減ったことで、薬の服用も15%減少したという一定の成果をあげたのです。
一方、現在建設が進められているフランスの「アルツハイマー病患者村」は、患者を助け、介助者も普段着を着て、穏やかな普通の生活の継続状態を目指している点では同じですが、オランダの村とは異なり研究を目的とした施設が設置され、実験結果を従来の介護施設で取られている手法と比較し正確なデータをまとめる予定になっています。
研究員たちは、介助者や、さまざまな活動を行うボランティアや住民と共に村に住みます。また、コンセプトとして病院の雰囲気から遠ざかることとし、薬物治療も行いません。7ヘクタールの土地に、スーパーマーケットや美容院、レストランなどを設け、社会的な交流を促す造りになっており、2019年までにおよそ120人の患者を迎え、入居費用は一日60ユーロ程度になる予定としています。
このように、将来やってくるであろう高齢者社会に向けて、現在フランスではアルツハイマーの治療法の模索が行われ続けています。患者にとって一番最適な治療法、生活環境とはどういったものなのかを考え、効果がないとすれば保険適用から除外して、積極的に次の段階のアルツハイマー患者との向き合い方が考えられているのです。患者とその家族を助ける未来の介護モデルもフランスの「アルツハイマー病患者村」から生まれるかもしれません。まだまだ建築が始まったばかりですが、今後の研究には大きな期待がかけられています。
トップ画像/フランスのアルツハイマー患者村 ©NORT ARCHITECT