[藤田正美]<着々と進む日本の危機>今年1月の国際収支は1兆5890億円の経常赤字
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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◆日本が抱える時限爆弾 残された時間は意外に短い
ウクライナ危機が世界の金融市場に大きな影響を与えるかもしれない。ウクライナ自身の債務問題もあるし、ロシアの「反撃」次第では世界の投資家が不安になるからだ。それでもロシアと欧米との間で「熱い戦争」になる可能性は小さいだろう。それは両者にとってあまりにもリスクが大きすぎる。
一方で、日本の危機は着々と進んでいる。昨年、日本の貿易赤字が10兆円を超え、所得収支(海外に投資した分の見返りなど)の黒字で何とか補ったという話はここでも書いた(連載19「日本国債暴落の足音が聞こえる」)。日本全体の収支が赤字になれば(昨年は3.3兆円の黒字だが、前年より30%以上も減ったのである)、それをきっかけに外国のヘッジファンドが日本国債(JGB)を売りに回るかもしれない、という内容だ。
さらにショックを与えたのが今年1月の国際収支。1兆5890億円の経常赤字となり、1985年以降で最大となった。しかも4カ月連続の赤字である。もちろん赤字がどんどん膨らむわけではないが、2014年を通して赤字にならないとは言い切れない状況になってきた。こうなると海外ヘッジファンドが俄然チャンスを狙うかもしれない。
実際、これまでもヘッジファンドはJGBを売りに回っていたのだが、そのたびに彼らは失敗してきた。これだけ大きな財政赤字を抱えていて、いつまでも国債の相場を維持できるはずがない、というのである。だから日銀の黒田総裁が「異次元の金融緩和」を行っても、長期金利が不安定になる(国債相場が下がる)こともあった。しかし去年は何とか日銀が抑え込んできた。
その背景にあるのは世界最大の300兆円という対外純資産、それに年間16兆円という所得収支の黒字である(しかもこの所得収支は膨らむ傾向にある)。それでも貿易赤字も膨らみ続ける。すでに2011年に32年ぶりという赤字になってからの3年間は倍々ゲームで増えてきた。円安で輸出が増えるという期待もあったが、思うようには増えなかった。企業が海外生産を増やしているからである。
そして最も大きな問題は、日本政府がなかなか大胆な改革に踏み切らないことだ。ひとつはアベノミクス第3弾とも絡むが、規制改革を進めることで日本の中に新しい産業の芽を育てること。もう一つは、双子の赤字(財政赤字と経常赤字)にならないよう、財政再建策の道筋を示すことである。
2020年には基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にするというのが国際公約のはずだが、そこに至る道筋がまったく描けていないのが現状だ。このまま行けば、消費税増税分もどこかに消えてしまう可能性すらある。安倍政権には財政再建の能力なしと判断されるとそれこそ本当に「日本売り」になって、円安・株安・債券安のトリプル安に襲われる可能性すら出てくる。
そこまで行くにはもう少し時間があると思っていたが、この1月の数字が、冷水を浴びせたような形だ。時限爆弾は確実に時を刻んでいるのである。
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