[宮家邦彦]<ウクライナ危機後の中欧・東欧政治>欧州各国の伝統的ナショナリズムは他者に不寛容[外交・安保カレンダー(2014年4月7-13日)]
宮家邦彦(立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表)
今週の原稿はフランクフルト発羽田直行便の中で書いている。たまたま月曜が移動日となり、掲載が遅れたことをお詫び申し上げる。それにしても便利になったものだ。関係者の方々には申し訳ないが、羽田発着の国際線が増えてくると成田まで行くのが億劫に感じられる。この際ワシントン便も羽田発着になると良いのだが・・・。
今回はパリから、ロンドン、ベルリン、プラハを回ってきた。チェコまで足を伸ばした理由は、ウクライナ危機後の中欧・東欧政治の実態を少しでも感じ取りたかったからだ。勿論、ドイツ語もロシア語も話さない筆者に何が分かる?と言われれば身も蓋もないが、プラハから見ると東西欧州各国のホンネらしきものが見えてくるので面白い。
以下はあくまで筆者個人の独断と偏見だが、ここ欧州中央部の列強による覇権争いを理解するには、少なくとも17世紀の30年戦争まで遡る必要があるようだ。更に詳しく知りたければ、ゲルマン民族の大移動から始めなければならない。今回は外務公務員試験受験以来、久し振りで欧州外交史を勉強し直す有意義な出張となった。
チェコだけでも波乱万丈の歴史がある。1618年以降の宗教戦争とハプスブルグ家の支配、1918年からの第一共和制と1938年のナチス・ドイツによる侵入・占領、1948年の社会主義化と1968年のプラハの春、その後のソ連崩壊による独立、スロバキアの分離独立、NATO、EU加盟。チェコにとっては現状こそがベストの国際環境だろう。
欧州の不幸な中小国といえばポーランドだろうが、独露の狭間で苦悩する点ではチェコ、スロバキア、ハンガリーも同様だ。実際、四カ国はV4という地域国家グループを作っている。彼らはドイツもロシアも全く信頼していない。経済的にはドイツに依存せざるを得ないが、決して魂は売り渡さないという矜持が強く感じられた。
今はロシアのクリミア侵略ばかりが批判されるが、独の周辺諸国はベルリンと和解しても、過去は決して忘れていない。欧州各国の伝統的ナショナリズムは必ずしも他者に寛容ではなく、実に強靭で、時には有害ともなり得る。独仏和解は必ずしも永遠ではないかもしれない、とすら感じた。この直感が間違っていることを祈るばかりだ。
最後にウクライナの行方について。最近もロシアはウクライナ国内への介入を止めようとはしていないが、このまま一気にウクライナ南部の併合にまで進むかどうかについて、欧州の専門家の意見は割れていた。
例えば、もし独露が密約を結び、ドイツが露のクリミア併合を黙認しウクライナの EU、NATO加盟に反対する代わりに、ロシアが当面更なる侵攻は行わないことで手を結んだら、欧州諸国は勿論、米国ですら手の出しようがない。万一、これが現実となれば、ウクライナ情勢は当面変化なしということになるのだが・・・。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きはキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
【あわせて読みたい】
- <G8からロシアが抜けG7に>アメリカ中心の「G7の無力」を示すだけにすぎない?(古森義久・ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
- <ロシアのウクライナ侵攻>口頭だけの警告や抗議に終わる?オバマ政権の動向が抱える危険性(古森義久・ジャーナリスト)
- <「クリミア併合」急ぐプーチン>欧米に打つ手はあるのか 金融市場は大荒れの予感(藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)
- <ウクライナ危機の対処が試金石>アメリカが失速する今だからこそ問われる日本外交(藤田正美・元ニューズウィーク日本版編集長)
- <朝鮮総連は大使館ではない>任意団体を「事実上の大使館」と表現する日本メディアも問題(朴斗鎮・コリア国際研究所所長)