<朝鮮総連は大使館ではない>任意団体を「事実上の大使館」と表現する日本メディアも問題
2014年3月30~31日に実施された日朝協議で北朝鮮側代表の宋日昊大使は、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)中央本部(東京都千代田区)の土地建物売却問題を持ち出し、「日朝関係に大きな影響を与える」と言及した。
4月1日には、北京で記者団に、「どのような場合でも総連中央会館を強制売却することはできない」との立場を明らかにし、同問題の解決がなければ両国の関係進展自体が必要ないとの認識も示した。日本が三権分立の国で、政治が司法に介入できない仕組みとなっていることを知りながらの強弁だが、言語道断といわざるを得ない。
そもそも朝鮮総連中央本部会館は、北朝鮮の所有物ではない。在日朝鮮人の所有物件である。「合資会社朝鮮中央会館管理会」が所有し、法的には北朝鮮が介入する余地はない。競売に付されたのは、627億円の負債を返済しないことに起因する。
では、なぜこのような理不尽な主張が外交交渉の場に持ち込まれるのか。その責任の一端は日本側にもある。
日本のメディアや一部政治家は、ことあるごとに朝鮮総連を「事実上の大使館」などと紹介する。元検事で公安調査庁長官であった緒方重威氏さえもそう主張していた。こうした法を無視した誤った主張が北朝鮮を増長させているのである。
朝鮮総連について言えば、法人格を持たない「権利能力なき社団」で、単なる任意団体である。平たく言えばPTAのようなものだ。だから不動産などの財産管理ができないために、さまざまな会社を作り財産管理をしている。以前であれば主に「関東興行」という会社が財産管理をしていた。
それなのに、日本のメディアは相変わらず「事実上の大使館」などと報道し、朝鮮総連の法的地位について誤った認識を日本国民に与えている。一方では、「破壊活動防止法」に基づく調査対象団体とし、他方では「事実上の大使館」とする報道では世界の国々が戸惑うばかりだ。「大使館」が「破壊活動」の調査対象となる国はどこにもない。
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【プロフィール】
1941年大阪市生まれ。1966年朝鮮大学校政治経済学部卒業。朝鮮問題研究所所員を経て1968年より1975年まで朝鮮大学校政治経済学部教員。その後(株)ソフトバンクを経て、経営コンサルタントとなり、2006年から現職。デイリーNK顧問。朝鮮半島問題、在日朝鮮人問題を研究。テレビ、新聞、雑誌で言論活動。主な著書に、「北朝鮮 その世襲的個人崇拝思想−キム・イルソンチュチェ思想の歴史と真実」「朝鮮総連 その虚像と実像」など。その他論考多数。