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.国際  投稿日:2019/11/29

トランプ弾劾公聴会で民主党不利に


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・弾劾公聴会の結果、世論の弾劾への賛否が逆転。反対が上回る。

・特に2020年大統領選を左右する無党派層で弾劾「反対」が急増。

・民主党内からも弾劾に疑問の声。民主党の期待とは異なる展開に。

 

米国議会でのトランプ大統領の「ウクライナ疑惑」に関する民主党主導の弾劾公聴会が第一段階を終えた11月下旬、一般アメリカ国民の弾劾支持が確実に減ったことが一連の世論調査で判明した。合計5日間、12人の証人によるトランプ大統領への批判的な証言でも決定的な新事実がなにも出なかったことも民主党側の糾弾を強めることにはならなかったようだ。一方、共和党側はトランプ支持をさらに強め、民主党の攻勢を「魔女狩り」として反撃の構えを強めている。

▲画像 米下院情報特別委員会・弾劾調査公聴会で宣誓する証人。(2019年11月21日)出典: YouTube; House Intelligence

下院情報特別委員会での一連の弾劾公聴会が11月20日に終わってからの一連の世論調査結果は民主党を失望させた。

クイニパック大学の全米世論調査では10月にはトランプ大統領弾劾と解任に賛成が48%、反対が46%だったのが、11月下旬には賛成45%、反対48%と逆転した。

エマーソン大学アメリカ政治研究所による全米世論調査では11月下旬には弾劾に賛成が43%、反対が45%で、10月の同じ調査での賛成48%、反対44%からの逆転が起きたことが同様に判明した。

他の世論調査でも、トランプ大統領弾劾の運動の先頭に立つCNNテレビが実施した調査を含めて、公聴会の結果、一般アメリカ国民が大統領の弾劾や解任に賛成を増したことを示す数字はまったく出なかった。

とくに最新の調査では大統領選挙で動向が重視される無党派層での弾劾反対が高まったことが民主党側に不利な材料となった。エマーソン大学での同調査では無党派層での大統領弾劾への反対が49%と、賛成の34%を大きく上回ったことが注目された。

多数の世論調査結果を総合する調査機関「538」の集計でも無党派層の間での弾劾賛成が10月には47%だったのが、11月下旬には41%にまで減少した。

反トランプ傾向の強いネット報道機関の「ポリティコ」が主宰した世論調査でも、「無党派層の弾劾反対は11月下旬の時点で、これまでのすべての調査結果よりも高くなり、47%を記録した」と発表された。同じ機関のつい1週間前の調査では弾劾反対が37%だった。公聴会が開かれた結果、弾劾への反対が急増したといえる。

2020年の大統領選挙では共和、民主の両党のいずれにも支持を鮮明にしていない無党派層の動向が非常に重要となる。その無党派層で共和党のトランプ大統領の弾劾への反対が高まることは当然ながら、民主党への懸念の材料となる。

こうしたアメリカ国民一般の弾劾に対するわりに冷淡な態度は公聴会での一連の証言の内容と当然、密接な関係があるといえる。

▲写真 弾劾公聴会を経てトランプ大統領弾劾に疑義を表明した民主党のブレンダ・ローレンス下院議員。出典:米下院ホームページ

下院民主党のブレンダ・ローレンス議員(ミシガン州選出)は11月25日の地元新聞とのインタビューで「一連の証言をよく聞いたが、大統領の弾劾に値する発言はなかったから、トランプ氏に対する措置は弾劾ではなく譴責で適切だ」と言明し、波紋を広げた。民主党側内部にもこの弾劾への手続きに対する懐疑があるわけだ。

▲画像 米下院情報特別委員会での弾劾調査公聴会で発言する共和党・デビン・ヌーナス議員(2019年11月21日)出典: YouTube; House Intelligence

一方、共和党側は公聴会でも下院情報特別委員会の筆頭メンバーのデビン・ヌーナス議員(カリフォルニア州選出)が先頭に立ち、「この公聴会は民主党側の魔女狩りであり、茶番だ」という趣旨の反撃を繰り返した。下院の共和党議員はいまのところ一致結束してトランプ大統領支持の構えを崩していない。また上院でも多数を占める共和党議員は大統領支持の団結を示しており、この「ウクライナ疑惑」での弾劾手続きは民主党側の期待とはかなり異なる方向へ展開しているといえそうだ。

トップ写真:感謝祭を前に「七面鳥恩赦式」に臨んだトランプ大統領。民主党の弾劾調査を揶揄するジョークを飛ばす余裕を見せた。(2019年11月26日 ホワイトハウス)出典: Flickr; The White House (Public domain)


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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