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.国際  投稿日:2019/3/14

ペロシ、トランプ弾劾不賛成


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視 」

【まとめ】

・民主党ペロシ議長「トランプ大統領弾劾に賛成ではない」と表明。

・有権者の多くが大統領弾劾を望まず。弾劾手続き入り見送りへ。

・トランプ批判はよいが大統領の座追われるとの断言は実害あり。

 

【注:この記事には複数の写真が含まれています。サイトによっては全て見ることができません。その場合はJapan In-depthのサイトhttps://japan-indepth.jp/?p=44652でお読み下さい。】

 

「私はトランプ大統領の弾劾には賛成ではない」――アメリカの連邦議会下院で野党の民主党を率いるナンシー・ペロシ議長の発言が大きな波紋を広げた。

 

民主党の攻撃で追い詰められ、元顧問弁護士の爆弾証言で苦境に陥り、「ロシア疑惑」の最終報告で打撃を受けるとされるトランプ大統領に対しては弾劾の展望が日本の識者たちの間でさえ幅広く語られてきた。だが議会でその手続きのカギを握る民主党の最高指導者が明確に弾劾措置の開始への反対の意向を表明したのだ。この動きはミスの多い日本でのトランプ・ウォッチにもさらなる教訓となりそうだ。

▲写真 ナンシー・ペロシ米下院議長 出典:House Speaker Nancy Pelosi facebook

ペロシ議長のこの弾劾反対発言は3月11日付のワシントン・ポストで大きく報道された。同紙のインタビューに応じたペロシ議長は次のように語ったという。

 

「私は大統領弾劾には賛成ではありません。私のこの発言はニュースでしょう。なぜならこの意見を私はこれまで報道陣に語ったことはないからです。しかしいまこの場で質問を受けたので、これまで考えてきたことを話しましょう

 

大統領弾劾はこの国にとって、あまりにも分裂をもたらします。だからこれから超党派で納得できる圧倒的な新事実でも出てこない限り、その弾劾という道を歩むべきではない。そんなことをすればこの国は本当に割れてしまう。トランプ大統領にはそれほどの(危険を冒す)価値がありません」

 

報道されたペロシ議長の言葉は以上だったが、その内容はきわめて明確かつ断固たる意思表明だった。要するに民主党としては大統領弾劾の措置はとらない、というのだ。この発言の意味は重い。なぜなら大統領を辞任に追い込むための弾劾の手続きは連邦議会のまず下院で始められねばならないからだ。

 

規則では下院議員の過半数の賛成があれば、大統領の弾劾の手続きをとることができる。いまの下院は周知のように民主党が過半数を制する。だから民主党議員たちが弾劾手続きをスタートさせることは可能だし、弾劾で有罪との判決を下し、その判決を上院に送ることもできるわけだ。ただし上院でさらに大統領は有罪だと判定し、弾劾による解任を決めるためには100人の議員のうちの3分の2、つまり67人の賛成を必要とする。

 

この手続きの流れのスタート点で攻める側の民主党のリーダーであるペロシ議員が「弾劾はノー」という意向を明言したことの意味は大きい。下院での弾劾手続きはまず始まらないという見通しを印象づけたことになる。

 

ではなぜ下院の民主党最高指導者のペロシ議員が弾劾に背を向けたのか。本人は「国をあまりに割ってしまうから」と理由を説明した。その本音としては少なくとも二つの点が考えられる。

▲写真 トランプ大統領 出典:The White House flicr (Public domain)

第一には一般有権者の多くが大統領弾劾を好まないという事実である。

 

ペロシ発言と同時に発表されたアイオワ州の民主党支持の有権者の世論調査でこれからの国政において「弾劾を期待する」と答えた人が全体の22%、「医療保険の整備を期待する」が81%という結果が出た。

 

全米レベルの世論調査でも、大統領弾劾は望まないという意見がいつも多数派を占めてきた。だから昨年11月の中間選挙でも民主党側は「トランプ大統領弾劾」をまったく打ち出さなかった。アメリカ国民一般の心情として自分たちが自由な選挙で選んだばかりの大統領を議会に解任させるという概念に抵抗があるのだろう。

 

第二には弾劾決議が上院で可決される見通しはまずないという展望である。

 

上院で弾劾を成立させるには全議員の3分の2の賛成が必要であることはすでに書いた。いまの上院は与党の共和党が51議員、民主党が49議員という構成である。共和党はトランプ氏を大統領へ推した政党だから、その解任にはまず賛成はしない。67人の弾劾必要票にははるかに及ばないのである。

 

このへんの見通しは国政の場では自明とされている。民主党のビル・クリントン大統領が弾劾されかかったときは上下両院ともに野党の共和党が多数を占めていた。下院では弾劾決議は過半数で可決された。だが上院では否決されてしまった。まして2019年も2020年も上院は共和党が多数を占めるのだ。だから弾劾の可決の可能性はまずないのである。

▲写真 トランプ大統領の一般教書演説が行われた時の連邦議会の様子(2019年2月5日)。下院は民主党が、上院は共和党が多数を占める。 出典:The White House flickr (Public domain)

ペロシ議員はこのへんの実態がよくわかっているからこそ、弾劾には反対という意向を明確に表明したのだろう。この構図はトランプ政権の誕生当時からはっきりとしていた。ましてトランプ大統領がホワイトハウス入りした2017年1月には連邦議会は上下両院とも与党の共和党が多数を保っていた。だから下院でも大統領弾劾の決議は通らないことは明白だった。その下院で今回は民主党が多数を制したのだが、なお上院では共和党が多数なのである。

 

だがわが日本ではトランプ大統領の登場の当初から一部の「アメリカ通」とされる有識者たちが「弾劾は確実」という予測を堂々と語っていた。トランプ大統領の人格や政策を非難することは大いに結構だが、大統領の座を追われてしまうという予測を断言することは実害をもたらす。その理由は簡単、事実を事実どおりにみていないからである。

トップ写真:トランプ大統領と握手をするナンシー・ペロシ下院議長(2019年2月5日 米国議会議事堂)出典:The White House facebook

 


この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「危うし!日本の命運」「中・韓『反日ロビー』の実像」「トランプは中国の膨張を許さない!」など多数。

古森義久

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