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.国際  投稿日:2019/12/6

ペルーフジモリ氏長女政界復帰か


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・贈賄事件をきっかけに政府と議会が対立、議会解散で大混乱に。

・1月に議員選が行われるが、問題は山積みで不透明さ増す。

・政界復帰が確実視されるケイコ氏の一挙手一投足に目が離せない。

 

南米ペルーで不正資金疑惑に関与したとして1年余り身柄を拘束されていた同国の有力政治家ケイコ・フジモリ氏(フジモリ元大統領長女)がこのほど、釈放された。混迷を深めるペルー政治にどんな影響を及ぼすのか、ケイコ氏の出方が注目される。

 

■ 大統領の議会解散で大混乱に

政情混迷の背景には汚職対策をめぐる政府と議会との根深い対立がある。ペルーではブラジルの建設大手「オデブレヒト社」の贈賄事件に関与した容疑で、歴代4人の大統領や有力政治家らが次々と検察の追及を受けている。

ケイコ氏も過去の大統領選でオデブレヒト社から約120万ドル(約1億3000万円)の不正資金を受け取った容疑などで、昨年10月末からリマ郊外の女性刑務所で身柄を拘束されていた。

昨年3月、ビスカラ現大統領は汚職容疑で辞任したクチンスキー前大統領の後を受け副大統領から昇格、政治・司法改革に着手。これに対し、ケイコ氏を党首とする最大野党「フエルサ・ポプラル」(FP)が多数派占める議会は大統領主導の改革に反発、とりわけケイコ氏の身柄拘束後はFPと大統領・司法当局側の対立がエスカレート。今年9月末、憲法裁判所判事任命問題のこじれから、大統領は議会解散という非常手段に打って出た。

FPなど野党勢力は大統領による「クーデター」と激しく非難、ビスカラ氏の大統領職務停止を決議し、アラオス副大統領を暫定大統領に指名した。しかし、その直後に陸海空の3軍と警察が大統領支持を表明したため、副大統領は暫定大統領就任を自ら撤回するなどペルー政治は大混乱に陥った。

▲写真 ビスカラ大統領 出典:flickr photo by Sun World 2019

 

■ 不透明さ増す来年1月の議員選挙

議会解散直後、ビスカラ大統領は来年1月26日の国家議員選挙実施を突如発表。議会側は大統領による議会解散を「憲法違反」として憲法裁に訴え、審理が行われることになった。ただ、憲法裁の最終判断が出るのは来年1月末とされ、とりあえず選挙は実施される運びだ。しかし、この選挙に関しては不透明な点が多い。選挙実施後に違憲の判断が出された場合、どのような事態になるのか。また、この選挙で選出される国会議員の任期は解散議会議員の残り任期である2021年7月までの1年半と異常に短い点も問題視されている。加えて2021年には新たな大統領選と国会議員選挙が実施される予定であり、この間、不安定な政情が続くのは必至。

 

■ 「政界復帰は確実」

こうした政治混迷化の中、憲法裁は11月25日、ケイコ氏側が出していた人身保護請求を認め、釈放を決定。ケイコ氏は出所に際し「当分は家族との時間を過ごす」と語り、政治活動を再開するかどうかは明言しなかった。

釈放によってケイコ氏の容疑が晴れたわけではなく、捜査は継続されるが、「彼女は依然としてFPの党首であり、政治の表舞台への復帰は確実」(ペルー有力紙「エル・コメルシオ」)との見方が有力。ケイコ氏は2016年の大統領選の決選投票で惜敗したものの、FP党首として議会を牛耳ったが、自身の不正疑惑の広がりなどから人気が急低下、支持率が数%台にまで落ち込んだこともある。一時は「フジモリ主義終焉の始まり」ともささやかれた。ところが、ごく最近のリマの世論調査では支持率が10%台まで回復するケースも見られる。一方、ビスカラ大統領の支持率は議会解散直後には80%近くまで急上昇したが、11月下旬の世論調査では60%に低下した。こうした世論の微妙な変化もケイコ氏の政界復帰への追い風になるのは間違いない。

 

■ 次期大統領選目指すとの情報も

ケイコ氏の釈放を機にFP内ではオデブレヒト社贈賄事件担当の検察官や同氏の身柄拘束を命じた裁判官に対し訴訟を起こすべきだとの声も上がっており、ケイコ氏の“逆襲”が始まるかもしれないとの憶測も流れている。ペルー政界では「ケイコ氏の釈放でFPが勢いづき、反転攻勢に出るのは確実」「1月の国会議員選挙は幹部連中に任せ、自分は2021年の大統領選出馬に向け態勢の立て直しを図るのがケイコ氏の戦略」など、さまざまな情報が乱れ飛ぶ。

検察側は、ケイコ氏の釈放を認めた憲法裁の決定に異議をとなえ、取り消しを求めるなどあわただしい動きを見せている。ケイコ氏は釈放後直ちに、在任中の人権侵害などの罪で25年の禁固刑で服役中の父親、フジモリ元大統領の収監先を訪れ、長時間話し合った。フジモリ元大統領は2年前、恩赦を受け一時自由の身となったものの、裁判所が恩赦無効と判断、今年1月からが昨再び収監されている。

現地メディアは「父親と面会では政治関係の話はしなかったとケイコ氏が語った」と伝えたが、FP幹部の一人は「党の再建と自身の政界復帰に関しケイコ氏が父親に助言を求めたのは言うまでもない」と述べている。ケイコ氏の“逆襲”ののろしが上がるかどうかはともかく、「再び彼女の一挙手一投足に目が離せなくなる」(リマの有力政治アナリスト)のは確かだろう。

(了)

トップ写真:フジモリ・ケイコ氏 出典:flickr photo by aiko300


この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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