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.国際  投稿日:2020/1/6

「アフガン・ペーパー」が語る真実


植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)

「植木安弘のグローバルイシュー考察」

【まとめ】

・米国のアフガン戦争の真実「アフガン・ペーパー」が公開。

・戦争の目的が何か、不明のまま続いているとの認識広がる。

・米国の失敗は、アフガニスタンを全く理解していなかったこと。

 

ワシントンポスト誌は、昨年12月に「アフガン・ペーパー」を公開した。18年に渡る米国の最も長い戦争で、ブッシュ政権からオバマ政権、現在のトランプ政権に至るまで、アフガニスタンでの米国の戦争の真実を国民に知らせてこなかったとしている。この戦争が最早米国が勝てるものにならないという事実を隠し、あたかも進展を見せているかのようにひた隠しにしてきたというものだ。

この主張の根拠を、米国が勝てない根本的な理由を連邦政府が調査したプロジェクトで集めた文書をワシントンポスト誌が情報公開法に基づいて集めた2000ページ以上に上る文書に求めている。この文書は、アフガニスタンでの戦争に直接関与した軍の指揮官や外交官、人道支援関係者、それにアフガニスタンの政府関係者など400人以上へのインタビューに基づいている。

多くの関係者が口にしている共通点は、「この戦争の目的が何か、何を達成しようとしているのか分からない」ということである。当初は2001年の911テロ攻撃の主犯アルカーイダを匿っていたアフガニスタンのタリバン政府を倒し、アルカーイダをせん滅させるという明確な目的があり、国際社会のサポートも得ていた。

しかし、戦争が長引くにつれ、その目的やミッションが変わり続け、しまいには米国の戦略に対する懐疑的見方が強まってきたが、軌道修正が出来ずにいた。そして、これまで2400人に上るアメリカ人がこの戦争で死んでいるのにも関わらず、機能マヒに陥った状況をアメリカ国民に知らせておらず、多額のお金を無駄遣いしているというものである。

▲写真 アフガン国家治安部隊に投稿するタリバンの兵士 出典:isafmedia

ブラウン大学の戦費プロジェクトが計算した額を引用し、米国は、2001年以来国防省、国務省、国際開発庁(USAID)だけでも9340億ドルから9780億ドルをつぎ込んでいるとしている。

戦争による死者は157,000人と推定されている。アフガニスタンの治安部門(軍や警察)の死者は64,124人、文民が43,074人、タリバンなどの反政府勢力の死者が42,100人。これに対し、米国の死者は、請負業者が3,814人、軍人が2,300人、NATOや連合軍が1,145人、人道支援者が424人、ジャーナリストなど報道関係者が67人としている。いずれも推定である。

米国の戦略の失敗の理由には、まずアフガニスタンという国を全く理解していなかったということがある。当初「国家再建(nation-building)」を嫌っていたものの、自らのイメージで民主主義国家を構築するという誤ったアプローチを取った。

アフガニスタンは元々中央政府の力は弱く民主主義の土台も脆弱なものであった。また、多くの資金を有効に使う能力のない政権につぎ込むことにより、汚職を蔓延させ、国民の支持を失うはめとなった。世界の8割を占めるアヘン生産を破壊しながら代替となる資金源を提供できなかったことにより、民衆のサポートを失っていった。警察なども訓練したがまともな警察組織には育てられなかったとしている。

歴代の米政権はアフガニスタンからの撤退をスローガンにしてきたが、泥沼から抜け切れる状況にはない。タリバン側と直接交渉を行い和平への道を探ってきたものの、民主選挙で選ばれたアフガン政権を見捨てることもできない。米国は本当にこの泥沼から抜け出すことが出来るのか。真実を無視してきたことが明確な戦略を打ち出せないジレンマに米国を落とし入れている。

トップ画像:アフガニスタン紛争 2007年 サンギン地区 出典 米国防総省


この記事を書いた人
植木安弘上智大学総合グローバル学部教授

国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に『国連広報官に学ぶ問題解決力の磨き方』(祥伝社新書)など。

植木安弘

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