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.国際  投稿日:2023/12/15

トランプ返り咲きならウクライナ失われる 【2024年を占う!】国際: 2つの戦争の行方 その2 ウクライナ戦争


植木安弘(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)

「植木安弘のグローバルイシュー考察」

【まとめ】

・戦闘長期化は露に有利。欧米に支援疲れ。トランプ返り咲きならウクライナが失われる可能性も。

・ウクライナ指導部内の緊張関係が軍事戦略や戦況に影響を与える可能性。

・米共和党の地盤に多くの軍需産業があり、ウクライナ支援で妥協が生まれる余地あり。

 

ロシアのプーチン大統領は12月1日、17万人の新たな動員令に署名し、12月8日には来年3月の大統領選挙に出馬する意向を表明した。終身大統領を目指し、ウクライナでの戦争を長期化させれば勝利するとの確信を持っているようだ。

これには幾つかの理由がある。先ず、ウクライナの反転攻勢が期待通りの成果を上げておらず、逆にロシア側もドンバス地方で攻勢をかけ戦争の長期化の準備をしていることだ。膠着状態が続けば、その間にロシアの軍事産業が勢いを取り返し、北朝鮮やイランなどからの軍事サポートを基に総力で優るロシアが有利になる。

さらに、米国や欧州でのウクライナ支援疲れがある。特に米国は、共和党の右派がウクライナへの大規模な軍事的・資金的サポートに後ろ向きになってきており、これを不法移民対策とリンクさせて来年の大統領選挙や議会選挙の政治道具として使おうとしている。そして、トランプが次期大統領に返り咲けば、プーチンとの取引でウクライナが失われる可能性が出てくる。

共和党は元々は対ロシア強行路線だったが、実質的にトランプ党となっている。トランプは大統領時代プーチンの思うように懐柔された経緯がある。ロシアが米国の大統領選挙に干渉し、トランプに有利な情報工作をしたことも一因とされている。2018年7月のヘルシンキでのサミット会合でもトランプは自国の諜報機関の情報よりプーチンの立場を擁護したとされる。米国内ではトランプが勝てば独裁者として振る舞い民主主義の根幹を揺るがしかねないとの懸念が強く出されている。そのため、ウクライナでもプーチンの思うような結果になるのではないかとの見方が強い。

▲写真 G20大阪サミットでの首脳会談に臨むプーチン露大統領(左)とトランプ米大統領(右)(2019年6月28日 大阪市)出典:Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images

一方、EU(欧州連合)はウクライナの加盟協議を承認し、ウクライナのロシア離れを加速させようとしている。しかし、軍事的支援やその基盤となる財政面で親ロシアの立場を維持しているハンガリーのオルバン首相の反対などもあり、さらにインフレや移民の流入で各国で反政府・反移民の右派勢力が力をつけてきていることもあって、ウクライナへの支援に暗雲が出始めている。ただ、EUにとってウクライナ支援はEU各国の安全保障にも繋がるだけに、財政的支援とEU加盟協議は継続していくだろう。

▲写真 ゼレンスキー大統領(2023年11月4日 ウクライナ・キーウ)出典:Photo by Viktor Kovalchuk/Global Images Ukraine via Getty Images

また、気がかりなのがウクライナ国内でのゼレンスキー大統領と前レズニコフ国防相ら側近との間の緊張関係である。レズニコフは9月に国防相職を解かれたが、反転攻勢が思うような成果を上げずにいる中で軍事戦略で相違が表面化したことや軍の調達をめぐる汚職などが背景にあるとされている。国内の指導体制に揺らぎが出てくると、軍事戦略や戦況に影響を与える可能性が出てくる。

来年の米国の大統領選挙は、単にウクライナへの影響だけでなく、米国の民主主義のあり方や国際政治全般に大きな影響を与えうるため、来年の一番の関心事になるだろう。バイデン大統領が再選されれば、ウクライナへの軍事的・財政的支援は継続されるだろうが、当面共和党がどこまで歩み寄れるか関心が持たれる。

ウクライナへの財政的支援の多くは、実は米国内での軍事物資の補充と近代化に当てられるので、共和党の地盤にも多くの軍需産業があるため、何らかの妥協が生まれる余地はある。その後は大統領選での結果次第と言える。

ネタニヤフ政権、紛争後支持失う恐れ 【2024年を占う!】国際:2つの戦争の行方 その1ガザ戦争 はこちら

トップ写真:ウクライナのバフムトに展開するウクライナ軍(2023年12月8日)出典:Kostya Liberov/Libkos/Getty Images




この記事を書いた人
植木安弘上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授

国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に「国際連合ーその役割と機能」(日本評論社 2018年)など。

植木安弘

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