ネタニヤフ政権、紛争後支持失う恐れ 【2024年を占う!】国際:2つの戦争の行方 その1ガザ戦争
植木安弘(上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授)
「植木安弘のグローバルイシュー考察」
【まとめ】
・安保理許諾の下、多国籍軍を派遣し一定期間暫定統治を行い、その後パレスチナ自治政府に統治を移行する案はイスラエルが容認せずか。
・ネタニヤフ政権は国内外で大きな批判を受けており、紛争後政権が支持を失う可能性。
・イスラエルの存続とパレスチナが周辺国に脅威を与えないような枠組み作りを考える時期に来ている。
国際政治に大きな影響を与えている戦争が二つ続いている。ガザでの戦争とウクライナでの戦争だ。ガザでの戦争は比較的短期で終わるだろうが、問題はその後である。ウクライナでの戦争はウクライナの反転攻勢が当初の期待通りには進展しておらず、膠着状態にある。この戦争はまだ終わりが見えず長引くであろう。
ガザ戦争
ガザでの戦争は10月7日のハマスのイスラエル攻撃と人質のガザへの連れ去りで始まり、短期間の人道的休戦の後イスラエルのガザ南部への攻撃再開で再度深刻な人道危機をもたらしている。東京都23区の約6割ほどの狭い領土に220万人のパレスチナ人が住んでいる。北部から南部に避難した民間人も南部での戦闘拡大で行き場を失っている。12月中旬までにパレスチナ人の死者は約2万人まで膨れ上がり、そのうちの3分の2が女性や子供と言われている。
ハマスの攻撃によるイスラエル側の民間人の犠牲者は死者だけでも1200人程度、それに200人を超える人質が捕えられた。12月初めの戦闘の人道的一時停止で人質のうち70人程度と外国籍の人質の多くが解放されたが、残りの人質の消息は分かっていない。イスラエルは力づくでも人質を解放する意向だが、ハマスは人質を取引の材料としており、最後まで抵抗するであろう。
イスラエルはハマスの殲滅を目標に据えており、少なくともハマスの軍事部門とその指導者の壊滅は当面の軍事目標になっている。しかし、ハマスは占領下における反イスラエルの思想・社会運動でもあり、犠牲者が多く出れば出るほど支持は広がると思われる。
イスラエルは、約2ヶ月でガザ北部をほぼ制圧した。南部を制圧するのもほぼ同じような期間で達成できるとみている。ネタニヤフ首相は、ガザ制圧後当面ガザを統治する意向を示しているが、これに対しては米国が反対している。イスラエルに対しては低レベルでの抵抗が長く続くことが予想され、イスラエルの占領政策には国際社会、特にアラブ諸国からの批判が大きくなることが予想される。低レベルの抵抗が長期的に多くの損失を生むことは、イラクやアフガニスタンで経験していることである。
では、イスラエルの占領統治以外の選択はあるであろうか。一つ考えられるのは、国連安保理の許諾の下に多国籍軍を派遣して一定期間暫定統治を行い、その後パレスチナ自治政府に統治を移行するというものだが、どの国がそのような多国籍軍を指揮出来るか、またパレスチナ自治政府の統治能力も疑われることから、イスラエルがそのような移行プロセスを容認するかは予断できない。
写真)ガザの戦闘で死亡した、元陸軍参謀総長の息子(25)の葬儀に出席したネタニヤフ首相(2023年12月8日 イスラエル・ヘルツリーヤ)
出典)Photo by Alexi J. Rosenfeld/Getty Images
ガザ戦争は中東の国際政治に大きな影響を与えたが、危機が機会を生むように、再度中東の和平プロセスを真剣に考え直す機会を与えている。国連が提唱した「2国家解決」案は、オスロ和平プロセスが挫折した後、特にネタニヤフ政権で大きく後退した。極右政党を政権に引き込み連立政権を樹立したが、ヨルダン川西岸における入植地の拡大を続け、パレスチナ人の生活基盤を脅かしている。今回の紛争への対応で、ネタニヤフ政権は国内外で大きな批判を受けており、紛争後政権が支持を失う可能性が高くなっている。
米国もアラブ諸国やイスラム協力機構との会談で将来的にパレスチナの国家樹立に向けて動く姿勢を見せている。そのような国家の樹立にはまだ相当の時間がかかるだろうが、イスラエルの国家としての存続とパレスチナがイスラエルを含む周辺国に脅威を与えないような枠組み作りを考える時期に来ている。
(トランプ返り咲きならウクライナ失われる 【2024年を占う!】国際: 2つの戦争の行方 その2 ウクライナ戦争 はこちら)
トップ写真:ハマスによるテロに対するイスラエル軍の報復空爆で負傷し、病院に運ばれてきたガザの子どもたち(2023年10月24日 ガザ地区・ナセル医療病院)
出典:Photo by Ahmad Hasaballah/Getty Images