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.国際  投稿日:2023/12/21

保守主義の拡大とリベラリズムの後退【2024年を占う!】国際情勢


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・2024年にはトランプ前大統領の主唱する保守主義が勢いを増す。

・自由民主主義陣営では同時にリベラリズムが後退する。

・民主主義陣営でも軍事力の重要性への認知が広がる。

・各国が自国の主権をこれまで以上に重視する。

 

新しい年の国際情勢はどうなるのか。

自由民主主義陣営での潮流としてまず念頭に浮かぶのは保守主義の拡大である。同時にリベラリズムの後退だともいえよう。この場合に保守主義、リベラリズムそれぞれの定義づけが欠かせない。

保守主義とは国家運営のうえでは、自国の利益の最重視、政府規制の緩和、軍事力の効用の認識などが柱だといえる。反対にリベラリズムとは、国際協力の重視、国内での政府規制の強化、軍事力の軽視などが特徴だろう。

この保守、リベラルの区分はアメリカでの基準に従っている。保守主義といえば、まあ万国共通のイデオロギーといえるが、リベラリズムはアメリカとヨーロッパでは意味がかなり異なる。この報告では私自身が慣れ親しんできたアメリカでの定義づけを採用する。

だからこの保守とリベラルの違い、そして衝突はアメリカでのトランプ前大統領とバイデン現大統領の対比がショーウィンドーだといえる。そしてこの対比を起点に世界を眺めた場合、2024年にはトランプ前大統領の主唱する保守主義が勢いを増す、というのが私の予測である。

国際安全保障面でのアメリカのリベラリズムの失態はバイデン政権下では明白だった。まず2021年8月のアフガニスタンからのアメリカ軍全面撤退の大混乱、アメリカ歴代政権が支援してきた民主的アフガン政権の崩壊、翌2022年2月のロシアのウクライナ侵略、そして2023年10月のハマスのイスラエル攻撃と、いずれもアメリカ主導の国際秩序を武力で壊す激変はバイデン政権の抑止力の弱化をみせつけた。

バイデン大統領自身がロシアのウクライナ侵攻の直前に、その侵攻には経済制裁のみで対応し、軍事手段は一切とらないと言明した事実はリベラル派のソフト姿勢の典型だった。イスラム・テロ組織のイスラエル奇襲も明らかにイスラエルを全面支援するアメリカの対応を重大な抑止要因とはみない証左だった。

中国の台湾などへの軍事攻勢もバイデン政権下で一気に活発となった。北朝鮮のミサイル連続発射に象徴される好戦的な行動も同じようにバイデン政権下でエスカレートした。

▲写真 週末をデラウェア州ウィルミントンで過ごし、ホワイトハウスに戻ったジョー・バイデン米国大統領(2023年12月19日ワシントン DC )出典:Drew Angerer/Getty Images

トランプ前大統領はこの事態に対して「私の大統領時代の4年間には世界で新たな戦争は一つも起きなかった」と豪語する。確かにトランプ政権は軍事力の増強に精力を注いだ。一方、バイデン政権は民主党リベラル派からの国防費削減の強固な要求に押されて、軍事力軽視の言動をとる。さらにさかのぼれば、軍事侵略に対して、「まず対話を」とするリベラリズムと、「軍事的な対応を排さない」とする保守主義と、歴史的な政治理念の相違が浮かびあがる。

アメリカでは国内問題でもバイデン政権のリベラル的な不法入国者への寛容な政策は2023年末には破綻した。バイデン大統領は中南米から大挙する不法入国者をこの3年間に1000万人ともされるほどアメリカ国内に入れてしまい、あまりの混乱についにトランプ前政権が大幅に推進し、バイデン政権が停止させた「メキシコの壁」の建設の再開を命じてしまったのだ。不法入国にはあくまで寛容にというリベラリズムの失態、自国の保護を優先する保守主義の勝利だといえよう。

この保守の伸張、リベラルの後退という現象はアメリカ以外の国々でも2024年には顕著となるだろう。2023年12月には南米のアルゼンチンで超保守派とされたバビエル・ミレイ氏が新大統領となった。自国の利益を対外政策の中心に掲げるミレイ氏は「アルゼンチンのトランプ」とも呼ばれ、国際協調よりもアルゼンチンの主権を優先させるような政策を打ち出している。

オランダでも反EU、反移民、自国の主権最優先という自由党が11月の総選挙で躍進し、党首のヘルト・ウィルダース氏が首相にもなりそうな状況が生まれた。イタリアで2022年10月に首相に就任したジョルジャ・メローニ女史も明確な保守派で、自国の主権や国益の優先論者だった。

これらアルゼンチン、オランダ、イタリアの保守派政治指導者たちはみなリベラル傾斜のメディアなどからは「極右」というレッテルを貼られていた。だがそれぞれの国でみな国民多数派の信任を得た。「極」ではないことが民主的な選挙で証明されたのだ。これら指導者はみな保守主義なのである。この政治思潮が新年の世界では輪を広げるという展望が確実なのである。

保守主義は軍事力の効用をも重視する。抑止を信奉する。だからトランプ政権がその実例を示したように、自国の安全保障のための軍事力の強化を主唱する。国際紛争を防ぐため、平和を保つためにも、強固な抑止力を支える軍事力を重視する。

この軍事重視の傾向は2023年の世界でも明白になったように、中国、ロシア、イラン、北朝鮮、ハマスなど全体主義、専制主義の国家や集団が軍事力で自陣営の利益を図る行動を現実にとったことへの自然な対応だった。国際秩序の現状を軍事力で変えようとする勢力が出てくれば、現状維持派も軍事力でその無法な行動を阻むことが必要になる。

だから2024年の世界では民主主義陣営でも軍事力の重要性への認知が広がるわけだ。そしてその傾向は明らかにリベラリズムではなく保守主義なのである。

同時に新年の世界では各国が自国の主権をこれまで以上に重視するようになる。専制国家群の侵略に加えて、年来の新型コロナウイルスの大感染がグローバリズムを後退させた。各国がそれぞれ自国の自立性を最重視し、他国との協力や協調への依存を減らさなければならない情勢が2023年末までには明白となったのだ。

他国との協調、さらにはグローバル化の重視よりも、まず自国の主権、自国の主張や利害を、という思考は明らかに保守主義である。その逆方向へのリベラリズムは専制国家勢力が力で膨張してくる情勢下では後退せざるをえないのだ。

2024年に予想されるこの国際潮流のなかで、わが日本がどう動くべきか。その進むべき方向は自然と明確になってくるといえよう。

トップ写真:選挙イベントで演説する共和党大統領候補で元米国大統領のドナルド・トランプ氏(2023年12月19日 アイオワ州ウォータールー)出典:Scott Olson/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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