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.国際  投稿日:2017/1/2

【大予測:米国連外交】混迷、パレスチナ・南スーダン


植木安弘(上智大学総合グローバル学部教授)

「植木安弘のグローバルイシュー考察」

①パレスチナでのイスラエル入植地拡大非難決議―イスラエルは猛反発 

米国の国連外交で一つの大きな変化が起こった。パレスチナ占領地におけるイスラエルの入植地拡大を非難する決議案に関する投票で米国が棄権し、この決議が採択されたことである。イスラエルに不利な決議案をしばし拒否権行使で葬ってきた米国は、オバマ政権の最後で、中東和平に暗い影を落としてきたイスラエルの西岸占領地での入植政策に明確な反対の意を示した。しかし、これはイスラエルの強い反発を招くことになった。

イスラエル政府が許可を出したイスラエル占領下の東エルサレムを含む西岸における新たなイスラエル入植地の拡大問題で、エジプトは国連安全保障理事会(安保理)で、これを非難する新たな決議案を提出したが、これに反対するイスラエルのネタニヤフ首相は、トランプ次期米大統領にこれを支持しないようアピールした。トランプ次期大統領は、自身のフェイスブックやツイートで声明を発表し、エジプトに対してこの決議案を撤回するよう要求した。次期大統領の報復を恐れたエジプトは当初この決議案を延期する旨を発表したが、その後撤回してしまった。

この撤回に対しては、まだ大統領に就任していないトランプが米国の外交に介入したとして米国内でも批判され、オバマ大統領の対応が注目された。イスラエルの入植地拡大で「二国家解決」案の将来を懸念するニュージーランドなどは今年で非常任理事国の任期が切れることもあり、水面下で中東和平交渉の再開を目指す安保理決議案を模索していたが、ここに至って入植地問題での決議案が通る可能性が高いと判断した。エジプトの決議案撤回を受け、マレーシア、ニュージーランド、セネガル、ベネズエラの四ヵ国は、投票に付される直前だった決議案を復活させ、12月23日この決議案が投票に付された。この決議案は賛成14、反対0、棄権1で採択された。米国は棄権に回り、この決議を通した。安保理議場では拍手が沸き起こり、米国の対応を歓迎する姿勢が見られた。

この決議では、イスラエルの東エルサレムを含むパレスチナ占領地での入植地建設は極めて明確な国際法違反であるとの立場が再確認され、また、入植地拡大は「二国家解決」案、そして包括的な中東和平を実質的に履行困難なものにするものだとして、イスラエルに対してこれを撤回するよう要求した。この決議には、民間人に対するテロ行為を含む暴力行為を防ぐ必要性も強調してイスラエルへの配慮もしているが、イスラエルの入植地政策が中東和平交渉を阻害していることへの不満が表れている。

ネタニヤフ首相は、この決議の採択を非難し、国連への拠出金を支払わない、決議案に賛成した国々から大使を引き上げるといった対抗措置を発表した。トランプ次期大統領は、来年1月20日に就任してから即米国の国連政策が変わると警告を発した。その中身に関する詳細は未定だが、国連外交で財政面を中心に攻勢に出る可能性がある。

議会で多数派の共和党も既に国連への財政拠出拒否の対抗措置を検討している。イスラエルはトランプ次期大統領への大きな期待からパレスチナ政策で強硬姿勢を取っているが、そのような強硬姿勢が米国と国連の対立を煽るだけでなく、イスラエルとの関係改善を進めてきたスンニ派のアラブ諸国から反感を買い、中東和平をさらに困難なものにしてしまう可能性が大きくなっている。 

 

②南スーダンへの制裁決議否決、弱まる米国の影響力

米国は、12月23日、亀裂の深まる南スーダンで、キール大統領派とマチャール副大統領派の和解を促し大量虐殺を防ぐ一つの方法として、南スーダンへの武器禁輸と政府側の指導者とマチャール副大統領を対象にした資産の凍結や渡航制限といった「スマート制裁」を含む安全保障理事会(安保理)決議案を投票に付したが、決議採択に必要な9票を得ることが出来ずに否決された。スーダン紛争で和平交渉などに大きな役割を果たしてきた米国の影響力が弱まっていることを示すことにもなった。

この南スーダンへの武器禁輸決議案は、当初11月に決議に付される予定であったが、賛成は15理事国のうち西側の国々を中心とした7票にしか過ぎず、日本やロシア、中国、途上国などが反対したため、安保理決議案採択に必要な9票を得ることが困難な見通しとなり、その投票が遅れていたものだった。

ディンカ族のキール大統領派とヌエル族のマシャール副大統領派の対立が続く南スーダンでは、7月に首都ジュバで激戦が起き、マシャール派がジュバから撤退する事態が起きた。この戦闘では、国際NGO職員も襲撃され、助けを求めたにも関わらず国連PKOのケニア人司令官が救援すべく適切な対応を取らなかったため、国連は「文民の保護」を含む国連PKOの任務不履行を非難し、ケニア人指揮官を更迭した。これに怒ったケニア政府は、1000人に上るケニア部隊を撤退する対抗措置を取った。

安保理は、事態の鎮静化と国連の任務を守るために、8月、地域防護部隊という強制力を持つPKO部隊設立を決議したが、部隊への参加を表明したエチオピアとルワンダはまだ部隊の派遣をしていない。参加の意向を示していたケニアは参加を辞退した。

このような中で、潘基文国連事務総長は、12月19日、事態は悪化しており、即効性のある対応がなされなければジェノサイドにもつながるとの警告を発し、武器禁輸制裁決議の採択を促した。南スーダン南部のエクアトリア地方や西部のバーフル・エル・ガザール州、北部のユニティー州などでは依然戦闘が続いており、国内避難民は187万人に上り、近隣諸国に逃れた難民は115万人と推計されている。国連は2017年には480万人が食料不足になると警告している。

米国は、武器禁輸や責任ある指導者を対象に「スマート制裁」を課すことにより、キール大統領派とマチャール副大統領派の対立に政治的圧力をかけようとしたものだが、南スーダンの和平に影響力を持つ東アフリカ地域機関の政府間開発機構(IGAD:Inter Governmental Authority on Development)は、そのような制裁は事態を悪化させるものだとして反対の意向を表明した。

南スーダンの国連PKOに自衛隊を派遣している日本などは、事態の悪化を懸念し、制裁に反対の意向を示した。米国は、そのような日本の姿勢を公に批判する異例の行動に出た。しかし、「駆け付け警護」部隊が対立が深まり戦闘に巻き込まれるのを恐れる日本政府の姿勢を変えることは出来なかった。

トランプ政権ではアフリカへの関心がさらに後退する可能性がある。和平に向けた努力が停滞する中、南スーダンの状況が大きく改善する兆候は見えていない。


この記事を書いた人
植木安弘上智大学大学院グローバル・スタディーズ研究科教授

国連広報官、イラク国連大量破壊兵器査察団バグダッド報道官、東ティモール国連派遣団政務官兼副報道官などを歴任。主な著書に「国際連合ーその役割と機能」(日本評論社 2018年)など。

植木安弘

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