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.社会  投稿日:2020/3/16

里親委託、自治体は目標設定やり直せ


Japan In-depth編集部(油井彩姫)

 

 

【まとめ】

・里親委託の目標に関する緊急要請が厚労省に提出された。

・全国の自治体の9割が国の示す目標値に達していない。

・里親制度と法律に関する理解を広めていく必要がある。

 

厚生労働省が掲げる里親委託の目標について、9割の自治体が未達であることが明らかになったことを受け、3月16日、国際人権NGOらが、自治体の社会的養育推進計画の策定期限を延長し、目標設定をやり直すよう、厚生労働省に緊急要請を行った。

 

厚生労働省に緊急要請を行ったのは、国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表土井香苗氏や、子どもと家族のメンタルクリニックやまねこ院長の奥山眞紀子氏特定非営利活動法人千葉県里親家庭支援センター理事長木ノ内弘道氏ら。

 

3月16日午後、厚生労働省を訪れ、加藤勝信厚労大臣宛の「『都道府県社会的養育推進計画』の策定期限を延長し、国の目標に沿って目標設定をやり直すよう求める緊急要請」を、自見はなこ厚労政務官に渡した。

 

日本では、両親を亡くした、虐待を受けている等の事情で社会的養護下に置かれている子供たちが約35,000人おり、(2018年度末時点、厚労省発表)そのうち8割が施設に入所している。日本も批准している国連の「子どもの権利条約」では、里親や養親による養育が原則で、施設は最終手段とされており、先進諸外国では常識となっている。

 

また、日本でも2016年の児童福祉法改正で、「子どもの権利」とともに「家庭養育優先原則」が定められ、里親および特別養子縁組を原則とするなどとされた。そこで厚労省は、5年以内に3歳未満の社会的養護下の子どものうち、家庭養育を受けられる子どもの割合を75%まで引き上げるという目標を各自治体に発表した。

 

しかし、現時点で全体の9割の自治体が目標を満たしておらず、国の設定した目標の半分を下回る計画も3割近い状況だ。緊急要請書では「社会的養育が必要な子供達にとって、そして日本の未来にとって危機的状況」と表現した。

 

こうしたことを受け、今回の緊急要請では、

 

・今月末とされている「都道府県社会的養育推進計画」の策定期限を 3 か月ないし 6 か月延長すること

・里親による家庭養育を最も必要としている未就学児、とりわけ 3 歳未満の子どもの里親等委託率に関し、国の示した目標に届かない 自治体は、国の目標に沿って目標設定をやり直した計画を提出すること

を求めた。

 

これに対して自見政務官は、

 

・国として総合的に検討する。

・里親を増やすために里親のサポートが必要である。

・計画を作った自治体の首長にもリーダーシップを取ってもらいたい。

 

と述べた。

 

緊急要請の後、今後どうしたら自治体が動くようになるかというJapan In-depthの質問に対して、奥山氏は「(自治体の)議会や議員に向けての啓発が必要だ」と述べ、地方自治体の里親委託に対する理解が不十分だとの認識を示した。

 

また、土井氏は「家庭養育を受けるのは子どもの権利である。いいことだからやろう、というレベルではなく、法律遵守の観点で必要だ各自治体がこのような(目標未達の)計画を出しているのは、堂々と法律違反すると宣言しているのと同じことだ」と述べ、自治体の不作為を厳しく批判した。

写真)土井香苗氏

©Japan In-depth編集部

 

さらに土井氏は「子ども自身から大きな声が上がることは期待できない。むしろこれまでの制度を支えてきた児童養護施設や児童相談所からの現状維持を望む声が強く届いてしまう。子どもの利益と相反した立場の大人の都合で決めるのは、子どもの権利という観点から見て非常に間違ったやり方だ。そのためにも、政治のリーダーシップが必要だ」と強調した。

写真)奥山眞紀子医師

©Japan In-depth編集部

 

また奥山氏は、乳児院に約3000人の3歳未満の子どもたちがいることに触れ、「家庭は乳児の脳を形成するうえでとても大切というエビデンスがある。約3千人の乳児院の子どもたちは、都道府県に振り分ければ非常に少ない人数だ」と述べ、乳児院にいる子供たちの家庭養育を優先すべきとの考えを強調した。

 

2017年日本財団の「里親意向調査」によると、全国で100万世帯が里親になりたいと回答している。そのうち実際に登録までいきつくのは約3%に過ぎない。それでも、約3万世帯が里親になりうると考えれば目標達成は現実的といえる。

 

とはいえ、里親制度についての一般の理解が十分でないという現実が横たわる。すべての子どもが温かい家庭で愛されて育つ社会にするために、メディアの積極的な情報発信が必要であることはいうまでもない。しかし、何より重要なのは、私たちが児童養護の問題に少しでも関心を持つことなのではないだろうか。

トップ写真)自見はなこ厚労省政務官に緊急要請を手渡す土井香苗氏ら

©Japan In-depth編集部


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