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.政治  投稿日:2020/12/26

自衛隊機のコスパを検証する(前編)


清谷信一(軍事ジャーナリスト)

【まとめ】

・米軍機に比べCPFHが劣る自衛隊機。税金の無駄遣いに。

・空自は法外に低コスパのC-2とその派生型の調達機数見直しを。

・調達・運用見直しで余剰機輸出検討を。修理請負で産業保護も。

航空機の価格は一般に調達費用ばかりが注目されるが、その運用費も装備調達の面からは重要だ。仮に調達単価が安くても、運用コストが極端に高ければライフ・サイクル・コストが跳ね上がり、リーズナブルな調達といえない。運用コストが高すぎれば、部品を買えなくて航空機の稼働率を下げたり、他の予算を圧迫したりする。

調達単価と維持費の両方を見ないと適正な調達機数が設定できない。例えば100機の戦闘機があって、運用コストがずば抜けて高い戦闘機の稼働率が40パーセントであれば、初めから調達数を50機にした方がいいだろう。

あるいは多少性能が劣っても運用コストが低く稼働率90パーセントの戦闘機を調達するほうがいいかもしれない。予算が不足して何割もの機体が地上で遊ぶなら何のために調達するのか、ということになる。

本稿では、「米軍機の飛行時間当たりの経費(CPFHCost Per Flight Hourから自衛隊機のコストパフォーマンスを検討してみたい。

まず戦闘機だが航空自衛隊でも導入されている米軍ではF-35AのCPFHは35,000USD(米ドル)だ。因みにF-16Cが9,703USD、F/A-18Eが10,156USD、タイフーンが18,000USD、ラファールが16,500USD、グリペンが4,700USDである。グリペンのように維持費が安い、というのは大きなセールスポイントになる。

F-35AのCPFHは同じ単発のF-16C、双発のF/A-18Eの3倍とかなり高くなっているが、これはメンテにそもそもコストがかかるステルス機であること、また導入が近年であり、量産効果と整備のノウハウが十分ではないことなどが理由に挙げられるだろう。またグリペンのCPFHが際立って安いことがわかる。

F-35Aは高性能だが、果たして我が国の防衛省の予算額でその性能を発揮できる運用費を捻出できるのだろうか。3自衛隊とも航空機の整備運用予算の確保に四苦八苦しており、哨戒機P-3CやSH-60Jなどのヘリコプターは他の機体から部品を外して、別の機体に充てる、いわゆる「共食い整備」が恒常化している。当然部品を外された機体は飛べないので部隊としての稼働率は低くなる。

財務省によれば空自のC-2輸送機の維持費はF-35Aより高い。であればCPFHも当然高い。実は財務省の資料ではC-2のCPFHが公開されている。これによればC-2のCPFHは約 274万円、米空軍のC-130Jが 約 61.8万円、C-17が 約150.9万円(※1ドル/ 112円 30年度支出官レート)だ。(※参考:『防衛』平成30年10月24日

C-2CPFHC-130J4.4倍、C-171.8にもなる。ペイロード1トン当たりのCPFHは、C-2は10.5万円(26トン)、C-130Jは3万円(20トン)C-17(77トン)は1.96万円である。C-2のペイロード1トン辺りのCPFHC-130Jの約3.5倍、C-175.4と、比較にならないほど高い。

因みに1機あたりのLCC(ライフ・サイクル・コスト)はC-2が 約 635億円、C-130Jが 約 94億円、C-17が 約 349億円である。C-2の1機あたりのLCCC-130J6.8倍、C-171.8である。これがペイロード1トン当たりのLCCになるとC-2は24.4億円、C-130Jは4.7億円、C-17が4.5億円であり、C-2の1機あたりのLCCは、C-130Jの5.2倍、C-17の5.4倍となり、これまた比較にならないほど高い。

調達単価も来年度の防衛省概算要求では1機225億円で、ペイロードが3倍近いC-17と同等である。C-2の調達及び維持費は輸送機としては極端に高いことがわかるだろう。調達単価、CPFHの面からもC-2は極めてコストが高い。

このような極めて高いC-2輸送機を大量に買い、また空自はRC-2やスタンドオフ電子戦機などもC-2ベースで開発している。その分、戦闘機の維持費が圧迫されはしないだろうか。

因みに空自の救難ヘリ、UH-60J(改)は当初、調達単価が23.75億円、LCC(ライフ・サイクル・コスト)が1,900億円とされていた。ところが採用された三菱重工製のUH-60Jの改良型の実際の調達単価は50億円以上で、約2倍である。その後劇的なコスト削減はされていない。かつて筆者の質問に対して空幕は、劇的なコスト削減は無理だと回答している。

通常LCCは機体の調達コストと同じとされている。つまりUH-60J(改)のLCCは2倍、約4,000億円以上となり、これまた戦闘機の運用コストを圧迫しているのではないか。空幕に予算管理能力があるとは思えない。

空自は調達及び運用コストが法外に高いC-2及びその派生型の調達機数を見直すべきだろう。このような機体を電子戦機にまで使用するのは税金の無駄遣いだ。電子戦機ならば例えば空自、海自共同でボーイング737やエアバスA320などの旅客機を採用する方が調達及び維持整備費の面でもはるかに安価に上がる。

また三菱重工の開発が事実上頓挫しているリージョナル旅客機、スペースジェットを利用するのも手だろう。自衛隊用であれば同機の懸案の耐空・型式証明は必要ない。例えば空海自衛隊のC-2やP-1哨戒機の派生型として開発する予定の電子戦機などをこれにすれば、機体単価は4~5分の1程度に過ぎない。さらに政府専用機、早期警戒機E-2Dのシステムを移植した早期警戒機などを開発するなら、10機以上の需要はあろう。

E-2Dは艦載機であり、機体が小さいために居住性が劣悪である。またプロペラ機であるために飛行高度が低く、速度も遅い。機体にスペースジェットなどジェット旅客機を採用するならば居住性が格段に改善してより長時間の任務が可能である。また進出速度も早くなり、より高度を飛べるのでレーダーの探知範囲も広くなる。また敵機に襲われた際の生存性も高くなる。これを輸出することも可能だろう。

仮にこのような提案をE-2Dの製造元であるノースロップグラマンが拒否するのであればサーブやエルビット、IAIなどの早期警戒システムを作っているメーカーと組んでもいいだろう。

無論既に実績のある外国製旅客機を利用した方がコストは安い。だがこのままではスペースジェットの開発は頓挫する。防衛省の予算で延命し、その間に耐空・型式証明をとることができれば、国産旅客機の開発、生産の継続となり、我が国の航空産業の振興になる。特にコンポーネントを担当してきた協力企業の救済にもなるだろう。国家として、また日本の航空業界を考えた場合、スペースジェットの救済は意味があるのでないだろうか。

防衛省のはじめにC-2P-1の派生型ありきでの電子戦機の開発は納税者を無視しているとしか言いようがない。実際に昨年度の概算要求のレクチャーでは空自の新型電子戦機の後継機種は未定といっていたのに、事実上C-2ベースになっている。こういう納税者を騙すようなことをやっていれば防衛省は納税者からの信用を失うだろう。

米軍のC-130Hは、2007年は6,000USDだったのが現在は約10,000USDとなっている。これは旧式化、機体の老齢化に伴うものだが、運用の主体がより新しいC-130Jに移り、運用機数が減っていることも挙げられるだろう。

そうであれば当然 空自のC-130HもCPFHが上がっているはずだ。C-130Hの近代化あるいはC-130 Jに変更するなどが必要だ。

▲写真 C-130Hは老朽化が進み、近代化・更新はまったなしだ。 出典:航空自衛隊

また、空自の輸送機のポートフォリオを見直すべきだ。空自は現在輸送機の調達はC-2しか行っていないが、C-1が退役し、C-130Hも退役すれば少量輸送や空挺部隊の訓練に支障を来す。C-2は今になって輸出向けで不整地試験をやってはいるが、不整地で運用出来ない。

また小さな飛行場でも運用できないので、戦時や、災害時の空輸でも大変問題だ。C-2の調達数を減らしてC-130Hの更新に加えてペイロードが8トンのC-1の後継となるより小型の輸送機も必要なはずだ。そうすれば輸送機の調達及び運用コストを大幅に低減できる。

米海軍の哨戒機ではP-8が2019年に9,000USDだったのが、2020年には8,000USDまで下がっている。対してP-3Cは2018年が6,000USDだったのが2020年には9,000USD近くまで上がっている。これも老齢化、旧式化でコンポーネント調達コストの高騰だろう。

恐らくは海自のP-1のCPFHはP-8よりもかなり高い。機体、エンジン、システム全部専用で少数生産だからだ。また調達単価も1機227億円と高い。P-1の調達を続けるよりも無人機の導入、P-3Cの近代化を行った方がいいのではないだろうか。

▲写真 P-1は調達・維持費が高く、予算を圧迫している。 出典:海上自衛隊

二種類の哨戒機の運用は非効率だが、P-3Cの運用の為の整備設備などのアセットは既にあり、エンジンやコクピットの換装など更に運用コストを低減できればP-1を60機揃えるよりは安く上がるだろう。これらの近代化を行えばCPFHを大きく下げることも可能なはずだ。またP-1、P-3Cともにクルーの数を増やして、機体の稼働率をあげて、機数を減らすことも検討すべきだろう。

P-3Cは主翼を交換すればほぼ新造機と同じ機体寿命が確保できる。更にこれを新設計して炭素繊維などを使い、また部品点数を減らし、軽量化すれば調達運用コストもさがるだろう。コックピットはグラスコックピットに変更し、エンジンも新型に換装すればこれまた軽量化と燃費が向上し、維持コストは大幅に下がる。システムはP-1のものを採用すれば共用化によって訓練や兵站も共用化できる。可能かどうか不明だが、エンジンを双発に再設計するのも手だろう。そうなればエンジンの運用コストも大幅に下がる。

▲写真 P-3Cの近代化は有用だ。 出典:海上自衛隊

P-3Cユーザーは未だ世界に多くいる。このような近代化を行い、長期間、低コストでP-3Cを使い続けることができるのであれば採用したいという国は出てくるのではないだろうか。余剰となったP-3Cの輸出も検討すべきだ。米海軍も大量の不要機を有しているし、米国と共同でマーケティングしてもいいだろう。実際にベトナムが我が国のP-3Cに興味を持っている。

また早期警戒機を増やすならば空自が導入しているE-2Dのシステムを、先に案内したスペースジェットを使う案と同様に、近代化した先のP-3Cの機体にインテグレートすることも可能なはずだ。このようにして再生したP-3Cの余剰機を再利用、あるいは外国に販売し、そのメンテナンスも請け負えば防衛業界や航空業界の振興にもなるのではないだろうか。

後編に続く。全2回)

<参考文献>:

月間防衛技術ジャーナル2020年9月号「軍用機維持の観点から、1飛行時間当たり経費(CPFH:Cost Per Flight Hour)を分析・検討する」〈前編〉菅野秀樹

トップ写真:C-2の調達・維持費は他の機体と比べて極めて高い 出典:航空自衛隊




この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

防衛ジャーナリスト、作家。1962年生。東海大学工学部卒。軍事関係の専門誌を中心に、総合誌や経済誌、新聞、テレビなどにも寄稿、出演、コメントを行う。08年まで英防衛専門誌ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー(Jane’s Defence Weekly) 日本特派員。香港を拠点とするカナダの民間軍事研究機関「Kanwa Information Center 」上級顧問。執筆記事はコチラ


・日本ペンクラブ会員

・東京防衛航空宇宙時評 発行人(Tokyo Defence & Aerospace Review)http://www.tokyo-dar.com/

・European Securty Defence 日本特派員


<著作>

●国防の死角(PHP)

●専守防衛 日本を支配する幻想(祥伝社新書)

●防衛破綻「ガラパゴス化」する自衛隊装備(中公新書ラクレ)

●ル・オタク フランスおたく物語(講談社文庫)

●自衛隊、そして日本の非常識(河出書房新社)

●弱者のための喧嘩術(幻冬舎、アウトロー文庫)

●こんな自衛隊に誰がした!―戦えない「軍隊」を徹底解剖(廣済堂)

●不思議の国の自衛隊―誰がための自衛隊なのか!?(KKベストセラーズ)

●Le OTAKU―フランスおたく(KKベストセラーズ)

など、多数。


<共著>

●軍事を知らずして平和を語るな・石破 茂(KKベストセラーズ)

●すぐわかる国防学 ・林 信吾(角川書店)

●アメリカの落日―「戦争と正義」の正体・日下 公人(廣済堂)

●ポスト団塊世代の日本再建計画・林 信吾(中央公論)

●世界の戦闘機・攻撃機カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●現代戦車のテクノロジー ・日本兵器研究会 (三修社)

●間違いだらけの自衛隊兵器カタログ・日本兵器研究会(三修社)

●達人のロンドン案内 ・林 信吾、宮原 克美、友成 純一(徳間書店)

●真・大東亜戦争(全17巻)・林信吾(KKベストセラーズ)

●熱砂の旭日旗―パレスチナ挺身作戦(全2巻)・林信吾(経済界)

その他多数。


<監訳>

●ボーイングvsエアバス―旅客機メーカーの栄光と挫折・マシュー・リーン(三修社)

●SASセキュリティ・ハンドブック・アンドルー ケイン、ネイル ハンソン(原書房)

●太平洋大戦争―開戦16年前に書かれた驚異の架空戦記・H.C. バイウォーター(コスミックインターナショナル)


-  ゲーム・シナリオ -

●現代大戦略2001〜海外派兵への道〜(システムソフト・アルファー)

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●現代大戦略2003〜テロ国家を制圧せよ〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2004〜日中国境紛争勃発!〜(システムソフト・アルファー)

●現代大戦略2005〜護国の盾・イージス艦隊〜(システムソフト・アルファー)

清谷信一

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