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.国際  投稿日:2021/1/1

米新政権下、中国対日攻勢強める【2021年を占う!】米中関係


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・政府のコロナ対策、失態重ねた。

・バイデン氏が国防費を削減すれば、中国にとっては重圧が減る。

・今後、中国の対日攻勢激化が予測される。

2021年の日本はまさに国難と呼べる内憂外患に直面するだろう。

まず国内での憂いをみれば、新型コロナウイルスの破壊的な拡散があまりに明白である。

2020年の最後の日に東京都内で記録破りの1300人以上の感染者が出たことが、すべてを象徴している。千葉でも神奈川でもこれまで最多の感染者数が報告された。

日本政府のコロナ対策は失態に失態を重ねた。中国の武漢からの感染者の日本入国を阻まず、厳しい防疫対策をとることを明らかに怠った。

日本政府はさらに人間の移動を制限すべき時期に逆に「GO TO」キャンペーンで国民の移動を奨励して危機を高めた。いかに経済への悪影響を恐れるといっても、けっきょくは感染を増し、経済をさらに停滞させてしまった。こんな状況はまさに国家非常事態である。国難と呼ぶのも穏健すぎるくらいだ。

新しい年の日本は対外的にはさらに険しい情勢に直面することになる。

新しい年の国際情勢の変化はなんといってもアメリカでの新政権の誕生だろう。

民主党のジョセフ・バイデン大統領の新政権が生み出す日本にとっての危機と呼べる状況は、同政権の中国に対する政策からまず派生するといえよう。その展開は国際戦略上の一種の玉突きのような現象が予測されるのだ。

▲写真 ジョー・バイデン氏 出典:Gage Skidmore

トランプ政権は中国に対して全面対決の構えを強めてきた。中国の野心的な対外膨張をすべて抑えるという姿勢だった。中国共産党自体を非合法とまでみなすような強硬な政策だった。

バイデン氏も中国の国際規範を無視した乱暴な対外行動は非難してきた。中国の野心的な攻勢に対して抑止や対決の姿勢もとるだろう。だがトランプ政権ほどの強硬策はとらないという見通しは、すでに現時点でも明確である。中国との協調や共存を求める、とも言明しているのだ。

中国の習近平政権の排除や中国の外交面での切り離し(ディカップリング)まで唱えたトランプ政権は中国を抑止するための大規模な軍事力増強を進めてきた。国防費の大幅な増額を続けてきた。そのことが中国を抑えてきた。

だがバイデン陣営は国防費の削減をすでに唱えているのだ。そうなると中国にとっては巨大な重圧が減ることとなる。

南シナ海でのスプラットレー諸島の不法な占拠と侵略的な軍事力強化、台湾やオーストラリアへの恫喝、国内でのチベットやウイグル、さらには香港での弾圧などトランプ政権が激しく糾弾し、制裁措置までとってきた動きへのブレーキが軽くなるわけである。

ではこうした流れが日本にどんな影響を及ぼすのか。

中国の日本に対する姿勢はトランプ政権が登場してからソフトになった。それまで長年、絶えていた日中両国の首脳同士の交流も中国側の態度の軟化で再開した。日本の尖閣諸島海域への中国の武装艦艇の侵入こそ続いたが、軍事攻撃はなかった。中国政府は改めて日本との「戦略的互恵関係」などという政策標語に同意するようになった。

中国の日本へのこの微笑外交は明らかに対米関係の険悪化の結果だった。中国としては超大国のアメリカとの関係が悪くなると、日本への敵対的な姿勢を和らげ、融和や友好を示す。アメリカと日本の両方を同時に敵とはしたくない、できれば日米両国の離反を図りたい、という意図からである。

ただし中国は日本に対して表面では微笑をみせても、実態では日本への批判的、敵対的な政策は変えていない。

日本固有の領土の尖閣諸島の武力奪取の意図、日米同盟への反対による日本の防衛強化策の非難、日本の戦争での軍事行動だけを「残虐」として教える年来の反日教育、中国で活動する日本企業からの知的財産の収奪や政治的圧力、日本人学者などの恣意的な逮捕など、である。

▲写真 尖閣諸島 魚釣島 出典:© 国土画像情報(カラー航空写真)に基づいて作成、国土交通省

中国政府はこうした対日政策をここ数年はかなりの程度、抑制してきた。わかりやすい実例は国営テレビでの反日ドラマの減少や「南京虐殺」などの反日式典への国家主席の参加の保留だった。

中国のこうした日本へのかりそめの友好姿勢がバイデン政権下のアメリカからの重圧が減れば、変わってくる見通しが強いのだ。つまり日本に対しては本来の強硬な政策履行を復活させる、ということである。尖閣諸島への軍事攻勢など、まず最初に激化が予想されよう。

米中両国間の融和が日中両国間に緊張をもたらすという皮肉な三国関係の因果ともいえよう。

そこで気になるのはバイデン政権が日本に対してはどんな政策をとるか、である。

バイデン氏は菅義偉首相との11月12日の電話会談で「尖閣諸島には日米安保条約第5条が適用される」と言明した。第5条とは日本の施政下にある領域が他の国家からの軍事攻撃を受ければ、米軍が日本側と共同して防衛にあたることを規定した同条約の最重要条項である。日本側の懸念をくみとってのバイデン氏の言葉だった。

だがアメリカのどの政権にとっても日米同盟の堅持は基本政策である。要は日本の有事にアメリカがどれだけ敏速に強力に米軍を出動させるか、だといえる。この言明だけではバイデン政権が日本の防衛にどこまで強く協力し、中国との武力衝突にもどれほど激しく応じるかは、不明である。トランプ政権のように、そもそも中国との最悪の事態での軍事的な対決や衝突はまったく恐れないという体質はうかがわれない。

バイデン政権がトランプ政権よりも対中軍事抑止の姿勢の度合いは弱く、対決を忌避する傾向は否めない。その傾向が中国の攻勢や対決の構えをこれまでよりも強めることになる危険が高いのである。米中の緊張の緩和が日中の緊張を高めるという皮肉な現実の展望なのだ。

しかしバイデン政権は日米同盟重視の公約を掲げる。日本との防衛面での連帯も強くすることも言明する。自国の防衛費は削ることを語る一方、日米共同の防衛は強化する、と述べる。この背反のようなバイデン政権の態度から予測されるのは日本への防衛努力の増大の要求である。

こうみてくると、日本にとってはバイデン政権の登場で対中抑止の減少による中国の対日攻勢の激化という国難が予測される。とくに懸念されるのは尖閣諸島への侵略や奪取という危険である。その背後にはバイデン政権の日米共同防衛や日本の防衛努力の支援の軽減、さらには日本への防衛負担増大の要求という可能性もちらつく。

こういう状況下では日本が自国の防衛をアメリカに任せきりという姿勢をさらにあらわにすれば、こんどはアメリカ国民が日米同盟への支持を減らすというリスクにもつながる。要するに自国の防衛や安全保障は当然ながら自国が最大の努力をきわめねばならないとういことだろう。

バイデン政権の誕生は日本に対してこんな基本の哲理を改めて突きつけるのだとも総括できるようである。

トップ写真:習近平中国国家主席 出典:ロシア大統領府




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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