コロナ課税で将来負担軽減へ
石井正(時事総合研究所客員研究員)
「石井正の経済掘り下げ」
【まとめ】
・第3次補正予算、コロナ克服の名の下で、予算の大盤振る舞い。
・コロナ対策以外にも財政法の原則とかけ離れた支出が並んだ。
・20年度一般会計予算は、175兆6878億円。
今年度の第3次補正予算と2021年度の本予算案の編成が終わった。コロナ禍からの脱出という錦の御旗の下に、財政膨満問題を解決する方途は示されず、将来世代に大きな荷物を背負わせる結果になった。
コロナ克服の名の下で、1年以内の総選挙を意識した予算の大盤振る舞いが断行された。また、「15カ月予算」とする大方針に沿って補正予算が無原則に膨れ上がったことも問題だった。財政規律は弛緩し、財政をめぐって戦後政治が維持してきた規範は吹き飛んで跡形もなくなってしまった。
国家財政について日本は、その年度における税収・歳入に見合う歳出とするよう求める財政単年度主義(歳出入均衡主義)を標榜している。だが、歳出入を均衡させる原則は1965年度の「山一不況」を機に崩れてしまった。その後、予算づくりは国債に依存するのが当たり前になってしまった。
補正予算についても、今回の3次にわたる補正予算編成は、財政法29条でいう「予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となつた経費の負担を行うために必要な予算の追加」との原則から大きくかけ離れてしまった。
コロナ対策は確かに「予算作成後に生じた事由」という定義に当てはまる。だが、脱炭素化の技術開発支援の基金創設に2兆円、中小企業向けの「事業再構築補助金」創設に1兆1485億円、大学の研究支援ファンド創設に5000億円を計上するなど、財政法の原則とどう結びつくのか理解に苦しむ支出が補正予算の中に並んだ。見せかけの規模を膨らますことに走った感は否めない。
大盤振る舞いの理由づけとしては、日本経済の需要不足が20年7~9月期で年換算34兆円あるとされていることから、その分を3次補正で埋める必要があることが挙げられている。「緊要の原則」はどこ吹く風といったところで、あおりを食った3次補正後の20年度一般会計予算総額は、当初予算の約1.7倍となる175兆6878億円という空前の規模に膨らんだ。
2021年度予算案では、一般会計総額は20年度当初予算比3.8%増の106兆6097億円と3年連続で100兆円を突破。税収が同9.5%減の57兆4480億円にとどまるため、新規国債発行額は33.9%増の43兆5970億円と、14年度以来7年ぶりに40兆円を超え、国債依存度は40.9%(20年度当初31.7%)に達した。これにより21年度末の国債発行残高は990兆3066億円と、1000兆円の大台目前となった。この借金返済は孫やひ孫、玄孫の代になっても圧し掛かり続ける。
財政の一段の悪化はコロナとの闘争という意味ではやむを得ない面はある。だが、それでも構わないいとは言えない。赤字を後代に押し付けたままにするべきではないとなれば、対処方針を示しておくのが我々の世代、政権の責務でもある。
例えば、東日本大震災の後に政府は、復興特別税を法人・個人に課し、個人課税は今も続いている。コロナ禍を「国難」と位置付けるならば、国民は総力を挙げて立ち向かわなければいけない。その覚悟を示す意味では「コロナ課税」といわれるような特別増税を断行するのも一案だ。
その胆力が現政権にあるのかどうか、政権の目力を見る限りはなはだ心もとない。選挙の季節を控えて政権の覚悟と決意、さらに言えば後代への思いやり・やさしさが試される時だ。
(了)
トップ写真:経済財政諮問会議 出典:首相官邸Facebook
あわせて読みたい
この記事を書いた人
石井正時事総合研究所客員研究員
1949年生まれ、1971年中大法科卒。
時事通信社入社後は浦和支局で警察を担当した以外は一貫して経済畑。
1987年から1992年までNY特派員。編集局総務、解説委員などを歴任。
時事総合研究所客員研究員。