米中経済の絆が縮小する
古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・米企業の対中直接投資が激減。
・中国への海外直接投資も去年は前年比で8割減。
・アメリカでは、中国との経済関係の縮小は続くとの見方が大勢を占める。
政治はやはり経済に先行するのか。アメリカと中国との最近の経済の交流の縮小をみていると、そんな基本の命題を改めて考えさせられる。かつてアメリカの大企業を駆り立てた中国への投資、売りこみがこの2,3年、目にみえて減ってきた。その原因はやはり政治面での米中両国の衝突や対立のようにもみえるのだ。なにしろアメリカ側では中国との経済面でのディカップリング(切り離し)までが政治的な主張として語られるのである。
アメリカの中国への投資、あるいは中国との貿易が激減している状況は米側の官民で頻繁に伝えられるようになった。かつては米側の多様な分野の大企業が競いあって中国に投資し、生産拠点を築いて多種な製品を生産して輸出した。その対中直接投資が大幅に減り始めたのだ。米側の非公式統計では2023年のアメリカ企業の中国への直接投資は約96億ドルとされた。この数字はその以前の数年の金額から3割、4割の激減となる。
一方、米中間の貿易も米側の統計では2022年には輸出入総額が6700億ドルだったのが翌23年には5700億ドルにまで減った。
中国側の発表によると、2023年度の外国からの直接投資は330億ドルだった。この額は前年の2022年の外国からの投資額からは80%も少なかった。つまり一年の間に中国への外国投資は5分の1にまで激減したのだ。2021年のピーク(3441億ドル)からは10分の1以下にまで縮小したことになる。
その縮小分のなかには当然、アメリカからの投資の減少も含まれている。その結果、2023年は中国から離脱する外国投資額が新たに流入する投資額を近年では初めて上回り、外国投資の赤字状態が起きた。従って中国の輸出製品のうちで外国企業が中国領内で製造して輸出する分の比率が大幅に減ってきた。この流れは当然、中国を生産や販売の場に利用してきた外国企業自身の戦略をも大きく左右することとなる。
この点、参考になる新資料がある。北京に本部をおく在中国アメリカ商工会議所がこの2月に発表した調査によると、中国で活動する約1000社のアメリカ企業の代表のうち約半数が現在の営業規模を広げる意思はないと答えたというのだ。さらに全体の12%がやがては中国を撤退して他の場所に活動拠点を移すことを考えていると回答したという。2年前の同種の調査では中国撤退の意向を示した回答は全体8%だったから、比率としては5割増となる。
このアメリカ企業の後退の最大の理由はやはり米中両国の対立が激しくなり、とくにアメリカ側のバイデン政権も中国へのハイテク関連品目の輸出の禁止や、中国企業のアメリカへの進出の規制など、政治面からの経済規制が厳しくなったことだとみられている。
その一方、中国側でもまず中国経済自体の低迷で外国企業の製造活動や販売活動にブレーキがかかったことも指摘される。そのうえに習近平政権は自国の企業の育成に熱を注ぎ、一般国民には国産品愛用を呼びかけていることも外国製品の中国市場での需要を抑えているという。具体的な実例としてはアメリカの代表的な自動車企業のフォードやGMの車が中国市場での売れ行きを大幅に落としていることがあげられる。
このアメリカと中国との経済的な絆の縮小はこれからさらに続くのか、あるいは中国側の経済状況が好転すれば、また回復するのか。アメリカ側の識者の間では、このまま縮小が続くという見方が多数派のようである。その論拠はアメリカの政府も議会も中国の軍事や経済での野心的な対外膨張に対して、警戒を一層、強めており、中国側との経済の絆や依存を減らすべきだとする政治的な大勢は強くはなっても、近い将来に和らぐことはないという展望だといえる。
やはり米中関係では政治が経済を圧する、ということだろうか。
トップ写真:上海港で輸出を待つ自動車(イメージ)出典:owngarden/GettyImages
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。