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.国際  投稿日:2021/1/6

中国「公船」という呼称止めよ


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・2021年も中国艦艇が尖閣周辺に侵入。

・侵害船を「公船」と呼ぶは侵入強盗を「公務の役人」と呼ぶに同じ。

・侵入中国船は〝軍艦〟。「公船」の名称は非武装との誤解与える。

沖縄県石垣市の尖閣諸島周辺の日本の領海や接続水域への中国武装艦艇の侵入が絶えない。2021年という新しい年を迎えてもその侵略行為の頻度は高まる一方である。

日本の領海でも、そのすぐ外側にあって日本の法律が適用される接続水域であっても、外国の艦船が無許可、無通告で侵入してくれば、日本の主権の侵害である。日本の領有権の蹂躙でもある。日本の法律に照らせば、無法、違法の犯罪行為である。国際法にももちろん違反する。

中国政府はこの日本に対する違法行動を新しい年の2021年にも平然と続行した。1月元日の午後10時26分頃から同46分頃にかけ、中国の武装艦艇4隻が沖縄県石垣市の尖閣諸島・久場島沖の接続水域内に入るのが確認された。同諸島沖の接続水域で中国公船が確認されたのは今年初めてだという。2日午後3時現在、4隻は同諸島・南小島沖の接続水域内を航行しているという。

2020年の1年間を通じると、中国艦艇が尖閣諸島の接続水域に侵入してきたのは合計333日だった。ほぼ毎日に近い数である。一方、中国艦艇が尖閣周辺の日本領海に侵入したのは合計29日だった。毎月2回以上の頻度だった。

さて日本側では、この犯罪行為を働く中国の艦艇を「中国公船」と呼ぶ。日本の政府もメディアも足並みをそろえて「公船」と評するのだ。その表現はいかにも正当な公務を執行する政府当局の船という意味にも響く。

では公船とはどんな意味なのだろう。

ふつうの辞書では「公船」とは以下のように定義される。

(1)官庁・公署などの管理に属し、公用に供される船舶。練習船・測量船・巡視船など。

(2) 国際法上、国家の公権を行使する船舶。軍事用、警察用、税関用の船舶など。

以上をおおざっぱにまとめれば、公船とは国家あるいは政府機関の正当な権利を行使する船ということになろう。ただしその「権利」はあくまでその当事国にとっての権利である。

尖閣問題の場合、中国側のその「権利」は日本からすれば違法であり、不当である。犯罪ともいえる一方的な日本の主権の侵害なのだ。その侵害される側が侵害する側の船を「公船」と呼ぶのは、侵略国の権利を認めるような印象を与える。

日本からすれば自国の領海に傍若無人に侵入してくる外国の船をあえてその外国の立場に立って「公船」と呼んでいることになる。おかしな話である。自分の家に侵入してくる強盗を「公務の役人」と呼ぶことに等しいのだ。

そもそも「公船」という名は軍事能力や殺傷性のない非武装の船を思わせる。だがとんでもない。日本の領海に侵入してくる中国船は事実上の軍隊の艦艇なのだ。その所属する組織は中国海警局である。この中国海警局はよく日本の海上保安庁にたとえられるが、それも事実誤認である。

中国海警局は中国人民武装警察の一部である。この人民武装警察は中国の正規の軍隊である人民解放軍の一翼を担う。海警局は武装警察部隊の他の部隊と同様に中国共産党中央と中央軍事委員会の指揮下にあるのだ。

▲図 海警の指揮系統 出典:海上自衛隊幹部学校ホームページ

さらに日本領海に侵入してくる海警局の船はみな武装している。しかも独自に軍事力を行使する権利を中国当局から与えられている。日本侵入の艦艇は通常、4隻の艦隊を組んで航行するが、みな数千トン、ときには1万トンを超える軍艦と呼べるフリゲート艦や巡洋艦、駆逐艦である。

最近まで人民解放軍の海軍の艦艇だった船がそのまま海警局に回され、日本領海へと侵入してくる場合も多いのだ。「公船」といういかにも非武装に思える名称がいかに誤解を与えるか、である。

この問題は日本の国会議員では珍しく自民党参議院議員の有村治子氏が提起していた。有村議員は国会で尖閣諸島という名称には必ず沖縄県とか石垣市という日本の行政組織の名をつけて言及すべきだと提言した実績もある。

▲写真 有村治子参院議員 出典:参議院ホームページ

その有村議員がつい最近、日本戦略研究フォーラムでの講演で「日本の領海や接続水域に侵入してくる中国の艦艇を『公船』と呼ぶべきではない」と、きわめて説得力のある意見を述べているのを私自身も拝聴した。この意見が自民党や政府の全体へとぜひ広がってほしいものである。

トップ写真:尖閣諸島周辺で領海侵入を繰り返す中国海警局の艦艇(奥)海上保安庁提供 出典:令和2年版 防衛白書




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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