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.社会  投稿日:2021/3/14

震災10年 自分を責めないで


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・震災から10年、自分を責め続けている被災者の遺族はまだ多い。

・友人、家族、ペットの死で人は自責の念にかられがちだ。

・誰かに話すこと、私たちが話を聞く事が大事だ。

 

震災10年ということもあり、どのテレビ局も震災特集を流している。被災者の遺族の方々を追う企画も多い。

何本かの番組を見ていて、自分を未だに責めている人がこんなにも多いのか、と衝撃を受けた。

「なぜあの時助けてあげられなかったのか」・・・「もっと話をしておけばよかた」・・・

そんな後悔や悲しみがないまぜになった感情が浮かんでは消え、浮かんでは消えの10年だったのだろう。

ふと我が身を振り返ってみた。

2018年の春は悲しみに満ちた季節だった。3月に闘病していた友人がこの世を去った。その前の年の6月に結婚したばかりだった。彼女に頼まれて私が司会をした。

「考えたんだけど、やっぱり安倍さんに司会してもらいたいの」

彼女は重い病気で数年間闘病していた。あらゆる治療を受け、私は何回もお見舞いに行った。その度に驚くべき生命力で退院し、普通の生活を送っていた。そしてついに最愛の人と結ばれたのだ。披露宴の直前まで自ら準備に奔走した。無理すんな、と言っても絶対に言うことを聞かない子だった。

披露パーティーの間、彼女は本当に幸せそうだった。会場は高層階にあるレストラン。夕陽がとてもきれいだったのを覚えている。

幸せな新婚生活を送っていたのに、年明け、突然、帰らぬ人になってしまった。まだ26才だった。

その悲しみが去らぬうち、翌月の4月に母が逝った。100才になり、記憶力は衰えていたとはいえ、会話は出来ていた。それが介護施設の部屋の中での転倒で昏睡状態となり、そのままこの世を去った。

「オリンピックまでは大丈夫かしらね」

「全然大丈夫だよ」

そう言って笑っていたのに。

さらに翌5月、母の命日と同じ日に愛猫が亡くなった。まだ13才だった。

その半年程前、よだれが出ているのでおかしいと思い、かかりつけの動物病院に行ったら、上顎の悪性の扁平上皮ガンらしいことがその場で分かり、余命4カ月と宣告された。「抗がん剤や放射線治療はQOLが下がるからお勧めしません」と医者は言った。

それから週に2,3回免疫力がアップすると薦められた椎茸エキス抽出液を飲ませに通った。冬の寒い時期、震えるネコを毛布で包んだカゴに入れて。が、最後は静かに息を引き取った。母の最後の時と同じように。

お医者さんが言った。

「半年も頑張りました。人間で言ったら2年間は闘病したことになります」

その先生は、白い立派な花を贈ってくれた。

恐縮して固持すると先生は静かにこう言った。

「いいんです。僕は自分が看た子が逝ったときには必ずこうしているので」

その後、2020年に入るまで余り記憶がない。仕事は普通にやっていたと思うが、何をやっても手がつかなくなった。なんとも言えない寂寞感にとらわれ、この世を去った人やペットの顔を思い出すと自然と涙が出てくる。

そして自分を責めるのだ。

「もっと話をしておけばよかった」「もっとお見舞いにいけたのではないか」「もっと優しく出来なかったのか」など・・・後から後からそんな思いが溢れてくる。

自分はこんな弱い人間じゃないはずだ。そう思い、自らを鼓舞するが、また同じ思いに捕らわれる。

思い悩んであるとき友人に心療内科の先生を紹介してもらった。とても良い先生だよ、というので好奇心もあって、門を叩いた。

そこに紹介された美人の先生がいた。そう、女医さんだと聞いて行く気になったのだ。不純な動機だ。が、実際本当に私は参っていたのだと思う。

先生は話を聞いてこう言った。

「お話聞いて思ったけど、あなたはお薬いらないわね。処方しないわよ。もう治ってるんじゃないかしら。お母様は多分、この辺からあなたのこと見てると思うのよね」

彼女は自分の頭の上で片手をひらひらと振った。

「あなたが元気なかったら、お母さんも悲しむでしょう?」

ほんの10分くらいの会話だったような気がする。

先生の一言で随分救われた。もちろんその後すぐに元の自分に戻れたわけではない。多分2年くらいはかかったのではないか。元通りになったな、と思えるようになったのは。

▲写真 東日本大震災2周年、旧災害センターの残された遺構の前で。2013年3月11日宮城県南三陸町にて 出典:Athit Perawongmetha/Getty Images

家族を突然奪われ、取り残された人は、自責の念にからめとられてしまう。

大切なのは誰かに話すこと、誰かが話を聞いてあげることだ。それが専門の医者やカウンセラーでは無くても。

それで少しは楽になれる。前を向ける。

だから。

どうか、自分を責めないでください。あなたの大切な人は、たとえ今、あなたの目の前にいなくても、あなたのことを想っています。

あなたのことを愛しています。

トップ写真:宮城県名取市の閖上(ゆりあげ)中学校で、東日本大震災の犠牲者追悼3周年記念式典で。 出典:Yuriko Nakao/Getty Images




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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