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.国際  投稿日:2021/4/21

バイデン氏次男、告白本で疑惑触れず


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・バイデン氏の息子が告白本で、自身の「疑惑」については触れず。

・「疑惑の証拠」のコンピューターは自分のものの可能性ほのめかす。

・コンピューター内の交信記録にはバイデン氏の関与や不正な取引も示唆。

 

アメリカのジョセフ・バイデン大統領の次男で中国やウクライナの不正企業とのつながりを追及されてきたハンター氏が自伝を出版した。不正の疑惑で刑事捜査の対象ともなってきたハンター氏はその疑惑の証拠とされたコンピューターの交信記録については「自分のものかもしれない」と、曖昧に対応し、否定はしなかった。

ハンター氏の自伝は『美しい物事』と題され、アメリカ国内で4月6日に出版された。

副題に「回顧」と記されたようにその内容はハンター氏のバイデン家での子供時代の悲しい体験や成人してからの麻薬中毒との苦しい闘いが主体だった。

同書の刊行は著者が現職大統領の息子という点だけでなく、ハンター氏が国政を揺るがすほどの不正事件への関与疑惑を追及されてきた経緯のために、アメリカの主要メディアの関心を集めた。

ハンター氏に対しては2020年9月に連邦議会上院の複数の委員会が「父親のバイデン氏が現職副大統領だった2013年から14年にかけ、中国とウクライナの汚職疑惑の大企業に接触し、巨額の報酬を得た」という趣旨の調査報告書を発表し、ハンター氏の刑事責任を追及した。

20年10月にはハンター氏自身がデラウェア州の自宅近くのコンピューター店に修理のためとして持ち込み、そのまま放置されたとされるパソコンから同氏のウクライナや中国との特殊なビジネスに関する数千通ものメール交信記録が発見されたことが報道された。その交信は父親のバイデン氏の関与をも示し、不正な取引を示唆していた。

だが大統領選挙の白熱していた当時、バイデン陣営ではハンター氏への追及を「共和党の政治工作」と断じ、問題のコンピューターもロシア諜報機関の工作だろうと主張していた。しかし同年12月にはハンター氏自身が自分がデラウェア州の司法当局の刑事事件捜査の対象となっていることを公式に認めた。

こうした経歴のハンター氏の動向はバイデン大統領の就任とともに各方面で注視されていた。だから「ギャラリーブックス社」から刊行された今回の本もまず主要メディアにより大々的に紹介された。

内容はハンター氏が幼児のときに母親の運転する車の事故にあい、母と妹を同時に亡くすという惨劇や、成人してからの2015年には親しかった実兄を脳腫瘍で亡くすという悲劇など個人の体験の詳しい回顧が主体だった。とくに弁護士としての職歴を重ねたハンター氏が近年はコカインやアルコールの中毒症となり、その克服のために苦労した体験や離婚や変則の恋愛など女性関係の複雑な訴訟騒動の告白をも述べていた。

▲写真 ハンター氏(左)、バイデン大統領(中)、脳腫瘍で亡くなった実兄のボー・バイデン氏(右)(2009年1月20日) 出典:David McNew/Getty Images

ハンター氏は同書では一般が期待した中国やウクライナに関与する不正疑惑についてはほとんどなにも述べず、疑惑の証拠とされたコンピューターについても語らなかった。

しかしメディア側は同書に関心を持ち、数局のテレビ局がハンター氏を招いて、インタビューした。そのなかのCBSテレビのインタビューでは記者が問題のコンピューターについてもずばりと質問をした。そのコンピューターはあなたのものか、誰のものか、という問いだった。その答えとしてハンター氏は次のような言葉を発した。

「私のものだったかもしれない」

「いや、しかしよく覚えていない」

「私はとにかく人生に多くの問題を抱えて、混乱が続き、よく覚えていないことが多いのだ」

「でももしかすると、ロシアの工作かもしれない」

「だが私の所有物だったかもしれない」

以上のような曖昧な言葉がぽつりぽつりと述べられたのだった。この不明確な言葉の羅列を総括してみると、その問題のコンピューターがもしかすると自分の所有物だったかもしれないことを認めているとも解釈できる。少なくとも否定はしていない。

ところがその一方で「ロシアの工作」という言葉もハンター氏は口にした。だから全体としてなにを言いたいのかわからず、とにかく記憶がないという点を強調したかったのだとも受け取れよう。それでもなおそのコンピューターが自分のものだったかもしれないという可能性は明確に述べたという点は注目に値するだろう。

今回のハンター氏の自叙伝ではメディア側の関心の焦点がそのあたりに絞られていたという実態も興味深い。

ちなみのこの本『美しい物事』は結果として多数のメディアでの報道にもかかわらず、一般読者の関心はそれほどに集めず、出版から最初の1週間で全アメリカで1万1千部が売れただけに過ぎなかったという。

トップ写真:ハンター・バイデン氏(左)とバイデン大統領(右)(2016年4月12日) 出典:Teresa Kroeger/Getty Images for World Food Program USA




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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