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.国際  投稿日:2021/4/12

バイデン政権下、米の悲劇とは


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・バイデン政権の下、超大国アメリカが下降線をたどっている。

・人種間の争いや凶悪犯罪増加など、米国内の分断が激化。

・「アメリカがアメリカでなくなる」という懸念は強まる一方だ。

 

私のアメリカとのつきあいも長くなった。留学生時代から数えると、もう半世紀を越えてしまった。その長い体験を踏まえて、いまのアメリカをみると、なんとも心配になる。アメリカはいったいどうなるのか。

アメリカに長年、接してきて、いま初めて深刻きわまる真の懸念を感じるようになったのだ。ジョセフ・バイデン大統領の下のいまのアメリカに対してである。

私が初めて留学生として住み始めたころの1960年代のアメリカは、それこそ仰ぎみて、圧倒されてしまう巨大な強く、たくましい存在だった。

それから20年後の1980年代のアメリカも超大国の実力と威信を示していた。当時のロナルド・レーガン大統領が全世界にとっての「丘の上の輝く町」と評したアメリカ合衆国の雄姿だった。だが2021年のいま、アメリカのあの雄姿はどこへ行ってしまったのか。

ジョセフ・バイデンというアメリカ史上でも珍しい弱点を抱えた大統領を混乱と対立の極のなかで生んだこの国はどうなるのだろうか。いまのアメリカが苦しみ、傷つき、痛み、迷う現状をみると、どうしてもアメリカの悲劇という表現が浮かんでくる。

私にとっては初めて現実の危機感をも覚えさせるほどの下降線をたどり始めたアメリカ合衆国なのである。その下降は超大国としてのパワー、そして長年、発揮してきた道義とか倫理性の両面なのだ。

そうしたいまのアメリカが第46代大統領のバイデン氏の下でどんな衰退や分裂に直面しているのか、なぜそんな苦境が生まれたのか、その結果として日本や他の諸国への影響はどうなのか、という諸点を最新の単行本としてまとめてみた。

▲写真 アメリカの悲劇!「黒い疑惑」にまみれたバイデン政権の奈落(著: 古森義久/総合出版ビジネス社) 出典:総合出版ビジネス社

『アメリカの悲劇!』という主題、「『黒い疑惑』にまみれたバイデン政権の奈落」という副題の書である。そもそもジョセフ・バイデンという人物がなぜアメリカの悲劇を象徴しているのかの解説だともいえる。

こうした私の認識に対して、「いやバイデン政権は対中政策や同盟諸国の協調という点では意外によくやっているではないか」という反論もあるだろう。「国内的にもコロナウイルスの大感染をなんとか抑え、新たな空気を生み出したではないか」という指摘もあるだろう。

だがいま日本に伝わってくるアメリカの実情は、たぶんにアメリカ側の民主党支持の大手メディアによって光と影の光の部分だけが拡大されている。それら大手メディアはいまや民主党の応援団となって、バイデン政権の苦しい側面、暗い現実をほとんど報じないのだ。

そもそもトランプ前政権時代から激しかった保守とリベラルの対立、共和党と民主党との激突はいまやさらに険悪となった。

誕生から3ヵ月のバイデン政権はトランプ前政権や保守支持層、共和党側に対して正面から挑戦し、そのあり方を根幹から否定までする対決姿勢によってアメリカの分断をますます激しくする結果を招いた。

だがその現実をアメリカの大手メディアは軽視、あるいは無視しているのだ。自分たちが全力で盛り立てた民主党バイデン政権の負の実態は最大限、隠そうとするわけだ。

バイデン政権の移民政策ひとつをみても、違法でも犯罪容疑があってもアメリカに入国を希望する老若男女をとにかく追い返さないという「寛容政策」により、メキシコとの国境では未曽有の数の違法の難民や移民が殺到した。

▲写真 2021年3月23日にテキサス州ミッション近くでメキシコからリオグランデ川を渡ったホンデュラスからの亡命希望者たち。米国国境警備隊の検問所に向かう。 出典: John Moore/Getty Images

とにかく子供だけをアメリカになんとか入国させようという中南米諸国の親たちが人身売買的な業者を使って、アメリカ国内に幼い男女をもぐりこませるという活動が激しくなった。

シアトル、サンフランシスコ、ポートランドというリベラル行政の都市ではホームレスが放置され、街の治安や風景を極端に悪化させた。アメリカ社会ではバイデン政権になって人種間の争いや「法と秩序」を突き崩す凶悪犯罪が増えてきたのだ。そんな実例はまだまだある。

私のアメリカとのつきあいは長いが、その長い歳月をすべてアメリカで過ごしてきたわけではない。だが学生として、ジャーナリストとして、あるいは研究者として、実際に住み、働いたアメリカはいつも活力に満ちていた。輝いていた。そして私自身にも希望や教訓を与えてくれた。

アメリカから離れて日本にいても、あるいはベトナム、イギリス、中国というような諸国にいても、遥かにみるアメリカは力強い存在だった。

人間にとっての自由という無比の権利を保証する民主主義の基本を強大な軍事力を使ってでも守るというアメリカは全世界の多数派の頼りだった。つい仰ぎみてしまう対象だった。

アメリカが好きでも嫌いでも、さらにはアメリカの内部で揺れや衝突があっても、この超大国はこの地球が真の危機を迎えた際には、必ずやその救出に乗り出してくる、というような素朴な思いを共有する人たちは多数の諸国に存在してきたといえよう。

だがその最後の期待のようなアメリカ観が揺らぐようになった。少なくとも私自身はそうした不安の感覚を禁じ得ないのである。

その目前の理由はジョセフ・バイデンという人物のアメリカの統治能力、指導能力への不安だといえよう。そしてそんな人物を国家元首に選んだいまのアメリカ国政のメカニズムのゆがみだともいえよう。

そんな不安をごく簡単にまとめれば、「アメリカがアメリカでなくなる」という懸念である。もっとも、バイデン大統領下のアメリカが映し出す国家の根幹部分での揺らぎや崩れは、決してバイデン氏だけが原因ではない。

いまから12年前の2009年に登場したバラク・オバマ大統領、そして2017年に登場したドナルド・トランプ大統領がそれぞれ体現したアメリカ政治の潮流の大きな変化が、今日のバイデン大統領下の危機的状況をもたらしたともいえるだろう。

アメリカ内部のそうした変化はもちろん、外部世界の変化とも密接にからみあっていた。世界が変わったからアメリカが変わったのだ、ともいえるのである。

私はこの期間、ワシントンにあってその政治の潮流の変遷を至近距離で、そして皮膚感覚で体験し、観察してきた。

その考察をいま振り返ると、アメリカからアメリカらしさが消えていくという流れはオバマ大統領がつくり出したといえる。といっても大統領の統治はときの国民の希求の反映でもあった。

トランプ大統領はそのオバマ統治の否定や逆転を目指した。だが、そのこれまでにない型破りの強引な政治手法は、これまでにないほどの激しい反発をも招いた。

そんな時期に中国発の新型コロナウイルスの大感染という邪悪な惨事がアメリカを襲った。人類の歴史でも珍しいこの目にみえないモンスターは、アメリカの政治までを複雑な形で変えていった。その結果、残ったのが史上稀な国内での衝突と混乱と分裂とともに2021年1月に誕生したジョセフ・バイデン大統領だったのだ。

アメリカはだいじょうぶなのか。

そんな心配が追い払っても追い払ってもブーメランのように戻ってくるのが、いまの私のアメリカ考なのである。

そのアメリカの首都ワシントンを、わが日本の菅義偉首相は4月中旬に訪れて、バイデン大統領と会談する。その日米首脳会談の日本側にとっての成功を願うことは当然だが、同時に菅首相を迎えるアメリカ側の現実にもどうしても懸念を向けてしまうというのが私のいまの心情なのだ。

トップ写真:バイデン氏、大統領としての初記者会見 出典:Chip Somodevilla/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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