無料会員募集中
.国際  投稿日:2021/4/17

NY、ワクチン接種急ピッチ(上)


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・米国では、PCR検査、抗原検査、抗体検査、ワクチン、すべて無料。

・NY州ではワクチン接種完了者は27%で全米平均の24%を上回る。

・急激に「攻め」に転じたCOVID-19対策が功を奏するか注目される。

 

新型コロナ(以下、COVID-19)の感染の減少傾向やワクチン接種が順調に進んでいる傾向などを受け、今週は、小学2年生の息子の対面授業が復活、実に397日ぶりの登校であった。

ニューヨークの公立校ではこの1年の間に学校が開かれたりしたこともあったが、チャーター・スクールと呼ばれるシステムの学校に通う我が息子の学校は対面授業の復活に、一貫して慎重な姿勢を取ってきた。その学校が対面授業を復活させるというのは、徐々に社会が開かれてきたということを一番、身近に実感させられる出来事であった。

実は前日に、息子と3歳の娘の具合が急に悪くなった。

ふたりとも夜中に急に嘔吐。まっさきに食あたりか、ノロウイルスの感染を疑って、その対応をしたが、一抹の不安が頭をよぎった。COVID-19に感染した子供の症状は、大人と違う症状が顕著に出ることもあるといい、まだわかっていないことも多いという。あす、13ヶ月ぶりの登校日で、万が一のことがあって、学校で感染を広げてしまう可能性を考えていると、妻が「今から検査に行こう」と先頭に立って準備をし始めた。

もう夜も9時過ぎだ。だが、夜遅くまでやっているCOVID-19の検査が受けられるクリニックがニューヨーク市内には多数存在する。

▲写真 市内の通りに出現する、移動式COVID-19検査車。誰でも無料で検査が受けられる 撮影:著者

アメリカの病院はどこも基本、予約制で、急な診察は「緊急外来」に行くことになってしまい、いつも大仰な感じがする中、突然行っても診察してくれるタイプのクリニックが近年、全米各地に広がっている。そして、最近は大体どこでも、COVID-19のPCR検査やラピッドテストと呼ばれる抗原検査、抗体検査をやってくれる。

夜中に外出したくない息子と、病院、と聞いて大泣きを始めた娘をなだめて歩いて10分のクリニックを訪れ、診察してもらうと、クリニックの先生は笑いながら何の躊躇もなく「2人とも、胃腸炎ですね。お水いっぱい飲んでください」と言った。「でも、念の為ですから、COVIDの検査もしておきましょう」とも言われ抗原検査を受けた。

「結果は30分で出ます。メールに送っておきますので、このまま帰って頂いて結構です」

COVID-19の遺伝子を見つけ出すPCR検査は、特別な機器を使うため、結果が出るのに時間がかかるのに対し、ウイルス自体を検出する抗原検査は、市販の妊娠判定キットに似たキットを使い、結果は15~30分で出る。専門家でなくとも使える。

病院を出た安堵で目が冴えてしまった子どもたちと帰り道のコンビニに立ち寄ってから歩いていると、結果がもうメールで来ていた。学校の合格・不合格通知を見るような気分でメールを開くと、結果は2人共「陰性」であった。

よかった。

これで明日は息子を安心して学校に連れて行くことができる。この時の安心感は言いようがない。

街なかにはこのように飛び込みでCOVID-19の検査が受けられるところが無数にある。誰でも受けられ、基本、無料だ。必要とあらば、毎週でも、何回でも検査は受けることができる。

同様に、現在は法律で制限がある15才以下を除き、ワクチンの接種も、誰でも無料で受けられる。私もすでにファイザーのワクチンを2回受けた。

COVID-19に関して言えば、検査もワクチン接種も「誰でも無料で」は全米における基本方針だ。

最近、久々に会う人達とのあいさつは「ワクチン受けた?」である。特に今週に入ってからは、SNS上のアメリカ在住の知り合いの半数以上は、もう少なくとも1回は接種を受けているような印象がある。

接種の優先順位もあったが供給が安定してきた今はもうない。

ニューヨーク州ではすくなくとも1回ワクチンを受けた人は40%以上であり、全米平均の38%より多い。成人(18才以上)に限って言えば、50%が1回は接種を終えている。完全接種完了者もニューヨーク州では27%で全米平均の24%を上回る。

▲写真 筆者が接種を受けた大規模接種会場で、この会場だけでの累計接種実施回数が表示されていた 撮影:著者

「不法移民」と言われる人たちでも「誰でも無料で」接種を受けられる。これは寛容、と言うより、徹底してウイルスの封じ込めを行う対策の一環だ。ウイルスは、人々の地位や社会的立場に関係なく感染し、それらの人々への対策を行わなければ拡散する。ウイルスを封じ込めるには、この土地にいる人々全員に同時に対処しなければならない。極端な話、日本から旅行で来たとしても、住居、連絡先を証明できれば接種は可能であり、滞在資格は問われない。

▲写真 大規模接種会場「ジャービッツ・センター」の受付に並ぶ人々。完全予約制で時間が15分単位で分けられているため、混乱はない。 撮影:筆者

接種が受けられる場所もどんどん増えてきており、病院はもとより、大きい会場は野球のスタジアム、コンベンション・センターなどであり、身近なところでは近所の薬局でも接種を受けられる。アメリカではCOVID-19流行以前から、インフルエンザの予防接種などは近所の薬局で受けるのが一般的だ。薬局には資格をもった担当者がおり、店の売り場の隅に設けられたコーナーで接種を行う。COVID-19の予防接種もその延長線上にある。

今までの「守り」に加えて急激に「攻め」に転じたCOVID-19対策であるが功を奏するか。

バイデン大統領は、今年の7月4日のアメリカ独立記念日を、国民の生活を取り戻し、正常化できる「COVID-19から独立する記念日にしよう」と国民に呼びかけている。これが実現できるかは、国中が一丸となることができるかにかかっている、とも述べている。

につづく)

トップ写真:初回のワクチンを打つ労働者 ニューヨーク州エルモント 2021年4月14日 出典:Mary Altaffer-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."