<鈍感な日本も目が離せない>中国の将校5人を米がサイバースパイ容疑で「指名手配」
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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アメリカがとうとう中国人民解放軍の将校5人を、米企業6社へのサイバースパイ容疑で告発した。5人は、去年の2月にアメリカの情報セキュリティ企業マンディアント社が出した報告書で指摘された中国人民解放軍総参謀部61398部隊に所属する。中国はもちろん反発した。「事実無根」として、中国はアメリカによるハッキングの被害者と主張する。
国営・新華社通信はこう伝えている。過去2カ月でアメリカからのハッキングで直接コントロールされた中国のコンピュータは118万台に及んだ。さらに2077件の「トロイの木馬」あるいはボットネットがこのハッキングに使われた。
またアメリカに置かれたコンピュータが5万7000に上る中国のウェブサイトにバックドア攻撃を仕掛けた。さらに新華社は、アメリカは、政府や研究所、企業、大学、主要通信ネットワークに攻撃をかけ、進入して情報を盗んでいるとも主張しているとも伝えている。
米NSA(国家安全保障局)にいたエドワード・スノーデンに諜報活動の一端を暴露されたアメリカは、それだけ分が悪い。だから、軍の情報機関が民間企業をスパイして、それで競争条件を左右するのは問題だ苦しい主張をする。国家間のスパイ行為は当然あることだが、国家が民間企業に関わるのは不当な競争にあたるということだ。
もっともらしいが、おかしな話でもある。米ソ冷戦が終わって、すっかり暇になったとされた米CIA(中央情報局)が、民間企業の情報を探っているとされたのは、かれこれ20年近く前のことだ。民間企業の情報をスパイして自国の企業に情報を流すという意味でも、アメリカが「先進国」であったはずだ。
そうした脈絡で考えると、中国人民解放軍の5人をわざわざ名指ししたのにどんな思惑があったのかが気になる。もともと情報の世界では、どこまで知っているかを相手に知られることを嫌がる。こちらが知っていることに気がつかれなければ、しばらくは相手の情報が筒抜けになるからだ。そうすると、ここでショッキングな形で公表したのは、ここまで突き止める能力があることを誇示したいということなのだろうか。
アメリカは中国の華為技術(フアウエイ)の通信機器を非常に警戒してきた。それらの危機にはバックドアがあって、その機器を流れる情報を抜き取られる恐れがあるからだ。しかも華為は中国政府と直接関係があると見られている。
同社の機器を使っている韓国とは「軍事協力をすべきではない」と連邦上院議員が発言したこともある。日本でも華為の機器を使用することに懸念は表明されているものの、そうしたことに「鈍感な」日本ではあまり大きな話題になっていない。
アメリカによる中国人民解放軍将校の「指名手配」が果たしてどのような展開になるのか、日本も目を離すわけにはいくまい。
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