「民主主義サミット」に一定の評価
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
「宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2020#50」
2021年12月13-19日
【まとめ】
・バイデン大統領肝いりの民主主義サミットについて、一部マスコミの批判的な評価は不当。
・米国の外交、安保政策の優先順位は、中国の台頭への対応に移り始めたか。
・インド太平洋地域で中国の台頭を抑止する上で、日本は非常に重要な存在。
今年もあと二週間ちょっとで終わりかぁ。今年は例年以上に早く終わるような気がする。これまでコロナ禍に振り回され、海外出張どころか、都内の外出もできない日々が続いたからだろうか。そろそろ2021年一年を回顧する時が来たようだ。それは後述するとして、まずはバイデン大統領肝入りの「民主主義サミット」を取り上げよう。
本邦マスコミの評価はかなり割れている。センターより右寄り(失礼!)の日経、讀賣、産経の社説はそれぞれ問題点を指摘しながらも、「米国の危機感は理解できる」、「中国の体制は民主主義とは到底言えない」、「民主陣営は台湾の民主主義を守り抜け」などと冷静に書いている。
これに対し、センターより左寄り(?)の残りの各紙は13日現在、このサミットを社説では取り上げていない。某有力紙に至ってはワシントン発の記事を掲載し、「共同声明は出されず、米専門家は学会発表のようだと冷ややか、中露も強く反発し、招かれざる国々が結束するリスクを指摘する声もある」などと批判的に報じている。
誰が「学会発表」と批判したかは知らないが、そこまで言うなら、根拠を示したらどうか。紙面の都合かもしれないが、このような「まず民主主義サミット批判ありき」の報道は頂けない。この点、今週の産経新聞コラムに中国の「国際話語権力」に言及しつつ、「民主主義サミット」の一定の成果について論じているので、ご一読願いたい。
続いて2021年の回顧と22年の展望に移ろう。昨日は航空自衛隊幹部学校航空研究センターのシンポジウムで話すという名誉ある機会を得たが、その際述べた内容の一部をご紹介しよう。要約すれば:
●米国外交・安保政策の「優先順位」が変化し、ワシントンの関心が「米ソ冷戦」から、「テロとの闘い」を経て、「中国の台頭」へと移り始めた可能性がある。
●これに応じて、米軍が戦うかもしれない戦場も、「欧州」、「中東」から「インド太平洋」地域へ移り始めたと感じる。その象徴が8月30日の米軍アフガン撤退だ。
●インド太平洋での仕事は中国の抑止であろうが、欧州や中東とは異なり、日本はキープレーヤーとなる。横須賀、佐世保、嘉手納、岩国なしには抑止は不可能だからだ。
●東アジア諸国にとって懸念すべき「不確実性」は、米国内、特にワシントンでの欧州・中東屋の巻き返しだ。露やイランは米中対立の中で生き残りを賭けるからである。
●もう一つの変化は「外交」と「軍事」の「垣根」は消えつつあることだろう。現代の戦争は陸海空や宇宙・サイバー・電磁戦に加え、心理戦も主戦場となるからである。
●中国は解放軍を現代化しつつあり、「システムのシステム」を無力化する能力を強化している。されば、日本国内の「デジタル化」傾向が、逆に日本の「脆弱性」を高める恐れがあるのではないか・・・・・・。
▲写真 軍事面での存在感を増す中国、習近平総書記(2017年10月25日 北京) 出典:Photo by Lintao Zhang/Getty Images
〇アジア
北京冬季五輪の「外交ボイコット」に関する議論で日本の対応振りに関する推測記事が出ている。一方、韓国は「ボイコットはしない」そうだが、それでは大統領が行くのかね。北朝鮮・金正恩が来る可能性は低いとしたら、一体何しに行くのかね。文在寅政権の「外交バランス感覚」は理解が容易ではない。
〇欧州・ロシア
G7外相会合がロシアに対し、「ウクライナへの軍事侵略を更に行えば、ロシアは間違いなくその行為に対する重大な結果と厳しい代償に直面する」とし、「緊張を緩和して外交チャンネルを通じた対話を追求し、軍事活動の透明性に関する国際公約を順守するよう」求めたそうだ。この程度でプーチンが怯むとは思えないのだが・・・。
〇中東
イスラエルとUAEの関係がまた一段進んだ。ベネット首相がアラブ首長国連邦を公式訪問するのは初めて、13日にはアブダビ首長国の皇太子と会談したそうだ。表向きには経済面での関係強化が議題だろうが、詳細を言及しない真の議題は当然「イラン」問題だろう。トランプ外交の数少ない成果の一つである。
〇南北アメリカ
先週はアメリカ南部・中西部で40以上の強力な竜巻が発生し、甚大な被害が出ている。特に、南部ケンタッキー州では多数の死者が出ている。学生時代の米国留学はミネソタ州だったが、学生寮にあった注意事項の第一項目が「竜巻の際の避難方法」だったことを思い出した。犠牲になった方々のご冥福をお祈りしたい。
〇インド亜大陸
特記事項なし。
今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは来週のキャノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:民主主義サミットに臨んだバイデン米大統領(2021年12月9日 ワシントン) 出典:Photo by Chip Somodevilla/Getty Image