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.社会  投稿日:2022/4/11

男子トイレに女性が入っても非難されない?


古森義久(ジャーナリスト・麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

【まとめ】

・トイレ使用の男女の区別が社会的な課題となってきた。

・男性が女性トイレに勝手に入れば、法律での罰を受けるが、女性が男性トイレを使っても、なんの違反にもならないのか。

・「性自認女性」の女子トイレ使用の事例は、建造物侵入罪で書類送検された。こうした事例をどう考えたらいいのか。

 

トイレ使用の男女の区別が社会的な課題となってきた。

戸籍では男性だが、意識では女性だという人物が女性用トイレに入ったことで刑事処分を受けた。ふつうの男性が女子トイレに入れば、もっと明確かつ厳重に処罰されるだろう。

 だが女性が男子トイレに入った場合はどうなのか。私自身の具体的な体験を報告して疑問を提起したい。

 この4月8日、金曜日のことである。場所は東京の日比谷にある東京宝塚劇場だった。宝塚歌劇団宙組の公演、「Never Say Goodbye-ある愛の軌跡―」の幕間、休憩時間だった。午後3時ごろである。第一幕と第二幕の間の35分とされる休憩時間に私は3階のトイレにいった。

写真)リンカーン・センター・フェスティバルの一環である「シカゴ」に出演する、宝塚劇団員(2016年7月20日 ニューヨーク)

出典:Photo by Linda Vartoogian/Getty Images

 ちなみに私は宝塚ファンである。ワシントンと東京と、それぞれ数ヵ月ごとの時間を過ごす生活をここ数年、送っているが、東京にいるときはときおり宝塚歌劇団の公演を観賞する。宝塚との絆の深い友人から10数年前に依頼されて、現役のスターたち数人のワシントン訪問を世話したことが契機だった。彼女たちがそのお礼にと、東京での公演に招いてくれて、実際のショーをみて、すっかり気に入ってしまったのだった。

 

さてその3階の男性専用トイレはわりに空いていて、入口に3,4人が順番を待って立っていた。その先のトイレの洗面場の小さな空間にさらに2,3人が待っていた。そこになんと、女性が1人いたのだ。きちんとしたジャケットを着て、髪も化粧も平均的な女性より、ややおしゃれ、まちがいなく女性だった。年齢は30代前半にみえた。

 私も長い人生で日本だけでなくアメリカや欧州、さらには中国などの公衆トイレをいろいろと使ったが男子専用とされるトイレのなかで女性をみるのは初めてだった。ただしときおり掃除のために男性専用トイレに入ってくる女性の清掃員は別である。その女性清掃員でもアメリカでは男子トイレでの作業中は一般の男性使用者はその間、遠慮して入ってこない、という場合が多い。

東京宝塚劇場のその3階の男子トイレで女性を最初に背後から目にしたとき、一瞬、身体の不自由な男性の介護で付き添っているのかと思った。だが彼女は1人で立っていた。しかも立って使う小便器ではなく、ドアのある便座の順番を待っていた。

つまり女性としての使用だといえよう。そしてその女性は私を含めて10数人の男性が待ったり、出入りするなかで悠然とそのドア内の用具を使い、またなんの表情の変化もみせず、男子トイレから出ていった。

 私の目撃報告は単にこれだけのことだった。だが男子トイレの女性の堂々たる使用には驚いた。公共用のトイレは男女の区分が明確である。男性が女性トイレに勝手に入れば、法律での罰を受ける。だが女性が男性トイレを使っても、なんの違反にもならないのか。

 だがここで東京宝塚劇場のトイレの特殊事情を説明する必要があるだろう。

周知のように宝塚ファンは圧倒的に女性が多い。近年、男性も増えてはいるが、この日も含めて観客のゆうに9割以上は女性だった。定員2000人ほどでほぼ満員だったから、公演前も休憩時間も女子トイレにはびっくりするほどの長い行列ができた。だからその間、待ちきれず、非常の緊急事態として男性トイレを使ってしまう女性が出ても、それほどふしぎではない。私が目撃した女性もそんなケースだったのかもしれない。

 しかし私がこれまで何年もの間、東京宝塚劇場に足を運んだ体験では男子トイレを堂々と使う女性の姿は一度もみたことがなかった。

 さてここからクイズのような疑問がわく。いまの日本の現状では男性が女性専用トイレに入って、便器を使おうとすれば、それだけで法律違反とされるだろう。法律に違反しないとしても、公序良俗に反する、常識に反する、と非難されるだろう。だが女性の男性トイレ使用は許されるのか。だとすれば、不公正ではないか。

 そこでさらに連想されるのは「性自認女性」の女子トイレ使用である。2021年5月、大阪府警は大阪市内の商業施設の女子トイレに入った戸籍上は男性だが、意識のうえでは女性だという人物を摘発した。建造物侵入罪で書類送検したのだ。この男性はふだんは男として働き、休日には女性の服装をして外出していたという。

 だがその男性は女子トイレを使い、他の利用者から「女性の服を着た男性が女子トイレを使っていて怖い」という通報が警察にあったと報じられた。だから男子は女子トイレに入ると、たとえ女の服装をしていても懲罰を受けるのだといえよう。

 私が目撃した女性はもしかすると、女装の男性だったのかもしれない。となると、男子トイレの使用は合法ということになる。だがその女性はどうみても男性だとは思えなかった。

 さてこんな事例を読者のみなさんはどう判断されるか。私の率直な疑問である。

トップ写真)公共トイレの利用において難しい決断を迫られるトランスジェンダーコミュニティ向けに造り替えられたジェンダーフリートイレ。元々は男女別のトイレだった。(2015年11月24日 ドイツ・ベルリン)

出典:Photo by Sean Gallup/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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