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.国際  投稿日:2022/4/13

北朝鮮、金正恩の偶像化に躍起


朴斗鎮(コリア国際研究所所長)

【まとめ】

・金正恩が党第一書記に就任して10年、内外政策は破綻の連続。外部情報統制下で「金正恩偶像化」を強化。

・「結語」と「書翰」で、人民の金正恩離れを自認、党末端組織の立て直しと洗脳教育の強化に躍起

・北朝鮮で形式主義と教条主義がはびこるのは、それが首領独裁の生存様式だから

 北朝鮮は4月11日、金正恩総書記が党第一書記に就任し(朝鮮労働党第4回代表者会)、党権を公式に掌握してからの10周年を迎え、朝鮮革命博物館に金正恩の業績を紹介する金日成、金正日とは別途の展示室を新たに設け、金正恩偶像化作業を新しい段階に引き上げた。

 4室で構成された展示館には、第7回党大会から5年間の業績映像・写真・演説文など800点に達する記録物と、核開発関連の親筆書などが展示された。

しかし、金正恩の執権以降、彼が内外に示した「成果」は、住民の生活と人権を無視した核と各種ミサイルの開発が全てだ。大衆欺瞞のために平壌に各種展示用の高層建築を建てたが、それは核とミサイル同様一般大衆の生活向上とは何ら関係がなかった。この10年間に北朝鮮住民にもたらされたのは、金正恩自身が認めたように「第2の苦難の行軍」という悲惨な結末だった。

 情報統制下で「金正恩偶像化作業」を強化

 2019年以降、金正恩の内外政策は破綻の連続だった。そのターニングポイントは、同年2月に行われた「ハノイ米朝首脳会談」の決裂だ。この失敗で金正恩の「核と経済建設の並進路線」は破綻し、彼の権威は大きく傷ついた。金正恩は、この危機を中枢幹部への責任転嫁と大量粛清で切り抜けた。

写真)ハノイで行われた米朝首脳会談(2019年2月27日)

出典)The White House 45 Archived

 2019年末から世界に蔓延した中国発の「新型コロナウイルス」は、北朝鮮経済を中世の自給自足経済に逆戻りさせ、経済危機を加速させた。しかし金正恩はこの事態を逆利用する生き残り戦略に出た。「コロナ防疫」を口実に北朝鮮を戒厳令下の監獄国家に変え、市場(チャンマダン)を統制し、情報の流入・流出を徹底的に取り締まった。韓流を始めとした外部情報を「反社会主義、非社会主義反動思想文化」と規定してその撲滅に熱をあげる一方で金正恩偶像化を一段と強化させた。

いま北朝鮮情報の多くは、北朝鮮官営メデイアが報じる映像やニュース報道でしか接することができない状況となっている。そうした中で、ICBM「火星15型」の発射を、新型「火星17型」発射(3月24日)成功などとする偽装映像まで世界に堂々と流した。

 しかし、北朝鮮の多くの住民は、深まる飢餓と統制の強化に不満を募らせており、金正恩が「偉大な指導者」でないことを体で感じ取っている。

 金正恩から離反する北朝鮮住民

金正恩執権後の10年間、北朝鮮では韓流などの外部情報の流入により、北朝鮮住民、特には若年層の思想意識は大きく変化した。金正恩の権威は高まらず、党組織の一般大衆からの遊離は一層進んだ。金正恩が今年に入って「第2回初級党書記大会」(2月26~28日)に続き、「第1回宣伝部門活動家講習会議」(3月28~29日)を連続開催し、党末端組織の立て直しと洗脳教育の強化に躍起となったのもそのためだ。

金正恩は「第2回初級党書記大会」の「結語」で、党が人民から乖離しているとの認識を示した。彼は「今こそ、われわれの党活動家が人民により近く、より親しく近寄るべき時である」と語り「大衆が党(金正恩)の指示貫徹に自発的に立ち上がるようにしなければならない」と訓示したが、これは大衆の金正恩離れを自認した発言と言える。

金正恩は続けて、「第1回宣伝部門活動家講習会議」を開催し「形式主義を打破し、党思想事業を根本的に革新することについて」との「書翰」を送った。

「書翰」では全社会を金日成・金正日化するたに「金正恩思想」で全社会を一色化せよとする一方で、それを妨げる最大の壁を「形式主義」と断罪し、偶像化を妨げる「反社会主義、非社会主義現象」を徹底的に根絶せよと指示した。 

しかし半世紀以上続く貧困と飢餓の中で、「大衆が領袖(金正恩)の偉大さを自ら感服するようにし、絶対的に従わせよ」(書翰)というのは無理な注文だ。それは3万5千人に及ぶ韓国への脱北者数を見ても明らかだ。また虚偽に満ちた「革命伝統歴史教育」で若い世代を洗脳する手法もすでに限界に達している。

金正恩が、「第2回初級党書記大会での結語」と「第1回宣伝部門活動家講習会議」で、過去金日成が語った言葉をアレンジして、なにか新しい教えを説くかのように語っているが、それは1955年に行った金日成演説のデジャブに過ぎない。北朝鮮で形式主義と教条主義がはびこるのは、それが首領独裁の生存様式だからだ。

金正恩の「結語」と「書翰」で明らかになった北朝鮮の現状から見て、党8回大会で提示された「国家経済発展5カ年計画」も再び「絵に描いた餅」で終わりそうだ。いま金正恩は、ロシアのウクライナ侵略を利用したさらなる軍事挑発に活路を求めようとしている。

トップ写真)北朝鮮の金正恩総書記(2019年4月25日 ロシア・ウラジオストク)

出典)Photo by Mikhail Svetlov/Getty Images




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