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.国際  投稿日:2022/5/29

バイデン大統領「台湾防衛」発言の真意


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・日米合同記者会見でバイデン大統領は「台湾防衛」に対し米国が責務を負うと発言。

・「台湾関係法」の条文には、米国による「台湾防衛」がしっかり明記されている

・米国にとって台湾は“自国領土”を意味し、したがって、台湾防衛は自国領土防衛と“同義”ではないだろうか。

 

今年(2022年)5月24日、日米共同記者会見の際、バイデン大統領が「台湾防衛」に対し責務を負うと発言した。

当日、NHKは、「バイデン大統領」の「台湾防衛」発言を、“失言癖”として報道(a)したが、バイデン大統領は以前から「台湾防衛」発言を行っており、今回も自らの意志でこう回答したとみるのが自然ではなかろうか。

米民主党政権は、大統領が訪日した際、米国の「台湾防衛」を明確化すると事前に決めていた可能性がある。おそらく、バイデン発言は、米国側の計算された、シナリオ通りの発言だったに違いない。

その後、ブリンケン国務長官は「バイデン政権は『1つの中国』政策を維持し、台湾独立を支持しない」(b)と明言した。ただし、これは米国側の中国に対するポーズに過ぎないだろう。

既報の通り、5月第1週に、米国務省は、すでにHPから「台湾は中国の一部」と言うフレーズを削除した。米国は「1つの中国」政策を明確に放棄したのである。また、米国は“台湾独立”を支持しない」という文言も削除している(換言すれば、将来、米国は“台湾独立”を支持する公算が大きい)。

実は、昨年10月にも、バイデン大統領は今回と似たような「台湾防衛」発言(c)を行っている。同大統領は、CNNがボルチモアで開催した住民大会に参加し、市民から質問を受けた。中国が台湾を攻撃した場合、米国は台湾を防衛するのかという質問に大統領は「そうだ、私達はそれにコミットする」と答えている。

これを併せて考えれば、今回のバイデン大統領による「台湾防衛」発言は“失言”であろうはずがない

さて、米国の「1つの中国」政策とは何か。

まず、中国共産党のいう「1つの中国」とは単なる“虚構”である。同党は1949年10月の建国以降、1日たりとも、(澎湖島を含む)台湾本島を統治していない。したがって、実態として、かつては「2つの中国」、現在では「1つの中国、1つの台湾」である。

米国は1970年代初頭の「米中接近」以降、中国と友好関係を維持するため(あるいは、台湾海峡で米中対決を避けるため)「1つの中国」政策を取ると言ってきた。同時に、「台湾防衛」に関して「曖昧戦略」を取るとも言い続けてきた。

北京の“虚構”に対し、ワシントンは、その“虚構”にお付き合いしてきたのである。

以前、本サイトで紹介した通り、「台湾関係法」の条文には、米国による「台湾防衛」がしっかり明記されている

重要なのは、同法第2条のC項(d)である。この点は強調しても、し過ぎる事ないので、再度取り上げよう。

「C項 本法律に含まれるいかなる条項も、人権、特に約一千八百万人の台湾全住民の人権に対する合衆国の利益に反してはならない。台湾のすべての人民の人権の維持と向上が、合衆国の目標であることをここに再び宣言する。

この「台湾人の人権の維持・向上」の部分を読めば、明らかに米国の対台湾への意図がわかるだろう。そもそも、「台湾人の生命と財産」が守られなければ、彼らの「人権の維持・向上」など無意味である。

多くの人がその点を見落としているので、「台湾関係法」の神髄が読み取れないのではないか。

別の角度からも見てみよう。本来、“外国である台湾”を米国が国内法で守ると言っているのだから、米国にとって台湾は“自国領土”を意味する(つまり、台湾は、グアムとサイパンなどの米“準州”と同等である)。したがって、米国による台湾防衛は、自国領土防衛と“同義”ではないだろうか。

以上のように、米国は“建前”(「1つの中国」政策や「曖昧戦略」)と“本音”(「台湾関係法」)を使い分けているのかもしれない。これは、米国の典型的な“二枚舌外交”である。これに、世界中の学者・研究者やメディアまで、翻弄されてきたのではないだろうか。

▲写真 台湾プロ野球(CPBL)の年間王者を決める「台湾シリーズ」第1戦、中信ブラザーズvs統一ライオンズ戦を台中インターコンチネンタル球場にて観戦する、蔡英文総統。(2021年11月27日、台湾中部・台中市) 出典: Photo by Gene Wang/Getty Images

ところで、王文斌・中国外交部(外務省)報道官は、バイデン大統領の発言について、いつもの通り「強い不満と断固とした反対」を表明(e)した。そして、「主権や領土保全など中国の核心的利益に関わる問題では、中国に妥協や譲歩の余地はない」と語った(ただし、北京の主張する台湾領有の根拠は希薄である)。

一方、昨年10月同様、台北はバイデン大統領の演説を歓迎し、欧江安・外交部報道官は「心からの歓迎と感謝」を表明している。

 

<注>

(a)参議院議員の青山繁晴氏も指摘(青山重晴の道すがらエッセイ)

(https://shiaoyama.com/essay/detail.php?id=4083 )

(b)『CNBC』「中国は長期的に深刻な挑戦だが、米国は新冷戦を望んでいないと、ブリンケンは言う」(2022年5月26日付)

https://www.cnbc.com/2022/05/26/secretary-of-state-antony-blinken-speaks-on-us-policy-toward-china.html

(c)『DW』「バイデン、台湾防衛に協力すると発言:北京は警告 台北は感謝」(2021年10月22日付)

(https://www.dw.com/zh/拜登称将协防台湾北京警告-台北感谢/a-59584074)

(d)データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)

日本政治・国際関係データベース、政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

(https://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/JPCH/19790410.O1J.html)。

(e)『米国新聞網』「バイデン:米国は台湾防衛のために軍事介入する」(2022年5月24日付)

(http://www.uscntv.com/toutiao/102917.html)

トップ写真:日米首脳会談 迎賓館赤坂離宮(2022年5月23日) 出典:首相官邸




この記事を書いた人
澁谷司アジア太平洋交流学会会長

1953年東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。元拓殖大学海外事情研究所教授。アジア太平洋交流学会会長。

澁谷司

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