[藤田正美]<ユーロ圏で最も懸念されるデフレ>金融緩和だけで緊縮財政で苦しむ国々の経済は立て直せない
Japan In-Depth副編集長(国際・外交担当)
藤田正美(ジャーナリスト)
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日本の株価は2カ月ぶりに1万5000円を回復した。それでも上昇エネルギーを取り戻したと言い切れる人はほとんどいないだろう。まず日本の成長力が戻ってきたとはとても言えない。
いわゆる岩盤規制の撤廃にどれくらいの成果を出すか、アベノミクスへの評価がそこにかかり、それが日本株への期待につながっている。その意味では、もし投資家へのアピールに失敗すれば、株価もまた安くなってしまう可能性があるだろう。
日本への期待がもし萎んでしまうと、世界経済にとっても影響が大きい。アメリカは今のところ順調に回復している。今年第1四半期はマイナス成長になったが、これは悪天候によるもので、第2四半期は大幅な成長を見込むエコノミストが多い。
いま問題なのは、EU(欧州連合)だ。 その中核であるユーロ圏で最も懸念されるのはデフレだ。5月のインフレ率は0.5%と4月の0.7%よりも低くなった。2013年後半に1%を割り込んで以来、徐々に水準を切り下げている。
ECB(欧州中央銀行)は低金利と量的緩和を継続しているが、それでもインフレ率が反転する兆しはない。今週木曜日、ECBは政策金利を引き下げ、さらなる融資促進策を打ち出すと見られるが、金融緩和だけでは緊縮財政で苦しんでいるいわゆる周縁諸国の経済を立て直すことはできまい。
もともとの問題は、ユーロ圏内部の不均衡を調整する手段がないことだ。統一通貨でなければ、為替調整によってそれぞれの国家が競争力を下げたり上げたりすることは可能だ。しかし統一通貨であるばかりに、競争力を回復する手段がない。そうなると結局、歳出削減による財政再建しかない。しかし競争力が弱くて、経済が疲弊している国に、さらに財政支出をカットして財政再建というのは、政治的に難しい話だ。
しかも一方でユーロ圏にはドイツのように圧倒的に強い国もある。ギリシャは現在のユーロでは競争力を回復できず、ドイツは現在の水準なら十分に競争力があるということも言えるだろう。そしてドイツはユーロ圏内では圧倒的に強い。
東京都と高知県のような関係と言ってもいいかもしれない。ただし日本の地方自治体と違うところは、ドイツもギリシャも主権国家であり、豊かなドイツから困っているギリシャに「富を移転する」ことが原則的にないということだ。
格差の是正という手段を欠いたままでは、弱い環がいつも叩かれるという構図は変わらない。デフレに落ち込む懸念が強まる中で、EUが統一を維持したまま、危機を乗り越えられるのかどうか、まだまだ先は見えない。
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