[古森義久]<天安門事件の虐殺から25年>日本の官民よ!中国への対応にアメリカの方法を学べ
古森義久(ジャーナリスト/国際教養大学 客員教授)
この6月4日は天安門事件の25周年の記念日となる。1989年6月4日、中国の首都、北京市内の中心部にある天安門広場に集まって、中国の民主化を求める多数の若き中国人集団に人民解放軍の部隊が襲いかかり、血なまぐさく弾圧した、あの事件である。
死者の数は数百人から数千人という多様な説があり、いまだに公式の記録は定着していない。中国政府はいまだにその虐殺の行為を認めてはいないのである。
この事件の犠牲者たちの霊を悼み、中国共産党の独裁政権の非道を非難する「天安門事件記念集会」は毎年、6月4日か、その直前に世界各地で催されるが、やはりアメリカの首都ワシントンでの動きが最も顕著だといえよう。
その一例としてアメリカ連邦議会の下院外交委員会は5月30日に「天安門の25年後」と題する公聴会を開いた。証人として25年前の天安門での民主化要求集会に加わった5人の男女を招き、感想を語らせた。この公聴会の議長を務めたクリス・スミス議員は冒頭の声明で大胆に述べるのだった。
「25年前に自由、人権、民主主義を求めて平和的に抗議をした若い中国人男女を無惨に殺戮した中国共産党政権はいまもなお中国人の間でのその事件の記憶を抹消しようと、無慈悲な弾圧を続けている。事件を回顧したことだけで多数の中国人が逮捕され、虐待されている」
アメリカ議会のこうした姿勢は日本としても見習うべきだろう。民主主義や人権尊重という人間の基本的な価値観を国境や民族の違いを超えて、普遍的に守ろうとする姿勢だといえよう。
ワシントンでは民間の研究機関のAEIや人権擁護団体の「中国人権」といった組織も25周年を記念して、天安門事件の犠牲者への弔意の表明や現在の中国政府の人権抑圧の非難を明らかにしている。天安門事件の事実さえも公式には認めようとしない中国政府の「歴史隠蔽」に対し、厳しい批判をぶつける。
一方、日本ではこうした普遍的価値を前面に出しての中国非難という動きはきわめて少ない。日本にはなにしろこの事件後まもない1990年に各国が連帯して中国に対して課していた経済制裁を破る形で対中国ODA(政府開発援助)を他のどの主要諸国よりも早く再開へと踏み切ったという前歴があるのである。
ここらあたりで日本の官民も中国へのより賢明で、より実利のある対応として、アメリカの方法を学んだらどうだろうか。
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