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.国際  投稿日:2022/6/13

「ゼロコロナ政策」否定する国務院通達


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・中国国務院は、事実上、習近平主席の「ゼロコロナ政策」を完全否定する通達を出した。

・コロナ予防と管理に関する「9つの禁止事項」。「任意」をどのように定義・認定するのか。

・「PCR検査常態化」政策に懸念の声も。

 

今年(2022年)6月5日、中国国務院(内閣)は、事実上、習近平主席の「ゼロコロナ政策」を完全否定する通達を出した。

 

共産党内で、同政策を堅持していては、経済が衰退し、国がもたないという“共通認識”が生まれたのだろう。すでに7人の政治局常務委員(最高指導者)中、習近平主席以外、全員が「反習近平派」となったという分析(a)もある。

 

同日、国家衛生健康委員会疾病管理局の雷正龍副局長は、コロナ予防と管理に関する「9つの禁止事項」をしっかりと実行するよう各地に要請した(b)。

 

(1) “任意に”中・高リスク地域から他の地区への旅行制限の範囲を拡大してはならない、

(2)低リスク地域から来た人に対して強制送還勧告、隔離などの制限措置を採ってはならない、

(3) “任意に”中・高リスク地域のロックダウンの範囲や制御時間を延長してはならない、

(4)“任意に”隔離、管理措置が必要なリスクのある人々の範囲を拡大してはならな

い、

(5)“任意に”リスクのある人々の隔離と健康モニタリング時間を延長してはならない、

(6)“任意に”コロナの予防管理を理由に、重篤患者と規則的な診療が必要な患者

に医療サービスを提供することを拒否してはならない。 

(7)条件を満たし学校を離れて帰郷する学生に対して隔離などの措置を取ってはならない、

(8)“任意に”防疫検査所を設置して、客や貨物運転手の通行を制限してはならない、

(9)“任意に”低リスク地区で正常な生産、生活を保障する場所を閉鎖してはならない。

 

新浪微博(中国版ツイッター)では、「防疫のための各レベルでの9つの禁止事項」が検索上位に入り、24時間足らずで8000万回を超える再生回数を記録(c)した。しかし、公式報道に対するコメントはすべて閉鎖されている。

 

中国のネットユーザーは、中央政府が発表した「9つの禁止事項」中、主観的な判断を意味する「任意に」(中国語では「随意」)という語句が7回使われたことにいち早く注目した。

 

写真)PCR検査を受けようと列に並ぶ人々。 中国北京 2022年6月10日

出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images

 

上海在住のあるネットユーザーは自身の微博アカウントで、「『任意に』とはどういう意味なのか」という質問を投稿している。「任意」をどのように定義・認定するのか。国の衛生委員会が優位なのか、地域の衛生委員会が優位なのか、それとも「お上からの指示」が優先されるのか。あるいは、現場スタッフに任せるのか。

 

実は、陝西省で、上海から帰国した大学生が「自発的自費検疫通知書」に署名し、宿泊費1日300〜500元(約6000~1万円)、朝食25元(約500円)、昼食40元(約800円)、夕食35元(約700円)という高額な検疫費を負担させられ、検疫期間中の費用を一括して支払わされるという事件が発生(d)した。

 

現在、米国在住の滕彪(元中国政法大学教員で、現ニューヨーク市立大学ハンター校講師)は「多くの規制条項は執行部門に裁量権を与えても、世論の反映と独立した司法制度がちゃんと整っていれば、その限りではない」(c)と述べた。

 

中国には、政策導入の段階で、民主的な伝達経路がなく、その後のプロセスでも、独立した司法制度という救済経路がない点が問題だろう。

 

先月5月、吉林省西平市がPCR検査を2回以上受けなかった者に対して「10日間の行政拘留、500元(約1万円)の罰金、信用失墜者リストへの掲載とメディアへの公開」などの罰則を発表し、国民の不満が爆発している。

 

一方、趙宏・中国政法大学教授は『澎湃新聞』(2022年6月5日付)で、「PCR検査常態化」政策について主に3つの懸念を示した(e)。

 

第1に、それには莫大な経済的費用と人件費がかかり、予算がブラックボックス化し、公的な監視が困難である。第2に、巨大な市場規模とその利益によって、PCR検査改竄事件が頻発している。第3に、「PCR検査常態化」は一般国民に大きな負担を強いるものであり、政府はそれを実施するために高い実施コストをかけなければならない。

 

また、滕彪は、「PCR検査常態化」には、他に2つの大きな問題があると指摘(c)する。1つは、政府がコロナ流行に乗じて国民の自由を制限し、監視を強めている。もう1つは、利益集団に汚職する機会を与えているという。

 

 

(注)

(a)『中国瞭望』「政治局常務委員5人が李克強を支持か?専門家:第20回党大会に向けて党内で内紛が続く」(2022年6月8日付)

(https://news.creaders.net/china/2022/06/08/2492245.html )

 

(b)『rfi』「中国、防疫に関する『9つの禁止事項』を発布し、無許可の管理拡大を禁止」(2022年6月5日付)

(https://www.rfi.fr/cn/中国/20220605-中国发布防疫-九不准-禁擅延管控)

 

(c)『RFA』「国務院は過剰防疫を禁ずる禁『9つの禁止事項』を発表 学者は『PCR検査常態化』を批判して注目を集める」(2022年6月6日付)

(https://www.rfa.org/mandarin/yataibaodao/huanjing/jt-06062022093814.html)

 

(d)『網易』「上海帰りの大学生は高い検疫料を払わされ、嫌われた:金がないなら上海に帰れ」(2022年5月29日付)

https://www.163.com/dy/article/H8GOV2LT0525ICLA.html?f=post2020_dy_recommends

 

(e)『聯合報』「中国の学者はPCR検査の常態化を疑っている メディア検索語トップにのぼった」(2022年6月6日付)

https://udn.com/news/story/122650/6368143

 

写真)大学入学試験を終えた後、PCR検査を受ける生徒 中国・北京 2022年6月10日

出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images




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