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.国際  投稿日:2022/5/11

習近平主席退陣報道がネット上に


澁谷司(アジア太平洋交流学会会長)

【まとめ】

・「習近平主席の退陣」に言及した記事がネット上に。「すでに半ば退位し、李克強首相が代行している」と。

・習政権が、経済規制、対米外交、ロシア・ウクライナ戦争などの主要問題で、政策レベルでの転換を行ったとの指摘あり。

・政局の中心は上海。習氏は「ゼロコロナ」で後には引けず、「反習派」には、このままでは「“泥船”が沈む」との危機感か。

中文のポータルサイト『万維読者網』(202257日付)に「公式報道が興味をそそる!習近平主席は本当に退陣するのか?」という注目すべき記事が掲載(a)された。これは、前回の拙稿とは正反対の内容となるが、その記事を紹介しよう。

最近、習近平が退陣するのではないかというニュースが飛び交っている。一部のSNSでは、習近平主席がすでに半ば退位し、李克強首相が代行しているという。

江沢民が軍を動かし、胡錦濤・曾慶紅が党を動かし、王岐山・王滬寧の2人がそれを実行に移した。だが、共産党は、習主席を否定しない、責任を追及しない、時期が来たら引退すると約束した。また、李首相に譲位した事を第20回大会で公表するという。

 

写真)習近平国家主席(左)は半ば退位し、李克強首相(右)が代行しているとの「噂」も(2022年3月11日 北京

出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images

他方、習主席を個人崇拝するすべての人々は下野し、党は対内外政策を微調整して、徐々に方向を変える。習主席の部下達は引退し、「反習派」に抵抗した多くの人々は底辺まで落ちる。習主席はすでに権力を持たず、体面だけを残している。

5月5日夜、習主席が中央政治局委員会の議長を務め、コロナの予防と制御を強化するための取り組みを検討するという速報が流れた。

ただし、習主席については、主席が会議を主宰し、重要な演説を行ったと伝えただけだった。習主席の具体的な言葉はなかったが、これは約10年ぶりのことである。通常ならば「習近平は、……と指摘した」と報道すべきだろう。

今回の報道では、従来の伝統的な「習近平を核とする党中央委員会」ではなかった。党中央委員会が、どうあるべきかを繰り返し述べ、同委員会の整合性を強調している。

習主席が主宰した今度の政治局委員会は、確かに異常だった。当日夕方のニュース放送は、これまでの会議とは異なり、アナウンサーが5分間原稿を読み、会議の映像はまったくなかった。

そして、よく見ると、アナウンサーの表情には不安の色が浮かんでいた。珍しく映像の入らない報道である。まさか習近平主席は会議に出席していなかったのだろうか。なぜ会議の映像を放送しなかったのか。

また、別のニュースでは「北京市民に賛辞を!北京市委員会、市政府は全市の市民へ感謝状」、最後に「党中央委員会の強い指導の下、市が一丸となってコロナと闘うことで、その予防と制御のための戦いに勝つことを確信し、実行できる!」と締めくくった。

これも異例だが、「党中央委員会」だけで、その中に「核心」という文字が欠落している。噂話はあてにならないが、公式報道は興味深い。

以上が全文の拙訳である。

確かに、記事の前段の部分は、あくまでも噂に過ぎず、確証がない。ストーリーが創作され、「習派」または「反習派」が流した偽情報かもしれない。だからと言って、現時点で、これが嘘だと決めつける根拠も乏しい。おそらく、時が来れば、事実が明らかになるだろう。

ところで、4月末から5月初めにかけて、わずか数日間で、習近平政権が経済規制、対米外交、ロシア・ウクライナ戦争への姿勢などの主要問題で、政策レベルでの転換を行ったことに外部は気付いたという。

『時刻新聞』(2022年5月7日付)の「習近平は最も深刻な圧力を受けた直後、公式報道は異常なシグナルを発した」(b)という記事も、併せて概略を紹介したい。

近年の習近平主席の言動スタイルを見ると、もし、何らかの強い圧力がなければ、主席の肝煎りの3政策 ―コロナ規制、戦狼外交、無制限の中ロ協力― に関して、一斉に舵を切るとは考えにくいとアナリストが指摘する。

例えば、ある評論家は、直近の習近平演説を分析し、いくつかのポイントにまとめた。

まず、第1に、習主席は、現在のコロナ予防・制御方法は党の性質と目的によって決まると述べた。

これは「ゼロコロナ」モデルの政治的役割を大幅にアップグレードしたものである。今後、都市の「ゼロコロナ」化やロックダウンに反対する者は“反党”人士であり、“カラー革命”を起こす人物となるだろう。

第2に、習主席は、武漢市防衛戦に勝利したので、必ず上海市防衛戦にも勝つと述べた。

これには二つの側面がある。一つは、習政権は、上海市を1か月間ロックダウンしたが、「ゼロコロナ」を達成できず、失敗に終わったという事実が残った。もう一つは、同政権としては、上海市でどんなにコストがかかっても絶対に勝利するという決意である。

写真)新型コロナウイルスの感染拡大で市民に検査を実施する保健当局者(2022年4月6日 上海市)

出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images

現在、皆、北京市に目を向けつつあるが、政局の中心は明らかに上海市だろう。習主席の言葉を借りれば、「ゼロコロナ政策」は今や自らの絶対的な指導部を守るためのグリップとなっている。しかし、それは逆に「反習派」が自分を倒すためのグリップでもある。

結局、習主席は、「ゼロコロナ政策」に関して一歩も後には引けない状況なのかもしれない。一方、「反習派」としては、このままでは「“泥船”が沈んでしまう」という危機感を抱いているのではないだろうか。

トップ写真)習近平国家主席(2022年4月8日 北京)

出典)Photo by Kevin Frayer/Getty Images

 




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