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.政治  投稿日:2023/4/5

「武闘派」の師匠の教えは“意識改革”「高岡発ニッポン再興」その65


出町譲(高岡市議会議員・作家)

【まとめ】

・後藤さんは社長就任してから、堤義明さんとの関係を断ち切り、経営改革を断行。

・社員の意識改革と社内風土の改革を基に、社員のアイディアを受け入れた。

・高岡再興には、市職員の意識改革も必須。

 

私に組織の「意識改革」の重要性を教えてくれた師匠がいます。後藤高志さんです。18年間西武ホールディングスの社長をしていましたが、この4月1日からは会長に就任しました。

後藤さんが「西武」入りしたのは、2005年です。後藤さんは、西武のメインバンク「みずほ」の副頭取を務めた人物です。頭取候補とも言われていましたが、「火中の栗を拾った」などと話題になりました。 

当時の西武鉄道は、有価証券報告書の虚偽記載事件をきっかけに、経営破綻の瀬戸際に追い込まれていました。長年君臨していたのが、カリスマオーナーの堤義明さんでした。堤さんと言えば、アメリカの経済誌「フォーブス」の長者番付ランキングで世界一になった人物です。

「西武」は、オーナー経営者、堤義明さんの「個人商店」でした。関係者によれば、堤さんは企画立案するのは自分で、社員はその“手駒”にすぎないという姿勢でした。堤さんの「天の声」が支配していたのです

堤さんとの関係を断ち切り、経営改革を断行したのが、後藤さんです

私は当時、テレビ朝日の経済部デスク。後藤さんとは、銀行時代からお付き合いさせていただきました。テレビ朝日の後輩で、のちに参議院議員になった丸川珠代さんも交えて、何度も食事会をすることもありました。

私は後藤さんに誘われて、東大ラグビー部のOBが開いた「後藤を励ます会」に飛び入り参加したこともあります。私自身も高校・大学でラグビーをやっていたこともあり、共鳴することが多かったのです。後藤さんは西武の再生でも「難局でも逃げないラグビー精神が生きた」と語っています。そのラグビー精神が後藤イズムの根幹です。

後藤さんが社長に就任してから11年目。私は2016年春にインタビューしました。鉄道、ホテル、不動産を経営の3本柱に据える西武ホールディングスとして再上場を果たしていました。後藤さんは手ごたえを感じているようでしたが、その時、何度も口に出していたのは、社員の意識改革、社内風土の改革です。

「頻繁に若手社員と座談会で話し合ったり、幹部社員と一緒に、将来の西武グループがどうあるべきかを議論する『後藤塾』を定期的に開きました。『社長の気持ち』という社員のみ閲覧ができるブログを月に3~4回のペースで更新。これも十年続けていて、出張先での小噺や野球観戦の感想など自由に記して、発信しています。」

印象深かったのは、こんな言葉です。

次々に出てくるアイデアに僕は絶対『ノー』とは言わないですよ。むしろ社員に『やってみよう』と後押ししています」。

有名シェフ監修の料理が楽しめるレストラン観光電車や、若者がラップを踊る電車など「社員のアイデア」を次々に導入しました。また、ホテルや不動産部門でも毎日のように社員から企画が上がるといいます。そして、2016年の3月期の連結決算は572億円と過去最高となりました。

後藤さんは伝説的なサラリーマンです。「みずほ」の前身、旧第一勧業銀行は1997年に総会屋事件の渦中にありました。総会屋に対し、460億円もの利益供与をし、頭取経験者らが逮捕されました。当時は企画部副部長。改革派の「四人組」の筆頭格として、社内改革の旗を振りました。組織内でいつも改革に立ち向かう姿勢を貫き、いつしか「武闘派」と呼ばれるようになりました。

西武の経営も、足元では、コロナの影響もあって、2期連続の営業赤字を計上しました。23年3月期にようやく3期ぶりとなる営業黒字になる見通しです。このタイミングでの社長交代です。新たに社長に就任した西山隆一郎さんも「みずほ」出身です。今後はお二人が二人三脚で、経営を担うのでしょう。

意識改革の重要性は、何も企業だけに限りません。総務省の元自治財政局長で地域活性化センターの椎川忍さんは、地方公務員のあり方について「住民の生の声を踏まえずに、国が作った既存の『法令や制度』を忠実に運用することで仕事をした気持ちになっている」と指摘。その上で、「常に、国民や地域住民のみなさんの立場に立って、少しでも改革・改善ができないかと考えるべきだ」と主張していました。椎川さんが言及する「法令や制度」。西武に当てはめると、堤義明さんの「天の声」につながります。

ひとりひとりが自分で考え、アイデアを出す。そして実行する。高岡再興には、高岡市の職員の意識改革が必要です。「前例がないからできない」。そんな職員の意識をどう変えるのか。私は、住民の生の声を踏まえて、今後も議会で質問していきます。

トップ写真:株式会社西武ホールディングス代表取締役社長後藤高志氏 出典:西武グループ新卒採用ページより




この記事を書いた人
出町譲高岡市議会議員・作家

1964年富山県高岡市生まれ。

富山県立高岡高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。


90年時事通信社入社。ニューヨーク特派員などを経て、2001年テレビ朝日入社。経済部で、内閣府や財界などを担当した。その後は、「報道ステーション」や「グッド!モーニング」など報道番組のデスクを務めた。


テレビ朝日に勤務しながら、11年の東日本大震災をきっかけに執筆活動を開始。『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』(2011年、文藝春秋)はベストセラーに。


その後も、『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』(2013年、文藝春秋)、『九転十起 事業の鬼・浅野総一郎』(2013年、幻冬舎)、『景気を仕掛けた男 「丸井」創業者・青井忠治』(2015年、幻冬舎)、『日本への遺言 地域再生の神様《豊重哲郎》が起した奇跡』(2017年、幻冬舎)『現場発! ニッポン再興』(2019年、晶文社)などを出版した。


21年1月 故郷高岡の再興を目指して帰郷。

同年7月 高岡市長選に出馬。19,445票の信任を得るも志叶わず。

同年10月 高岡市議会議員選挙に立候補し、候補者29人中2位で当選。8,656票の得票数は、トップ当選の嶋川武秀氏(11,604票)と共に高岡市議会議員選挙の最高得票数を上回った。

出町譲

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