皇帝然と米国務長官を謁見した習主席
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2023#25
2023年6月19-25日
【まとめ】
・米中外相会談、成果はあるはずもない。
・習近平主席がブリンケン国務長官を「皇帝」然と「謁見」した姿には驚いた。
・こんなことをやる中国は永久に一流国になれないだろう。
今週は先週の無茶な海外出張が祟ってか、始動が遅れてしまったが、まずは、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きから始めたい。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを勝手に選んでご紹介している。欧米の専門家たちの今週の関心は以下のとおりだ。
6月19日月曜日 UN-Women理事会、年次総会(ニューヨーク)、麻薬委員会、欧州薬物法執行機関長官会議、第15回会議(ティラナ)、放射線の影響に関する国際連合科学委員会 第70回会議(ウイーン)、UNCTAD、貿易開発庁、第70回会合(ジュネーブ)・・・・
【国連等の国際会議が目白押しなのは、そろそろ夏休みが近いからかね。昔ジュネーブのWTOで交渉官をやっていた頃は、欧州でベストの季節となる毎年7月から9月までの間は国際会議が殆ど開かれなかった覚えがある。みんな夏季休暇を取るからだと言われていたが、勿論確証はない。】
6月21日水曜日 EU一般問題理事会、非公式会合(ストックホルム)、ウクライナ復興会議(英国・ロンドン)
【ウクライナ復興会議は最近かなり頻繁に開かれているが、今回EUは500億ユーロ規模の資金援助パッケージを提案する予定といわれる。かなりの額となりそうだが、問題は欧州各国がこれを何時まで続けられるか、ではなかろうか。】
6月22日木曜日 ECB総会(フランクフルト)、様々な形態の人種差別の撤廃に関する国際条約締約国、第30回会合(ニューヨーク)、米印首脳会談(ワシントン)
【注目は米印首脳会談である。インド首相訪米は国賓で、目玉の一つは インド軍用機のジェットエンジン製造許可を米ゼネラル・エレクトリック(GE)に与える合意だと報じられている。米印の兵器共同開発には、恐らく何らかの形でイスラエルも関与しており、対ロシア・中国牽制になる。アメリカもインドに対し着々と打つべき手は打っているようだ。】
6月24日土曜日 G7男女共同参画・女性活躍担当相会合開幕
6月25日日曜日 グアテマラ大統領選
【グアテマラは台湾と外交関係を持つ国の一つで、台湾の総統は4月下旬、同国のジャマテイ大統領と台北市内の総統府で会談している。この保守系大統領の与党が勝つか否かは台湾にとって大問題だろうな。】
それはさておき、今週の焦点はやはり米中外相会談だろう。たかがブリンケン、されどブリンケン。バイデン政権発足から二年半、米国の閣僚が公式に訪中するのは今回が初めてだからだ。まあ、その重要性を否定するつもりはないが、「どの程度成果があったか」にしか関心のない内外メディアの報道ぶりには相変わらず閉口するばかりだ。
今の筆者はブリンケンの記者会見を熟読し、中国側報道を読んだだけだが、どう考えても、成果がある筈はない。敢えて言えば、マイナス10点がマイナス5点になっただけだろう。それでも数学的に言えば、-10から-5になれば+5であり、それはそれで、成果と言えなくもない、かなといった程度の話である。
それにしても、習近平主席がブリンケン国務長官を、対面ではなく、「コ」の字のテーブルの中央で、あたかも「皇帝」然と「謁見」した姿には、さすがに驚いた。余程アメリカ側は習近平との会談を切望したのか?案の定、如何にも中国らしいやり方で切り返されたようだ。でも、こんなことをやる中国は永久に一流国になれないだろう。
〇アジア
米国務長官は「中国側はロシアに殺傷兵器を供与していない」と表明した旨記者会見で述べたが、同時に、中国の私企業が「軍民両用」の機材等をロシアに供与する可能性はあるので警戒を続ける、とも述べている。恐らく、中国製dual-use機材等は第三国経由で既に大量に送られているのではないか。
〇欧州・ロシア
ウクライナ軍は苦戦しながらも、反転攻勢が本格化したこの2週間で、ザポリージャ州などで8つの集落を奪還したと発表したが、ロシア国防省も同州で最も戦闘が激しくなっていることを認め、ロシア側が精鋭の部隊を転戦させているそうだ。結果を見極めるにはもう数週間かかるだろう。
〇中東
「中東の政治秩序が、ほぼ「アラブの春」の前に戻った。民主化を弾圧したシリアはアラブ連盟に復帰し、民主化を進めたチュニジアは独裁に回帰する。サウジアラビアはイランとの断交を解消し、トルコでは長期政権がさらに続く」と某有力紙の中東専門家が書いていた。米国には不利益、というのはその通りだが、これが本来の姿だからなぁ。
○南北アメリカ
いつもトランプ前米大統領の話ばかりなので今回は大統領の次男ハンター・バイデンについて。2017-18年連邦税の期限内未納罪で有罪を認める一方、薬物使用未申告で銃購入した罪は免れる司法取引で、弁護団と検察側が合意したという。微罪とは言えないが、「国家機密」文書の持ち出しと比べたらどうなのか?いずれにせよ、噂の絶えない息子を持つのは辛い。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真:人民大会堂でパレスチナ自治政府のマフムド・アッバス大統領と会談する習近平国家主席(2023年6月14日に中国・北京)出典:Photo by Jade Gao – Pool/Getty Images
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この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表
1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。
2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。
2006年立命館大学客員教授。
2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。
2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)
言語:英語、中国語、アラビア語。
特技:サックス、ベースギター。
趣味:バンド活動。
各種メディアで評論活動。