.政治  投稿日:2013/10/16

[清谷信一]陸自の新兵器、機動戦闘車は無用の長物

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清谷信一(軍事ジャーナリスト)

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防衛省技術研究本部は10月9日相模原の陸上装備研究所において、兼ねてから開発中の機動戦闘車の試作車輌を公開した。

「機動戦闘車は戦闘部隊に装備し、多様な事態への対処において優れた機動性及び空輸性により迅速に展開するとともに、大口径砲により敵機甲戦闘車輌および人員に対するために使用する」としている、つまり戦車戦は想定しておらず、島嶼防衛では敵の軽戦車以下の装甲車輌、ゲリラ・コマンドウ対処では味方の普通科へ直接照準による火力支援をする、ということになっている。

 

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機動戦闘車は戦闘重量が約26トン、全長8.4メートル、全幅2.98メートル、全高2.87メートルとなっている。従来自衛隊の装輪装甲車は道路法の制限で2.5メートル以下に抑えられてきたが、機動戦闘車はこれを大きく超えることとなった。

エンジンは出力420kw(570馬力)水冷4気筒ディーゼルエンジンで、最高速度は時速100キロとなっている。主砲は国産の新規開発の105ミリ施線砲であり、同軸機銃は74式7.62ミリ車載機銃で、砲塔上に12.7ミリ機銃が装備されている。また砲塔左右には各4基の発煙弾発射機が装備されている。なお英語の略称はMCV(Maneuver Combat Vehicle) となっている。

筆者は機動戦闘車は陸自装備として全く必要なく、量産すべきではないと考えている。そもそも機動戦闘車の開発目的も運用構想も不明瞭だ。開発決定当初は機甲科で運用するとしていたが、現在では「戦闘部隊」で運用するとなってどこが運用するのか明確にしていない。

これは機甲科化が運用すると財務省から戦車の一種であると認定されてしまうからだ。実際過去の防衛省の予算関連の書類では機動戦闘車は戦車の枠に含まれるとされていた。

陸自の戦車の総数は防衛大綱で規定されているが、総枠は1200輌から400輌までに減らされている。機動戦闘車までこの枠に押し込められてはかなわない、「別腹」にしたい、という思惑がある。

だから機甲科が運用するのか、普通科(歩兵)、特科(砲兵)が運用するのか、分からない。つまり責任をもって仕様要求する運用側が存在しない。例えば機甲科が偵察用車輌として使うのか、普通科が火力支援のための自走砲として運用するのかでは要求が異なってくる。例えば企業で

パソコンを調達するときに、営業部で外回りに使うのか、デザイン部で商品設計使うのか、経理部で経理に使うのではラップトップかデスクトップなのか、仕様やソフトも変わってくるだろう。

確固たる要求がければまともな装備が開発できるわけがない。開発と装備自体が目的としか思えない。実際は機動戦闘車は戦車が削減される機甲科の「失業対策」として計画されたのだが、先述のようにあまりに「戦車らしい」と戦車全体が減らされて藪蛇となる。だから、「戦車らしさ」を減じている。このため中途半端な車体となっている。

そもそも現代の装甲車輌でネットワーク化するか否かも決めてない点も問題だ。中国のVN1の戦車駆逐車やトルコのARMの戦車駆逐車型など途上国、中進国の同様な車輌でもネットワーク化されている。

常識的に考えれば火器管制装置、ナビゲーションなどC4IR関連は10式戦車と共通化すべきだ。現にイタリアの戦車駆逐車、センタウロはアリエテ戦車と共用化している。そうすれば10式と教育や兵站もかなり共用できる。それをやらないのは「戦車と同じ」あるいは「戦車並み」の性能を持たせると、財務省からこれは戦車だと言われ、防衛大綱の戦車の枠に押し込まれてしまうからではないか。恐らくはわざわざ機動戦闘車は10式とは別の、性能を落としたシステムを導入している可能性がある。

人口の7割が都市部に集中している我が国の環境を鑑みれば、ゲリラ・コマンドウ対処の歩兵排除に105ミリ砲はオーバーキルであり、副次被害もより大きくなる。この点でも105ミリ砲は適していない。更に実物を見る限り機動戦闘車の主砲の仰俯角は浅く、また油圧による姿勢制御もできないので、ビル上階に立てこもった敵の排除には向かない。むしろ姿勢制御が可能な10式や90式の方が有利だ。

複雑なドライブラインや操舵システムなどはむき出しであり、地雷やIEDの被害をまともに受ける。諸外国ではこの種の装甲車は耐地雷・IED生存性に力をいれているのと対象的だ。

空輸能力も疑問がある。C-2で空輸が可能というが今後C-2の調達数はせいぜい年に2機程度だ。つまり10年後に使用できるC-2は15機程度に過ぎない(発注しても完成まで時間がかかるので、毎年2機発注しても10年後に20機が使えるわけではない。また稼働率も100パーセントではない)。

10年後になってもやっと1個中隊と支援部隊を運べる程度だ。だが実戦では兵員や弾薬、食料、飲料水、兵站車輌などの輸送の方が遥かに優先順位が高い。

その上C-2の運用には舗装された二千メートル級滑走路が必要だ。C-130のように急場に造成した飛行場での運用は不可能だ。ところが、南西諸島には舗装された二千メートル滑走路は殆どない。島嶼防衛に空輸できるというのは絵に描いた餅にすぎない。

イタリアの同種の戦車駆逐車センタウロなどはファミリー化され、派生型が多数製造され、調達・運用コストを下げている。ところが機動戦闘車はかなり特殊でそれもできないし、そのようなファミリー化を前提にした計画もない。ファミリー化ができない装甲車はコンポーネントや、訓練、教育、兵站が共用できないので運用コストがどうしても高くなる。当然ながら調達コストも高くなるので、毎年の調達数は減って、調達が完了するには20年以上もかかったり、あるいは途中で調達が中止になる可能性が極めて高い。

陸自の装甲車輌は調達数が極端に少なく、このため調達・維持コストが極めて高い。また1輌あたりの開発費も高くなる。96式120ミリ自走迫撃砲などは僅か24輌しか生産されていない。その他二桁の数しか生産されていない装甲車輌は多い。その多くは北海道にしか配備されておらず、筆者はこれを北海道限定販売の銘菓になぞらえて「白い恋人」と呼んでいる。

機動戦闘車はゲリラ・コマンドウ対処、島嶼防衛の両方に向いた装備でも対して役に立つ装備でもはない。

そんな予算があるのであれば、通信にインフラを含めたネットワーク化に使うべきだ。先の東日本大震災では陸自の無線機が数も足りず、不通という自体が多発した。人体でいえば神経が麻痺している状態だ。マトモに戦争できるはずがない。また実用化されていたヘリ型UAVは防衛省が「大規模災害やNBC環境下における偵察に必要」であり、開発は成功とHPに誇らしく書いていたが、一度たりとも飛ばなかった。

まともな無線機、まともな偵察用UAVなど情報化、ネットワーク化に関する投資するほうが、陸自の戦闘力をよほど上げることなる。

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