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.経済  投稿日:2026/6/2

殺傷兵器を輸出しないのが「平和国家」なのか


執筆:清谷信一(防衛ジャーナリスト) 

■本稿のポイント

・軍用トラックや工作機械、炭素繊維なども現代戦の決定的な要素であり、殺傷兵器だけを規制しても加担は防げない。 

・輸出競争のない国内防衛産業は、他国製の7倍の維持費がかかるC-2輸送機など、有事に機能しづらい装備に巨額の税金を費やしている。 

・スイスや北欧、南アフリカなど、国際平和に寄与しつつ冷徹な現実主義で兵器を輸出する国々は珍しくない。 

 

政府が武器輸出の規制緩和を進める中、戦闘を支える兵站の現実を直視しない「お気持ち平和主義」が国内の防衛議論を停滞させている。輸出競争のない環境で、他国製の7倍もの維持費がかかるC-2輸送機など「高コスト・低性能」な装備に巨額の税金が浪費される構造に陥っている。武器輸出と平和構築を両立させる冷徹な現実主義を見据え、防衛ジャーナリスト清谷信一氏が警鐘を鳴らす。(Japan In-depth編集部)

 

政府は現在の武器輸出に関する規制を緩めようとしている。これに対して殺傷兵器を輸出すると平和国家ではなくなるとの反対が少なくない。だが「平和国家」とは何なのか。また殺傷兵器を輸出すると「平和国家ではなくなる」というのは事実なのだろうか。

>5類型の制限を失えば、武器が戦闘に使われるリスクが高まる。「死の商人」のイメージがつきまとうようでは、平和主義の理念が損なわれる。

https://mainichi.jp/articles/20251203/ddm/005/070/082000c

>政府、与党が検討する武器輸出の拡大に反対する。日本で製造された殺傷兵器が、国際紛争で使われる恐れが一層強まる。平和国家としての一線を越えてはならない。

https://www.nishinippon.co.jp/item/1444608/

 

「平和国家」という定義なき神学論争 

アカデミズムや政治家、思想家が殺傷兵器を輸出すると平和国家ではなくなると懸念を表明し、それを検証もなく、平和国家の定義もなく無批判に記者クラブメディアの新聞やテレビが報道する。

率直に申し上げて彼らの「平和国家ではなくなる」というのは現実を直視せずに、お気持ちだけを述べているに過ぎない。軍事の実態や軍事的な教養が欠如している感情論に過ぎない。更に申せば反知性主義である。

平和を真摯に訴求するのであれば軍事や戦争について学ぶ必要がある。なぜ戦争が起こるのか、軍事産業とはどのような構造になっているのか知る必要がある。例えるならば健康を望むのであれば病気について知り、どうすれば病気を遠ざけることができるか知ることが必要だろう。千羽鶴を折ったり、念仏を唱えても平和にはならない。

ところが「平和主義者」の人たちは「私は健康が好きです。ですから忌まわしい病気について知りたいとは思いません」と公言している等しい。糖尿病なのに暴飲暴食を重ねて、千羽鶴を折ったり、念仏を唱えても糖尿病がよくなる道理はない。

 

「非殺傷・汎用品」が戦闘を左右する現実

「殺傷兵器を輸出しなければ平和国家である」というのであれば平和主義であり、戦争に加担しないと考えているのだろうか。輸送機や軍用トラック、早期警戒機、空中給油機、電子戦機、偵察用ドローンなどは非武装だ。これはいいのか?

軍隊が戦闘を行う場合に膨大な兵站が必要となるが、それを輸送するのがトラックや輸送機、輸送船だ。第二次大戦では米国はソ連に大量の軍用トラックを供与した。これが、ソ連がドイツに勝利した要因である。いくら戦車や榴弾砲があっても前線に人員や食料、燃料、弾薬を運ぶ手段がなければ軍隊は機能しない。

また相手を探索したり攻撃を防ぐためにはレーダーや光学センサーなどが多用されている。相手がどこにいるかを特定できなければ攻撃はできない。「平和主義者」の主張はレーダーや情報、兵站を軽視した旧帝国陸海軍と全く同じだ。戦争では殺傷兵器だけではなく、非殺傷兵器も極めて重要だ。

また殺傷兵器でない工作機械は輸出していいのか。多くの日本製工作機械が海外の兵器工場で使用されている。これはいいのだろうか。「平和主義者」が工作機械の軍事利用を中止しろといったことを筆者は寡聞にして聞いたことがない。戦前にアメリカからの工作機械の輸入が止まって精度の高い製品が作れなくなり、我が国の軍事産業は大きな打撃を受けた。

戦史を学び、軍事的な教養があれば殺傷兵器のみが危険な兵器であるとの認識は出てこないのではないか。

また軍事利用されている汎用品の輸出は問題ないのか。日本製の炭素繊維、ディスプレイ、光学センサー、工作機械、車輛などは世界の兵器メーカーで使用されている。YKKは戦闘服やバックパックのファスナーは世界的な供給者だ。これらの製品はデュアルユースであるが、殺傷兵器生産にも使用されている。これらを完全に民生品だけに使用するように規制するのは困難である。これらの製品を全般的に輸出規制すべきなのか。

 

兵器の輸入と国防放棄をめぐる二重基準 

殺傷兵器を輸出するのは禁忌だが輸入するのはいいのか。いうまでなく我が国は戦闘機やミサイルなど多くの殺傷兵器を輸入している。これが「平和国家」ということになるのか。

だがこれは「平和論者」がいうところの「死の商人国家」を儲けさせていることになる。これは、売春は倫理上許せないが。買春は問題ないと主張するに等しい。

武器を生産できない国は国防をあきらめろ、侵略されたら降伏しろというのか。軍隊に必要な兵器や装備をすべて国産できる国は実は殆どない。自国で満足に兵器を生産できない国に輸入をするなというは国防と抑止力による平和を放棄しろと迫るに等しい。

紛争国に輸出をするなというのは侵略されるにまかせろ、という主張になるが、そうであれば我が国が侵略された場合に他国からの兵器の調達や供与を受けられないことになる。それとも自分の国は例外なのだろうか。

 

市場競争なき防衛産業の「ぬるま湯」 

平和主義者も反対する自称保守主義者も共通しているのは日本製兵器に対する過大な評価である。いったん日本が本格的に兵器輸出を始めれば途端に世界の兵器市場を席捲するだろうという白日夢を見ている。

だがそれは幻想に過ぎない。日本製兵器は2流、3流である。性能、信頼性が低く、調達コストや維持コストが他国の何倍も高い。昨年アベマTVに出演したときに、中谷元前防衛大臣も認めていた。

輸出をしないとことは有事に役に立たない国産兵器を他国の何倍ものコストで調達し続けて防衛費を無駄にし続けることだが、これを許容しろという主張になる。

 

情報なき「観念的開発」とガラパゴス化の弊害 

これは長年防衛省と自衛隊だけを顧客にしてきたため、国営企業的なぬるま湯につかってきたからだ。更に申せば防衛装備庁と自衛隊に軍隊としての常識が欠如しているのでまともな兵器開発を指導できる能力がない。例えば約15年前まで防衛省の海外見本市の視察予算は90万円程度に過ぎなかった。そして派遣されるのは退職前の偉い人で、情報収集ではなく「卒業旅行」に使われていた。つまりまともに情報収集してこなかった。情報がないところで観念的に開発をしてきたのだ。

例えば陸上自衛隊が採用した18式防弾ベストは外国製に比べて1桁高かった。これを筆者が報じて国会で問題になり調達が中止になった。

 

性能不足と巨額の維持費――C-2輸送機の商戦敗退 

空自の国産輸送機のC-2は維持整備コストが諸外国の輸送機に比べて7倍程度高い。これを日本政府はアラブ首長国連合に売り込もうとしていた。日本はUAE(アラブ首長国連邦)にC-2を売り込み、防衛省や川崎重工業の関係者は「事前協議が実を結びつつある」と明かしていた。選ばれたのはC-2ではなくエンブラエル社のC-390だった。

C390の単価は90億円前後である。対してC-2は2018年時点で1機230億円、今なら250億円は超えているだろう。機体サイズは多少サイズが大きいとしても2.7倍だ。しかも稼働率はC390やC130よりもかなり低い。トン当たりの維持費は他国の輸送機の7倍程度だ。

しかもUAEの周辺に使用国はないし、日本製コンポーネントを使っているので緊急時にパーツが枯渇する可能性が高い。対してC390はユーザーが多いうえに、民間輸送機を元に開発されているのでパーツの入手は極めて容易です。更に申せばもともとKC390という空中給油もできる機体だ。

しかもC-2は戦術輸送機に必要な不整地での運用ができない。つまり砂漠やへき地の非舗装滑走路では運用できない。のみならず、敵の攻撃を受けて応急処置をした滑走路でも運用できない。UAE側から「C-2は不整地で運用できないだろう」と尋ねられて日本側は困惑したという。

海自のP-1哨戒機もこれまた維持整備費が高いだけでなく、長年稼働率は3割程度だった。有事に役に立たない出来の悪い装備を買って税金をドブに捨てるのが平和主義なのか。輸出市場で揉まれて、より高い性能と品質、安いコストで調達できる兵器を開発・調達して防衛費を適切に使ってきちんと抑止力になるようにすべきではないのか。

対して韓国、トルコ、シンガポール、中国はこの四半世紀で国産兵器の性能、品質、コスト競争力は格段に向上した。これは厳しい輸出市場で揉まれてきたからだ。日本製品=最高品質・高性能というのは程度悪いテクノナショナリズムに過ぎない。

 

武器輸出と平和構築を両立させる国際標準 

武器輸出をするのは「悪い国」なのか。一般的にスイス、スウェーデン、その他北欧諸国などは「平和主義者」にとってもいいイメージがあるはずだ。だがこれらの国々は兵器輸出国で世界のメジャープレーヤーだ。「平和主義者」がこれら国々を「死の商人国家」と批判したことを筆者は寡聞にして聞いたことがない。これらの国々は平和構築のための外交活動も活発に行っているが、「死の商人国家」として糾弾するのか。それはこれらの国々にとって大変失礼ではないか。それともスイスや北欧の武器輸出は許容できて日本はダメだというのであれば二重基準である。

 かつてアパルトヘイト政策をやめて民主国家となった南アフリカの初代大統領であるネルソンマンデラは平和の象徴にされてきた。だが彼は兵器輸出を止めなかった。南アは榴弾砲や耐地雷装甲車など多くの高性能兵器を輸出して外貨を稼いでいたからだ。耐地雷装甲車はアフガンやイラクの戦闘用に米国などが大量に採用した。マンデラ氏は南部アフリカの安定化にも大きく寄与した平和主義者だが冷徹な現実主義者でもあった。彼は「死の商人」なのか。

「平和国家論者」は少しでも上記のようなことを考えたことがあるのだろうか。ご案内のように新聞にもそのような論調が見受けられるが、高い教育と記者として長年の職歴がある論説員や解説員などに軍事的な教養が欠如して「お気持ち」で記事を書いていないか。それはジャーナリズムではない。

 論理的に論ずるべき問題を「お気持ち」で推し通すのは「宗教」である。だが平和を欲し具体的に政策を批判、討論するのであれば軍事の知識と教養が必要だ。それがないから日本では軍事に関する議論が「神学論争」になりやすい。

 兵器輸出に反対なのであれば軍事の現実を把握したうえで議論をすべきだ。輸出しないで国内向けだけ開発するにしても性能、品質、コストをどう担保するのか。輸出先を規制するのであればどのようなケースでは輸出を規制するのか。平和を欲するのであればまず軍事の実際を知り、地に足を付けた議論をするべきだ。

 

記者クラブの独占体制となし崩しのルール運用 

 「お気持ち平和主義」はむしろまともな議論を阻んでむしろ危うい状況を作ってしまうのではないか。またこのような「お気持ち平和主義」を無批判に掲載する記者クラブメディアが防衛省の取材機会を独占していながら、他の媒体やフリーランスを排除していることは大変問題だ。防衛省の取材を独占していならがその機会を活かすつもりがないならば、防衛記者クラブから排除すべきだ。

 無論武器輸出に関しては厳格なルールが必要だ。だが日本政府にそれができるのか、大変疑問だ。例えばSM-6などのミサイルの共同開発や共同生産、次期戦闘機GCAPへの参加、オーストラリア向けのフリゲイト輸出などは5類型見直し前に実施あるいは実施が決まっていたが、既存のフレームの例外扱いされていた。つまり現在のルールをなし崩し的に犯してきた。オーストラリア向けのフリゲイトに関しては共同開発となっているが、これは日本語の表示板を英語に直した程度であり「共同開発だから例外」というのは羊頭狗肉の類である。いわゆる「平和主義者」がやるべきことはこのような具体的な問題点を明らかにして、それを検証することではないか。

 

【よくある質問(FAQ)】

Q1:「防衛装備移転三原則」とは何ですか?

A:2014年4月に国家安全保障会議決定・閣議決定で定められた、防衛装備の海外移転に関する日本のルールです。それ以前の「武器輸出三原則等」に代わるもので、海外移転を禁止する場合(条約上の義務違反・国連安保理決議違反・紛争当事国向け)を明確化したうえで、平和貢献・国際協力や日本の安全保障に資する場合などに移転を認め得るとしています。2023年12月22日に一部改正されました。【出典】防衛装備移転三原則(令和4年版防衛白書)(防衛省)

Q2:かつての「武器輸出三原則」とは何でしたか?

A:1967年に佐藤栄作総理が国会答弁で表明した政策で、(1)共産圏諸国向け、(2)国連決議で武器等の輸出が禁止されている国向け、(3)国際紛争の当事国またはそのおそれのある国向け、の3つの場合に武器輸出を認めないというものです。1976年の三木内閣の政府統一見解と合わせて「武器輸出三原則等」と呼ばれてきました。【出典】武器輸出三原則等(外務省)

Q3:「5類型」とは何ですか?

A:防衛装備移転三原則の運用指針で海外移転を認め得る装備の代表的な分類で、救難・輸送・警戒・監視・掃海の5つを指します。2023年12月の運用指針見直しでは、これらの本来業務や自己防護に必要な武器の搭載が可能であることが明確化されました。【出典】防衛装備移転三原則・運用指針の見直しの概要(2023年12月22日)(内閣官房・外務省・経済産業省・防衛省)

Q4:「デュアルユース」とは何ですか?

A:軍事と民生の両方に利用できる技術や製品を指す「軍民両用」の概念です。本稿で挙げられている工作機械、炭素繊維、光学センサーなどがこれにあたり、輸出管理上は外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づき規制の対象となり得ます。

Q5:「GCAP(次期戦闘機の国際共同開発)」とは何ですか?

A:日本・英国・イタリアの3か国が進める次期戦闘機の共同開発計画(Global Combat Air Programme)です。2022年12月に3か国による共同開発が公表され、2024年3月には、この計画に係る完成品を日本からパートナー国以外の国へ移転し得るよう、防衛装備移転三原則の運用指針が改正されました。【出典】次期戦闘機の開発について(防衛省)

 

関連リンク

防衛装備移転三原則(令和4年版防衛白書)(防衛省)

武器輸出三原則等(外務省)

防衛装備移転三原則・運用指針の見直しの概要(2023年12月22日)(内閣官房・外務省・経済産業省・防衛省)

次期戦闘機の開発について(防衛省)

 

トップ写真)国産輸送機 C-2

出典)航空自衛隊

 




この記事を書いた人
清谷信一防衛ジャーナリスト

1962年生 防衛ジャーナリスト 作家。日本ペンクラブ会員。

2003~08年まで英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』日本特派員を務める。ドイツの防衛専門誌、「European Security and Defence」(英字誌)日本特派員。 東洋経済オンライン、Japan indepthなどのオンラインメディアにも寄稿。

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