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.国際  投稿日:2023/12/17

犯罪に巻き込まれるより恐ろしい、脆弱なNYのインフラ


柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)

【まとめ】

・ニューヨークの古い7階建てのアパートの一部が突如崩壊した。

・ニューヨークのインフラはとにかく呆れるくらいボロい。

・重要な問題に、行政が真摯に対応してこなかったツケが現れてきているのでは。

 

ニューヨークの建物は古いものが多い。

先日、市内の古い7階建てのアパートの一部が突如崩壊し、大変な騒ぎとなった。

直前にビルが崩壊しそうな予兆があったということで、中にいた住人は間一髪脱出、奇跡的に、怪我をしたり、犠牲になった人は一人もいなかった。

写真)12月11日午後、角部屋が全部崩落した、ブロンクス区の7階建てのアパート。一階は店舗で雑貨屋が営業していた

筆者撮影)

(ビル倒壊の瞬間を捉えた市バスのドライブ・レコーダー)

https://www.news.com.au/world/mta-bus-footage-of-bronx-building-collapse/video/7d41758d5f70c79b13a7bb3e500d4e92 

大げさに聞こえるかも知れないが、実は、こういうことはニューヨークではさほど珍しくない。私自身も過去に何回か取材に出たこともあり「またか」という感が強い。今年に限っても、春に市内の古い立体駐車場が突如崩落した、という事があった。

何もしてないのに「ビルが突如崩壊」する。

今回は部分の崩落であったが、過去には全壊した例も多く、爆撃を受けたかのごとくビルが跡形もなく崩れてしまったのを、報道を通して何回も見ている。

今回事故があったのは、世界大恐慌直前の1927年に建築されたビルである。建築から100年近く経っているこのビルは、3年以上前から、当局より100件以上の違反で「かなり危険。改善を」と何回も警告を受けていたが、ビルの所有者は「12ヶ月以内に対処する」と行政に返答したものの、部分的にしか対応していなかった。

住人からは、壁の膨らみ、床の傾斜などの報告も相次いでいたと言うが、この事故、自分は大変な衝撃を受けている。なぜなら私の住むアパートのビルは1925年の建築で、今回崩壊したビルと同じく100年近く前のビルなのだ。

私だけでなく同じ様に古い建物に住んでいて、衝撃を受けたニューヨーカーはたくさんいるはずだ。よってニュースの扱いは大きい。

私のアパートだけにとどまらず、ニューヨーク市内に戦前から建っているアパートの数は、日頃見ている感じでは、市内全体で半分以上あるのではないかと思えてしまう。築100年を超える現役の建物もかなりある。

ニューヨークは世界の先端を行く都市、とされながらも、ビルに限らず、インフラなどの実態はかなりボロい。とにかく呆れるくらい何でもボロい。

地下鉄のホームは、膨大な数の通勤客をさばくには狭く、混雑が激しくなると線路に落ちそうになる。実際、転落事故も起きている。

大雨が降ると地下鉄の階段からは濁流、天井からも滝のような水が降ってくることもある。今年10月に降った大雨ではまさにそういうことが繰り返された。これも、大雨が降ると毎度、おなじみの光景となってしまっている。

ニューヨークに来たことがある方ならおわかりになると思うが、街の汚さに加え、道路はでこぼこ、穴だらけ。

ロバート・デ・ニーロ主演の映画「タクシードライバー」の冒頭シーンで描かれる、ニューヨークの道路から湧き上がるスチームは、NYのイメージの一つとなったが、あれは、古いシステムに、温水(スチーム)を供給しているパイプが古く、穴が空いて、結果蒸気が道路に漏れ出しているだけなのだ。つまり単純にボロい。

あの映画から50年近く。

まさか観光客のために放置しているのでは無いかと?思うくらい、今でも状況は変わっていない。

写真)NYの名物?道路から上がる蒸気。実は、古くて穴が空いたパイプからスチームが漏れ出してるだけ

筆者撮影)

2007年には、その道路の高圧スチームパイプが爆発、レキシントン・アベニューに10メートルの大穴が開き、死者1人、20人以上が負傷、という事態も招いている。(参考:Steam Pipe Explosion Jolts Midtown; One Person Is Confirmed Dead – The New York Times

同じスチームが原因で、重さ200キロ以上のマンホールの蓋が10メートル以上宙に舞い上がったことも「何回か」あった。マンホールの蓋に、地下のどこからか電気が漏電していて、上を歩いた散歩中の犬が感電死した、という信じられないことが起きたこともある。道路関連のトラブルは上げればきりがない。

とにかく、何でもボロい。日本人から見ると、NYのインフラは日本より100年は遅れているのではないか、と思ってしまう。

道路の穴、ビルの倒壊、地下鉄の浸水、など、いつまで経っても一向に事態が改善せず、また、毎度同じことが繰り返される。

なぜ、NYではそういうことが多発するのか。

写真)NY市内の道路はどこも穴だらけ、ヒビだらけ

筆者撮影)

察するに、重要な問題に対して、行政が真摯に対応してこなかった結果が、今になって大きなツケとして現れてきているのだと思う。問題を先送りした結果、今から手を付けようと思っても、もう、どうしようもない事態にまで問題が深刻化しているのだ。一つを直している間に、故障が3つ起きる、ということがずっと前から状態化している。そして修理はまさにその場しのぎ。

冒頭の、倒壊したビルに住んでいた26世帯(大人79人、子供22人)の住人は、現在ホテル住まいなどを余儀なくされている。現在は、家のものを取りに行くことは一切認められていない。年末を迎えたこの時期に、気の毒で仕方ない。

知っての通りニューヨークには犯罪が多く、日頃、巻き込まれないように注意しているが、犯罪に巻き込まれなくとも、ニューヨークには、日常の延長線上で、命に関わるような危険が一杯、と改めて思わされ、年の瀬にまた、ため息が出る。

トップ写真:崩落したNY市内のアパート 2023年12月11日 )筆者撮影




この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー

1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。

柏原雅弘

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