全米にも衝撃走る「水原氏電撃解雇」 どっぷりハマるオンライン・ギャンブリングの恐ろしさ
柏原雅弘(ニューヨーク在住フリービデオグラファー)
【まとめ】
・スポーツ賭博は、2018年、全米レベルでスポーツ賭博が一気に解禁に動いた。
・手軽さで人気のオンラインギャンブリング、全米19州で合法。
・アプリで、プロスポーツほぼ全部に手軽に賭けられることから危険極まりない。
大谷ショックから一夜明けて、アメリカでも事件の詳細が明らかになるどころか、混乱は増すばかりだ。
新しい情報が出てくるでもなく、メディアやSNSでもあれやこれやと憶測が流れるばかり。このニュース、ドジャースがある西海岸のロスとは反対側のニューヨークでも、大手メディアも含めて、驚きを持って報道されている。
アメリカ在住の日本メディア関係者で、スポーツ関連の取材に関わったことのある者なら、誰でも一度は、現場で水原氏と直接、話したことがあるのではないだろうか。それだけに事件の衝撃は、私にも身近で生々しい。
水原氏がのめり込んでいたというスポーツ賭博。近年までは、ほぼ全米で違法だった。
1992年、競馬、ドッグレースなどを除くスポーツに賭けることを禁止する法律「プロ・アマスポーツ保護法」が米国議会で可決(連邦法)、当時のブッシュ大統領(父ブッシュ)の署名で、施行された。
その後2012年に、ラスベガスに次いで有名なカジノの街、アトランティック・シティを擁するニュージャージー州では、雇用促進と、税収アップを狙って、州レベルでスポーツ賭博を合法化しようとしたが、この連邦法がそれを阻んだ。
そこで、ニュージャージー州は「この連邦法は、憲法で禁止されていない権限は、州、及び、国民にある、とする憲法修正第10条に違反する」として提訴、連邦最高裁まで争われた結果、2018年、ニュージャージー州の意見が認められ、これを奇貨とし、全米レベルでスポーツ賭博が、一気に解禁に動いた。
現在では全米50州のうち、30州以上でスポーツ賭博は合法であるが、大谷が所属していたエンジェルス(アナハイム)、現在の所属先であるドジャース(ロサンゼルス)があるカリフォルニア州では、現在もスポーツ賭博は違法である。
現在、賭博(ギャンブル)はアメリカでは各州の法律で管理されている。
ギャンブル全般の規制が緩いのは、
・ニューヨーク、イリノイ、インディアナ州など
逆に一番厳しいのは
・ハワイ、ユタ、サウスカロライナ州など
である。
ハワイは宝くじも含めて賭けに関するものはすべて禁止されており、ユタ州(モルモン教徒が作った州とされる)と並び全米で最も規制が厳しい。
アメリカのギャンブルで見て見ぬふりが出来ないのが、手軽さで人気の「オンライン・ギャンブリング」である。
携帯でもアクセスでき、手軽さの分、ギャンブルにどっぷりハマってしまう危険性と諸刃の剣だ。そのような理由からか、スポーツ賭博を解禁した州でも、19州ではオンライン・ギャンブリングは禁止されている。
オンライン・ギャンブリングは、オンライン・カジノに始まり、競馬、野球、バスケットボール(大学も含む)、サッカー、ホッケー、テニス、モータースポーツなどに賭けることができ、その種類はプロスポーツほぼ全部であり、アプリで簡単に賭けられる。携帯のゲームの点数そのものを現金化出来るアプリも存在する。
私は、日本ではギャンブルというものはパチンコしかやったことがなかった。
昨年であるが、世界が注目する、年に一度の競馬の大イベント、ケンタッキーダービーの取材に出かけた。せっかく世界でも有名な競馬イベントに来たのだから、と、興奮して初めて馬券を買ってみた際、携帯アプリの存在を知った。
興味もあって、現場で早速携帯にインストールしてみてハマった。
何しろ、馬券を買うのが簡単なのである。
競馬場に居ながらにして、馬券購入の列にならぶ必要もないので、もはや「馬券を買う」という感覚すらない。
アプリにアカウントを作って、銀行口座を登録。運良く賭けに勝てれば、そのアカウントに仮想のお金が積み立てられ、引き出すときには手数料を差し引いた金額が銀行に振り込まれる(ちなみに競馬場での「勝馬投票券」の高額払い戻しは、払い戻し窓口隣にある「鬼の税務署」の窓口で、天引きの形で税金を最初に納めなければ払い戻されない。高額当選金をオンラインで引き出す場合はどうなるのであろうか)。
このアプリ、使うのは簡単だがオンライン・ギャンブリングが違法とされる州では使おうと思っても、位置データが読み取られ起動できない。
オンライン・ギャンブリングが合法なニューヨークで賭けに参加し、勝っても、仮に、出張などでカリフォルニア州に移動したときに、お金をカリフォルニア州で引き出そうと思っても出来ない仕組みだ。
また、カリフォルニアなど、オンライン・ギャンブリングが合法でない州ではアプリそのものが起動できない。
このアプリ、あまりに手軽なのと、数字だけを追っかけているので、賭けている実感がなく、個人的には危険極まりないと感じる。
今だから告白するが、私は日本にいた時、パチンコ依存症だった。安月給しかもらってないのに、収入のほぼすべてを長期にわたってパチンコにつぎ込んでいた時期があった。結果、借金まみれになって、ほぼ破滅状態になってしまった。
経験から、ギャンブル依存の恐ろしさは身を持って分かっているつもりである。
パチンコ依存症から脱出できたのは、アメリカに来て、パチンコから物理的に遠ざかることが出来たからに過ぎない。日本にそのままいて、自らの意志の力でそこから脱出できたのか?と自問すれば、意思の弱さを自認する自分には、無理だったと思う。
水原氏は自らギャンブル依存症だったと告白した。あくまでも仮定だが、家宅捜索を受けたという違法スポーツ賭博の胴元のカモにされていた可能性もある。掛け金は後払いで借りた、との報道もある。それでは雪だるま式で借金が増える。悪徳高利貸しの手口だ。
水原氏に全面的に同情する訳では無いが、アメリカでギャンブルが合法化される背景には、闇で暴利をむさぼる違法業者を排除する狙いも大きい。
▲写真 アメリカで一番メジャーな、オンライン・スポーツ賭博のアプリ画面。MLB開幕、韓国でのドジャースvsパドレス戦最終日8回裏に賭ける画面(筆者提供)
この記事を書くにあたって久々にオンライン・ギャンブリングのアプリを起動して見たら、大谷が活躍する韓国でのMLB開幕戦が賭けの対象になっていた。
思わず身を乗り出したが、何のためにこの記事を書いているのかと思い直し、良い機会だと思ってそのアプリは削除した。
ギャンブルは恐ろしい。
(了)
ギャンブル依存症の問題でお悩みの方は:公益社団法人ギャンブル依存症問題を考える会
トップ写真:ロサンゼルスドジャーズ大谷翔平選手と水原一平氏(右)2024年3月20日 韓国・ソウル 出典:Masterpress/Getty Images
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この記事を書いた人
柏原雅弘ニューヨーク在住フリービデオグラファー
1962年東京生まれ。業務映画制作会社撮影部勤務の後、1989年渡米。日系プロダクション勤務後、1997年に独立。以降フリー。在京各局のバラエティー番組の撮影からスポーツの中継、ニュース、ドキュメンタリーの撮影をこなす。小学生の男児と2歳の女児がいる。