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.国際  投稿日:2022/6/1

米州サミットに暗雲 メキシコ不参加表明に同調相次ぐ 


山崎真二(時事通信社元外信部長)

【まとめ】

・北米と南米・カリブ諸国の首脳が一堂に会する「米州サミット」が来月上旬、米国で開催される予定

・バイデン大統領は同サミットを主催し、中南米での米国の指導力の回復を目指したい考え

・しかし、メキシコ大統領が欠席の意向を示したのを機に不参加表明国が続出、サミットが首尾よく開催されるかは予断許さず。

 

 

■28年ぶりに米国で開催

「米州サミット」はこれまで特別のケースを除き、おおむね3年ごとに定期的に開催されてきた。今回で9回目。6月6日から10日までロサンゼルスで開かれる。米国で行われるのは、クリントン政権下の1994年にマイアミで第1回が開催されて以来となる。

第9回サミットは当初、2021年に開かれる予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で今年に延期された。世界の現状を「民主主義と専制主義の闘い」とみるバイデン大統領は昨年12月、初の「民主主義サミット」を開催しており、「米州サミット」はその中南米バージョンとも言える。

今回のテーマは「持続可能で強靭性のある公正な未来の構築」(米国務省)。新型コロナ対策、民主主義、移民問題、気候変動対策などが主要議題になるとされている。しかし、これまでのところ米国による新たな対中南米経済支援策などは明らかにされておらず「サミット開催の目的があいまい」(メキシコ有力メディア編集長)といった声も聞かれる。

 

■米国の指導力回復目指す

バイデン政権が「米州サミット」を開催する本当の目的は、中南米地域での米国の指導力を回復するためと言って間違いないだろう。

かつて「中南米は米国の裏庭」と呼ばれていたが、近年は同地域での米国のプレゼンスの減退が目立つ。2001年の米同時テロ事件以後、米国の中南米への関心が全般的に低下したことがその背景にある。

キューバとの国交を回復したオバマ政権時代のケースは例外的と言っていい。とりわけ、「米国ファースト」を唱えるトランプ前大統領はベネズエラ問題以外は中南米への関心が低く、前回2018年の第8回「米州サミット」を欠席している。同サミットを欠席した米大統領はトランプ氏が初めて。

写真)トランプ前大統領。第8回米州サミットを初めて欠席した。

出典)Photo by Tom Pennington/Getty Images

中南米への米国の関与が弱まる中、中国がこの地域に大幅進出したのは周知の事実。中南米諸国の貿易・投資分野を中心とする中国の影響力は資源ブーム終焉後の2015年以降一時減少したものの、依然として大きいことは否定できない。

オバマ政権の副大統領時代を含め中南米にたびたび足を運び、自ら「中南米通」と称するバイデン大統領は「今回の米州サミットを対中南米戦略の優先課題と位置づけ、中国に対抗して本来の米国の影響力を取り戻す機会にしたいと考えている」(米国の中南米専門シンクタンク専門家)といわれる。

 

■「すべての国参加せねば欠席」-メキシコ大統領

だが、メキシコのロペスオブラドール大統領が欠席の意向を表明するや、これに同調する国が続出した。これらの国は主に左派ないし中道左派の政権だ。

ロペスオブラドール大統領の不参加の理由は、メキシコが友好関係を維持するキューバニカラグア、ベネズエラの反米3カ国をバイデン政権がサミット招待国から除外する方針を示したため。同大統領は「(米州の)すべての国が招待されない限り、出席しない」と強硬態度を崩さない。

これに続きボリビア左派政権を率いるアルセ大統領も「兄弟国が参加しないなら、出席するつもりはない」とメキシコに追随。今年1月発足したホンジュラス左派政権のカストロ大統領も同様の理由から不参加の意向を示す。

さらにアルゼンチンのフェルナンデス大統領は「西半球のすべての声を聴くためには特定の国の参加を排除しないようにすべきだ」と主張、事実上、バイデン政権の対応を批判。カリブ海10数カ国のスポークスマン的役割を果たすアンティグア・バーブーダの駐米大使は「キューバが排除されれば、カリブの大半の国は参加しない」と警告した。

また、グアテマラのジャマテイ大統領は左派ではなく右派とされるが、同国の検事総長に対し米国が汚職疑惑を理由に制裁措置を科したことに抗議し、サミットに参加しないと表明している。

米CNNなどの報道によれば、バイデン政権はこうした状況を受け、在米キューバ人の母国への渡航や送金規制の緩和、べネズエラ石油禁輸の見直しなど、メキシコを中心とする各国の反発を抑える方策を検討しているという。

しかし、バイデン政権としては今秋に中間選挙を控え、フロリダ州有権者の動向を考慮すると、安易な妥協はできないと予想される。多くの中南米諸国の首脳が欠席し、サミットが首尾よく開催されない事態となれば、バイデン大統領のメンツが丸つぶれになるだけでなく米国の中南米戦略が大きな痛手をこうむることになりそうだ。

(了)

トップ写真)左からメキシコのロペスオブラドール大統領、バイデン米大統領、カナダのトルドー首相(2021年11月18日 ワシントンDC)。

出典)Photo by Alex Wong/Getty Images




この記事を書いた人
山崎真二時事通信社元外信部長

 

南米特派員(ペルー駐在)、ニューデリー特派員、ニューヨーク支局長などを歴任。2008年2月から2017年3月まで山形大教授、現在は山形大客員教授。

山崎真二

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