無料会員募集中
.社会  投稿日:2024/1/19

「アレンパ」と金メダルの期待度 続【2024年を占う!】 その4


林信吾(作家・ジャーナリスト)

林信吾の「西方見聞録」

【まとめ】

・パリ五輪サッカー日本代表、56年ぶりにメダル獲得か。

・サッカーは開会直前まで組み合わせと日程が分からない。

・サッカーの試合は、なにが起きるか分からない。

 2023年の流行語大賞は「アレ A.R.E」が受賞した。

 阪神タイガースが18年ぶりのリーグ優勝、さらには38年ぶり2度目の日本一に輝いたのだが、岡田彰布監督はペナントレースで独走態勢に入ってからも、選手たちが優勝をあまり意識しない方がよいと、あえてその言葉を避け「アレ」と表現していたもの。

 そして2024年のスローガンは「アレンパ」になった。

 発案者は佐藤輝明選手で、岡田監督も、

「初めて、佐藤はすごいと思った」

 とコメントしている。新人から3年連続20本以上ホームランをうったことよりすごいらしい。蛇足の説明を加えると、球団史上初の連覇を目指すという意味で、これは私にも、少々意外であった。もう少し勝っているかと思っていたのだが笑。

 YouTubeなどで、元プロ野球選手の見立てを聞くと、2024年に阪神が連覇を達成する確率は結構高いと開陳する人が多い。

 私は野球にさほど造詣が深くないが、この点は同じように考えている。理由は、昨年1年間、ほぼ固定された先発ポジションと打順で戦い抜いたからだ。

 これは個人的な思い出と関わりがあって、私の小中学校時代は、読売ジャイアンツがV9(9年連続日本一)を成し遂げた黄金時代と重なっている。

 半世紀以上前の話で、しかも当時からプロ野球にさほど思い入れのなかった私でさえ、世に言うV9戦士の顔ぶれを覚えていたくらいだ。

 1番ライト高田、2番セカンド土井、3番ファースト王、4番サード長嶋、5番センター柴田、6番ライト国松、7番キャッチャー森、8番ショート黒江……投手陣も「エースのジョー」こと城ノ内をはじめ、金田、堀内、高橋一三ら、そうそうたる顔ぶれ。

 年度によって多少の変動はあるものの、常勝を誇るチームとはこのように、ほぼ固定されたオーダーで戦うことができるのである。

 余談ながら、王貞治、長嶋茂雄の両氏は別格の知名度で、また高橋一三という姓名は珍しいので覚えていたのだが、下の名前までは知らない選手の方が多い。球界にはどういうわけか高橋、山本、小林という姓の選手が多く、フルネームで報じられることがよくあった、という事情もあるのだろう。

 今の阪神も前述の通り、ほぼ固定した先発メンバーで戦える上に、ノイジー、ミエセスという助っ人が来日2年目となり、日本の野球に慣れてくれば「化ける」可能性もある。なにより主力の大半が20代なので、まだまだ今後が楽しみである。

 岡田監督自身、現有戦力と自身の采配には手応えを感じていると見えて、オフの恒例とされる新外国人や、トレードもしくはFAで他球団の選手を獲得するという形での補強については、特に考えていない、と言い切ったほどだ。

 2024年はパリ五輪も予定されている。

 日程は、7月26日から8月11日まで。例によって真夏の開催となるが、これは本連載でも以前に触れたように、他に大きなスポーツの祭典がなく、巨額のTV放映権を取りやすい、ということであると思われる。

 その詮索はさておき、サッカー日本代表がメダルに届くかどうかが楽しみだ。

 本当はまだアジア最終予選が控えているので、メダルどころか出場さえ確定していないのだが、まあ今の戦力で予選敗退は考えにくい。

 思えば1968年のメキシコ五輪で銅メダルを獲得したのが最後で、ワールドカップで存在感を示すまでになっていながら、五輪代表はいまひとつ影が薄い。

 理由のひとつは、出場資格が23歳以下に限定されていることだが、団体種目でこうした規定があるのはサッカーだけである。

 これには歴史的背景というものがあって、そもそも五輪はアマチュアの大会なのだが、社会主義国が誕生したことから、話がややこしくなったのだ。

 と言うのは、社会主義体制下ではプロのサッカークラブも「国営企業」で、選手は「公務員」ということになるので、西側の基準ではアマチュアに分類される。あとは詳しく語るまでもないであろう。ワールドカップに出てくるような「アマチュア」と本物のアマチュアが戦うというのでは、結果は分かりきっている。第二次大戦後、サッカーのメダルは東欧諸国が独占するようになった。

 対応に苦慮したIOC(国際オリンピック連盟)は、1970年代にオリンピック憲章から、世に言うアマチュア規定を削除し、1984年のロサンゼルス大会からプロの出場を認めようとした。ところが、FIFA(国際サッカー連盟)は、これをよしとしなかったのだ。

 こちらも今では広く知られているが、FIFAは1930年に第1回ワールドカップ(「ウルグアイ大会」を開催し、大いに人気を博していた。サッカー世界一を決める大会は、ワールドカップを置いて他にはない、あってはならない、という論理であった。

 両者の駆け引きの結果、1992年のバルセロナ五輪から「23歳以下限定」でプロ選手も出場できる、というルールになったのである。その後、3名だけ23才以上のオーバーエイジ枠が設けられた。

 話を戻して、パリ五輪で日本代表は実に56年ぶりにサッカーのメダルを獲得できるのでは、と期待する向きが多い。

 冷静に考えたならば、前述の通りまだ最終予選を残しているので、メンバーさえ正式に決まっていないのだが笑、現在22歳以下であるところの五輪世代に、タレントが揃っていることは事実だ。

 たとえばラ・リーガ(スペイン1部)で活躍し、A代表の一員としてワールドカップ・カタール大会にも出場した久保建英は2001年生まれで出場資格を満たしているし、目下予選を戦っているメンバーの中にも、ヨーロッパのクラブに在籍する者がいる。

 この世代の特徴としてもうひとつ、ハーフの選手たちが台頭著しい。ゴールキーパーの鈴木彩艶(父親がガーナ出身。名前の読み方は〈ざいおん〉)、同じくキーパーの小久保怜央ブライアン(父親がナイジェリア人)、さらにはミッドフィルダーの藤田譲瑠(じょえる)チマも、やはり父親がナイジェリア人である。

 過去には、朝鮮半島やブラジル、あるいはオランダにルーツを持つ選手が、帰化して日本国籍となり、代表に名を連ねた例は見られたが、ハーフの選手は珍しかった。

 今すぐ思い出せるのは、ドイツ人の母を持ち米国生まれという酒井高徳くらいなものだ。フィジカルの強さに加え、右利きなのに生来のレフティのようなプレーの出来るという、私の「推し」の選手であったが、A代表のポジション(右サイドバック)は、長きにわたって酒井宏樹のものとなっていた。

 私見だが、ハーフの選手が台頭してきていることは、日本もいよいよサッカー強豪国の仲間入りをする兆候ではないかと思える。

ヨーロッパの強豪国は、一見するとどこの国の代表だか分からない顔ぶれになっている例が多い。中南米は、もともと移民が築いた国々なので、似て非なるものとも言い得るが、多様な人種構成になっていることに変わりはない。

 ただ、そのことと「今度こそ金メダル」という期待とは、まったく別の話である。

 プロ野球のペナントレースと違って短期決戦であるから、選手のコンディション調整も難しいし、負傷離脱者が出た場合のダメージも深刻だ。

 思えば、2000年シドニー五輪も、A代表でも「若き司令塔」と称された中田英寿を中心に、2002年ワールドカップ日韓大会で名を上げる蒼々たる顔ぶれで臨んだが、結果は6位どまり(準々決勝敗退)であった。

 もうひとつ、プロ野球のペナントレースと異なる点があって、それは開会直前まで、どのような組み合わせと日程で戦わなければならないか分からない、ということである。

 そもそも論から言うならば、サッカーの試合展開は極めて予測しにくく、なにが起きるか分からない。

 だから面白いのだ、という前提で、私も久々のメダルを楽しみにしている一人である。

トップ写真)FIFAワールドカップ・アジア2次予選シリア対日本戦後、ファンに感謝の意を表明する日本の選手たち(2023年11月21日サウジアラビア・ジェッダ)

出典)Yasser Bakhsh / Getty Images




copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."