日本のサポーターよ、原点に戻れ スポーツの秋2023 その4
林信吾の「西方見聞録」
【まとめ】
・最近の日本代表はヨーロッパのトップリーグでもまれている者ばかり。
・浦和レッズ、サポーターの暴力行為で来年度天皇杯参加資格剥奪。
・次のワールドカップが楽しみだという空気に水を差す。
9月10日(日本時間)、サッカー日本代表がドイツ代表とアウェイで対戦した。結果は4-1で圧勝。
サッカーでは一般に、3点差がつけば相手を粉砕したとかされたと表現するので、ドイツはホームで日本に粉砕されたことになる。
所詮は親善試合に過ぎないから、とか、ドイツ代表がどうもまとまりに欠ける印象を受けた、などといった声も聞かれたが、私に言わせればいずれも結果論だ。
ご案内の通り、昨年のワールドカップ・カタール大会において、日本は優勝4回を誇る強豪に逆転勝利し、その強豪ドイツを1次リーグ敗退に追い込んだ。
ドイツ代表にしてみれば、八つ裂きにしても飽き足らない、とまでは言わないにせよ、ホームで連敗の憂き目を見ることなど、あってはならなかった。
しかしながら前述の通りの結果で、ドイツのメディアは「大惨事」などと書き立て、ハンジ・フリック監督とコーチ二人は解任の沙汰となったのである。
たしかに、左サイドバックが本職の選手を右で起用するなど、ドイツの戦術は「敵方」でさえ首をかしげたくなる面があったが、日本の右サイドがやりたい放題に近いゲーム展開になったのは、やはり「イナズマ・ジュンヤ」こと伊東純也のスピードと、今や日本代表のお家芸とも言える、見事な中盤の連携であった。
それ以上に、ケガでしばらく戦列を離れていた冨安健洋が、素晴らしい働きを見せた。
前半10分、伊藤のゴールで日本が先制したが、18分にドイツのミッドフィルダー、レロイ・サネに突破され、同点ゴールを決められた。しかし22分に上田が追加点を奪う。
そして、日本が1点リードした前半終了間際に、またしてもサネが突破を図り、キーパーと1対1になりかけた。
ここでチャージした富安が、俊足のサネに追いつき、足を出してシュートコースを消し、コーナーキックに逃れたのだ。再び同点ゴールを決められていたら、試合の流れがどうなっていたことか。
後半にもサネが突破を図ったシーンで、追いついたばかりか体当たりで吹っ飛ばし、ノーファウルでボールを奪った。
たとえ故意でなくとも足をかけたり、ユニフォームを引っ張る行為は反則だが、肩からぶちかますのは正当な守備なのである。
それにしても、日本のディフェンダーがドイツ代表を吹っ飛ばす光景が見られようとは……と感動した。
データを見ると、サネ(ちなみにドイツ生まれだが、元セネガル代表を父に持つアフリカ系である)は身長183㎝、体重80㎏。対する冨安は187㎝、84㎏。ひとまわり大きいが、当たりの強さは単純に体重差だけでは決まらないし、スピードに乗った状態で正確に肩と肩を当てるのはなかなか難しい。ペナルティエリアの中だから、ひとつ間違えばファウルを取られ、PK献上というリスクもあった。
図抜けたフィジカルに加え、判断力と勇気を兼ね備えていなければ、あれはできない。
日本サッカーが、今もって「アジア以上、世界未満」というレッテルを返上できずに射るのは、システマティックな戦いぶりではアジアで一頭地を抜く存在だが、1対1のガチンコになると白人、黒人、ヒスパニックに対して分が悪いからだと言われる。
この点でも、最近の日本代表は当たり負けしない選手が増えているし、なによりヨーロッパのトップリーグでもまれている者ばかりなので、別物のチーム力になってきた。
国際的な評価もうなぎ登りで、21日に発表されたFIFAランキングは19位。ベスト20にカウントされたのは初めてのことである。
もっともこのランキングというのは、単純に戦績だけではなく、国際Aマッチの主催回数とか様々な要素が組み込まれるので、強さの指標としてはあまり当てにならない、と前々から言われている。たとえば南米の強豪チリは36位でエジプトよりも下だし、アフリカの強豪カメルーンは41位という具合だ。
話を10日の試合に戻して、今やスペインで存在感を増してきている久保建英はベンチスタートで、後半15分だけの出場にとどまったが、なんとその15分間で2本のゴールをアシストし、ドイツに引導を渡した。試合後のインタビューでは、先発だと思っていた、としながらも、
「それだけ競争(先発を勝ち取るためのハードル)が高い、ということでしょう」
と前向きな発言も聞かれた。22歳にして、ひとかどの人格者になっている。間違いなく次世代の司令塔だ。
冨安も24歳とまだ若いし、ケガが多いという不安材料はあるものの、次のワールドカップが今から楽しみではないか。
このような「爆上げ」の気分に水を差してくれたのが、19日に飛び込んできた、浦和レッズが2024年度の天皇杯参加資格を剥奪されたというニュースである。
かなりの程度まで予想されていた、と言うより、このくらい処分は科されて当然だと考えていた私だが、いざ発表された時は、やはり気が滅入った。
事の発端は、8月2日に行われた、天皇杯の試合である。アウェイで名古屋グランパスと戦って敗れたのだが、試合終了直後、数十人の浦和サポーターが、名古屋サポーターが陣取る応援席に詰め寄り、名古屋を応援する横断幕を次々に引き剥がしては踏みつけ、制止しようとした警備員や一部の名古屋サポーターに暴行を加えるなど、暴徒化したことである。
ネット社会のこととて、多くの動画がYouTubeなどに上げられたが、小さな子供を連れた女性が怯えきっている様子を遠くからだが捉えたシーンが、特に問題視された。
それ以上に世間の怒りを買ったのは、浦和レッズの対応で、3日後の8月5日、田口誠社長らが記者会見をしたが、一部サポーターが立ち入り禁止区域に新修したことは認めたが、
「報じられているような暴力行為は確認できていない」
などとのたまったのである。映像を見れば一目瞭然だというのに、これではサッカー・ファンとネット民に同時にケンカをふっかけたようなものではないか。
8月31日になって、ようやく協会も暴徒化したサポーターに対する処分をし、17人が無期限の入場禁止(他に1人が5試合)となったが、この処分を巡っても、報道によれば、レッズとサポーター代表との話し合いの過程で、
「追加処分があれば、また暴れる」
といった趣旨の発言があったという。
これがどうして、次のワールドカップが楽しみだ、という空気に水を差すことにつながるのか。次回、歴史的な背景も含めて考察してみたい。
トップ写真:試合を応援するサポーターたち(イメージ:記事の内容と関係ありません)出典:Alistair Berg/GettyImages
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この記事を書いた人
林信吾作家・ジャーナリスト
1958年東京生まれ。神奈川大学中退。1983年より10年間、英国ロンドン在住。現地発行週刊日本語新聞の編集・発行に携わる。また『地球の歩き方・ロンドン編』の企画・執筆の中心となる。帰国後はフリーで活躍を続け、著書50冊以上。ヨーロッパ事情から政治・軍事・歴史・サッカーまで、引き出しの多さで知られる。少林寺拳法5段。