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.国際  投稿日:2024/2/22

プラボウォ氏勝利でインドネシアはどこに向かうのか


宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)

宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2024#08 

 2024年2月19-25日

 

【まとめ】

・インドネシア大統領選でプラボウォ氏が勝利。政策の方向性は不明。

・同氏はジョコ前大統領の息子を副大統領候補に。ジョコ一家の院政「傀儡」の疑惑も。

・多くの島と人口を抱え、民主選挙を実施し、平和的政権交代が続いていることは評価。

 

今週も世界各地で様々な動きがあったが、まずは先週お約束した通り、14日のインドネシア大統領選挙について書いてみよう。筆者はインドネシアの専門家ではない。そこで同大統領選挙について書かれた内外報道を幾つか読んでみたのだが、当選したプラボウォという政治家のことは、これがどうもよく分からないのだ。

ある日本のインドネシア専門家は同氏を「権力欲は強いが、明確な政治イデオロギーはなく、政策の方向性も示せていない」と評していたが、「なるほど、そういうことか」と思った。大統領選は三度目の挑戦らしい。昔は民主活動家への人権侵害疑惑もあったが、今回は「カワイイ」キャラで若者受けするイメージ選挙に勝利したようだ。

一方、同氏はジョコ前大統領の息子を副大統領候補にしており、ジョコ一家の院政「傀儡」の疑惑も取り沙汰されている。新大統領が権威主義的政治家なのか、大衆迎合主義者なのか、それとも前大統領の操り人形なのか。いろいろ言われているが、要するによく分からない。プラボウォ氏の大統領としての力量は未知数ということだろう。

でも、かくも多くの島と人口を抱えながら、インドネシアがしっかりと民主選挙を実施し、平和的政権交代が続いていること自体は率直に評価すべきだろう。今回も各国から選挙監視団がやって来たが、問題は指摘されていない。どこかの大国では、今でも、2020年大統領選挙は「盗まれた」と騒いでいる輩が大勢いるというのに・・・。

続いて気になったのは、先週開かれた第60回ミュンヘン安全保障会議だ。同会議に出席した米国の友人が興味深い率直な感想を述べている。要するに、昨年はウクライナ戦争について楽観的なムードだったが、今年は様変わり。戦争の行方、NATOの将来、米国の役割などについて極めて悲観的な雰囲気だった、というのだ。

昨年はG7議長国だったこともあり、日本からは外務大臣が出席し、「欧州とインド太平洋の安全保障は不可分」で、日本は「防衛力の抜本的強化、日米同盟の現代化、同志国との連携強化」で、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を実現すると述べた。対中警戒感を欧州諸国にも浸透させる上で日本は結構頑張ったと思う。

ところが今年はどうだ。日本からの出席者は防衛大臣政務官。同政務官には申し訳ないが、考えてみれば、衆議院予算委員会の真っ最中で、かつ日本ではウクライナ首相を迎えウクライナ復興会議を開いていたのだから、仕方ないのかもしれない。日本は、それなりに、やるべきことはやっている、のだとは思う。

それでも、昨年と比べれば、今回の会議は「元気がなかった」印象がある。ウクライナ戦争は先が見えなくなり、ガザ紛争でウクライナどころではなくなり、ロシアではプーチンの政敵が「抹殺」されたとも報じられ、インド太平洋、中国の脅威の議論も進まなかった。今年のミュンヘン会合はこうした悲観的な「閉塞感」に包まれていたようだ。

「閉塞感」といえば、今週は産経新聞に「この閉塞感、何とかならんか」と題し、米中露など世界各地の内政が似たような「閉塞」状態にあるというコラムを書いた。詳細はWorldWatchをご一読願いたいが、歴史を振り返れば、「閉塞感」の後には、往々にして「破壊願望」が来る。これが筆者の最近の懸念の種である。

「もしトラ」で世界はどうなるのか、筆者は次のような懸念を抱いている。これらが全て間違いであれば良いのだが・・・。

 

  • トランプ現象の本質は「少数派に転落する白人の逆襲」外交の比重は低下する

 

  • 二期目トランプの最大関心事は「影の政府」の政治家・官僚に対する報復となる

 

  • トランプの対露宥和政策でNATO同盟は弱体化し、欧州「第二」冷戦に敗北する

 

  • 中東では米国の軍事関与が低下し、不安定が続き、イランは核武装に向かう

 

  • インド太平洋では、米中緊張が続くが、QUADや同盟国の連携は停滞する・・・・

最後は、いつもの中東・パレスチナ情勢だ。

  • 今のところ、米・イランは相互抑止が効いており、ともに直接戦闘を回避している

 

  • イランも必死で親イラン武装勢力の「暴走」を抑えようとしているが、いつまで続くか

 

  • ガザ地区ラファでの戦闘激化は続く、ネタニヤフもハマースも失うものはないからだ

今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。

 

トップ写真)インドネシア大統領選で勝利したプラボウォ国防相(2024年2月14日 インドネシア・ジャカルタ)出典) Oscar Siagian/Getty Images

 




この記事を書いた人
宮家邦彦立命館大学 客員教授/外交政策研究所代表

1978年東大法卒、外務省入省。カイロ、バグダッド、ワシントン、北京にて大使館勤務。本省では、外務大臣秘書官、中東第二課長、中東第一課長、日米安保条約課長、中東局参事官などを歴任。

2005年退職。株式会社エー、オー、アイ代表取締役社長に就任。同時にAOI外交政策研究所(現・株式会社外交政策研究所)を設立。

2006年立命館大学客員教授。

2006-2007年安倍内閣「公邸連絡調整官」として首相夫人を補佐。

2009年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹(外交安保)

言語:英語、中国語、アラビア語。

特技:サックス、ベースギター。

趣味:バンド活動。

各種メディアで評論活動。

宮家邦彦

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