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.社会  投稿日:2024/2/27

業界団体が日経記事をファクトチェック


安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)

【まとめ】

・日本経済新聞が「電力供給、進まぬ分散 大手寡占で災害時にリスク」という記事を掲載。

・電事連が、「大手の寡占との指摘はあたらない」などと反論。

・取材する側とされる側、相互にファクトチェックすることは重要。

 

トヨタに「文春砲」一体、なにが?」の中で、トヨタが週刊ダイヤモンドを訴えた話を紹介したが、最近、業界団体もマスコミに物申すようになった。

1月24日付日本経済新聞の朝刊に、「電力供給、進まぬ分散 大手寡占で災害時にリスク 送配電網、参入少なく 蓄電池コストなど重荷に」という記事が載った。

記事は、能登半島地震による停電に関して以下のように書いていた。

・再生可能エネルギーを使って供給を分散できれば広範囲の停電リスクが下がる。

・送電網の事業への新規参入は進んでいない。

・小型の電源が分散し狭い地域でエネルギーを「地産地消」できる体制が整えば広範囲の災害でも電力を順次復旧しやすい。

・大手の大規模発電所と送配電網に頼る構図は災害時のリスクになりかねない。

これに電気事業連合会が即座に反応した。「124日付日本経済新聞5面「電力供給 進まぬ分散 大手寡占、災害時にリスク」について」と題して、以下のように反論した。

「本記事では、大手事業者があたかも一般送配電事業を寡占化し、送配電事業への新規参入を阻害しているかのような印象を与える見出しとなっているほか、能登半島地震により発生した停電長期化の原因が電力の供給網のもろさにあるかのような印象を与える内容になっていると考えております」。

そのうえで、

・一般送配電事業は(中略)、規制領域とされている許可事業であり、大手の寡占との指摘はあたらない。

・(略)立入困難な箇所が多数あることなどが思うように復旧作業が進まない要因だと承知しており、停電長期化の原因が「電力供給のもろさ」にあるという指摘はあたらない。

と真っ向から否定した。このように新聞報道に業界団体が即座に反論を載せるのは極めて珍しい。

電事連は、「能登半島地震による各原子力発電所への影響について 」という特設サイトも作り、情報発信に努めている。

日経の面子まるつぶれ、と感じたのは筆者だけではあるまい。いまでもこの日経の記事はウェブに掲載されているが、社としてのコメントはなにも付いていない。不思議である。記事に自信があるのなら電事連の指摘に対し反論をのせるべきだろうに。

この記事に関し、国際環境経済研究所 理事・主席研究員の竹内純子氏は、経済ウェブメディアのNewsPicksに、「『安定供給の責任が求められる発電や送配電は大手の寡占が続く状況だ』という一文だけでも電力システム改革を理解できていないことが良くわかる」と指摘、「大手でなく、地域の事業者が電力供給網を構築するということになれば、設備のストックなども彼らが持つのか。DIYで修理できるような設備形成でなければ、より復旧への時間がかかることもあり得る」と厳しいコメントを投稿している。

元毎日新聞編集委員でジャーナリストの小島正美氏は、原子力産業新聞2月13日付で、能登半島地震と志賀原発報道 ファクトチェックはいかにあるべきかと題した記事で、「今回のように、新聞記事に対して、その日のうちにコメントや見解を述べる行為は実にスピーディーであり、ファクトチェックのお手本のような例である」と述べている。

また、「専門家が集まった第三者的なファクトチェック活動が不可欠である」とし、電事連が設けた、特設サイト「能登半島地震による各原子力発電所への影響について」は、「報道では分からないことがこの解説で理解でき、これもファクトチェックの良い例」だとの考えを示した。

クオリティペーパーを自他共に認める日経の記事が業界団体にファクトチェックされる、という現象が起きたのだ。

Japan In-depthもファクトチェックを行っているが、無論取材する我々を、取材する側がファクトチェックすることはあっていいし、むしろ歓迎する。相互のファクトチェックが、信頼性の醸成につながると考えるからだ。無論、メディア同士のファクトチェックもあるべきだ。いずれにしても、「誤りがあったら訂正する」。これが大原則だろう。

誤りだ、と判定されても、記事に自信があるなら、どうどうと反論を載せれば良い。それをしないのはメディアとしての怠慢と言われても仕方ない。大手新聞がファクトチェックに熱心とはとても思えない状況は残念としかいいようがない。

トップ写真)北陸電力志賀原子力発電所 出典)北陸電力

 




この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員

1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。

1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。

1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。

2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。

安倍宏行

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