能登半島地震と目に映らない想い
大石誠(作詞家・社会保険労務士 )
【まとめ】
・健常者と見た目は何も変わらない心筋梗塞を患い生活は不安の連続である。
・報道関係の皆さまに、是非とも心疾患の方々に耳を傾けてもらいたいと切に願う。
・早急に準備することや対策を具現化するべき。
私は、2023年2月19日、心筋梗塞で約1か月間、入院した。心筋梗塞になるまでは、社会保険労務士として、日々多忙を極めていた。その時のストレスが、心筋梗塞の大きな要因でもあった。病院から退院する前に、運動や食事、睡眠等の毎日の生活に対する指導が行われる。
退院すると娑婆に放り出された気分で、それからの生活は不安の連続である。
2023年4月某日、退院し1か月も経たないある日のこと、毎朝、服用している薬の一粒を床に落としてしまった。1回の投薬の数は7~8種類あるため、薬局では1度に飲めるよう小袋にまとめて処方してもらっている。その一粒が口元からこぼれてしまったのである。その一粒は見つからず、何の薬かわからない。心臓の動きに直接作用する薬だったのかと考えると1日不安に苛まれた。
あれから10か月ほどたち、2024年の元旦を迎えたその日の夕方、能登半島で地震が起きた。輪島市、珠洲市を中心に壊滅的な映像が流れた。倒壊した家屋を中心に、その地域に住んでいる人々のインタビューが続く。生活の主たるライフラインの寸断で、食料や水をはじめとした物資の搬送を呼びかける。その後、現地リポーターが高齢者、透析患者等、災害弱者支援に話を繋げていく。画面がスタジオに戻り、ニュースキャスターは誰一人取り残さないという信念のもと報道しているように見える。
だが何かが足りない…。
心筋梗塞を患う私がその場に想いを馳せた時…
今服用している薬の残りは幾日分あるのか、スマホが使えない状況の中いつ次の薬を入手できるのか、避難場所で暖が確実に取れるのか、レトルト食品で塩分を取り過ぎないのか、この状況が改善されずに死と隣り合わせで毎日を過ごすのであろうか…不安に潰されそうになる。
心疾患患者は、健常者と見た目は何も変わらない。ビジュアルが邪魔をして本質が見えず手を差し伸べにくい状況下にある。私はその時61歳、自分でいうのもおこがましいが、人から若く見られる。50代前半にみられることもある。そのためか、退院してからも心臓を患ったようには見られない。顔が細くなり心配する者もいたが、心筋梗塞だとは誰も思わないようだ。それでも、心の内側は騒ぎ続けている。毎朝スマートウォッチを装着すると心電図の確認をし、体重計に乗る。その後血圧を測る。そのあとは、朝飲む薬の点検…今は手慣れたものだが、一つでも確認を怠ると不安がよぎる。
ましてや、震災直後の夜など、極寒の中、暗闇の中、スマホもつながらず、もしかしたら薬も見つからないかもしれない。思考停止になり、いつ死んでしまうのだろうかと漠然と考えながら時間が過ぎていくさまが容易に想像できる。患者にしか見えない恐怖である。
申し訳ないけど、ニュースキャスターは皆、見える情報とその時に感じる人間共通の感情だけをわかりやすく伝えているように思える。悲しいけど、私も心筋梗塞になるまでは、心筋梗塞の本当の痛みなどわからなかった。患者に気持ちを寄せることなど出来ないのは当然である。だからこそ、慰めの言葉に留まらず、ありふれた対策に留まらずキャスターを始めとする報道関係の皆さまに、是非とも心疾患の方々に耳を傾けてもらいたいと切に願う。そうすることで、早急に準備することや対策が必ず見えてくるはずだから。
私だったら、つぎのようなことの具現化をお願いしたい。
例えば通信手段…
災害用伝言ダイヤルに、医療専用のダイヤルを設けてほしい。そうすれば、迅速に心疾患に合った薬が調剤され、ドローンなどで2、3日待てば届くようになるから。スマホでのオンライン診療の普及も同時に実現化してもらいたい。
また、公園などにストレッチや筋トレができる健康器具を設置してもらいたい。心疾患患者のリハビリにも役立つから。特に防災公園のような広い場所には、いたる所にそのような運動器具を設置してもらいたい。
それから退院時、日常生活の注意書きをもらい説明も受けるが、災害時の応急措置や対応も追加してもらえれば、慌てず落ち着いて対処ができるはずだ。できれば、挿絵を添え分かり易くしたもので、コピー用紙ではなく紛失しないよう背表紙のついた冊子が良い。欲を言えば、暗闇でも探せるよう、蛍光塗料が塗られた冊子で、対象年齢を考えれば文字も比較的大きくしたほうが読みやすい。それを医療機関ごとではなく、国が中心となり「心疾患患者バイブル」として統一し、毎年バージョンアップしたものを望みたい。
目に見えないもの
目に見えないものは掴めない。
掴めないものは気にならない。
気にならないものが近くにある。
気にしてもらいたいものが近くにある。
気にしてもらいたいものを感じてくれ。
感じてくれれば気にしてもらえる。
感じてくれれば気になってくる。
目に見えないものに力を与えられる。
*この記事はMERIC by 医療ガバナンス学会Vol.24065 能登半島地震と目に映らない想いの転載です。
トップ写真:石川県輪島市の避難所にいる市民(2024年3月25日)出典:Photo by Getty Images
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この記事を書いた人
大石誠作詞家・社会保険労務士
平成2年4月に大石経営労務事務所を設立。令和6年4月で社会保険労務士として34年目を迎えました。
以下、主な経歴。
平成13年6月~23年5月及び平成25年6月~27年5月 東京都社会保険労務士会 理事
平成27年6月~令和元年5月 東京都社会保険労務士会 常任理事
平成27年6月~29年5月 東京都社会保険労務士会 中央統括支部長
平成19年6月~23年5月 東京都社会保険労務士会 台東支部支部長
平成23年6月~現在 東京都社会保険労務士会 台東支部 相談役
平成19年6月~25年5月 総合労働相談所相談員
平成25年6月~27年5月 社労士会労働紛争解決センター東京センター長
平成20年5月~令和6年3月 関東信越地方年金記録訂正審議会委員(旧年金記録第三者委員会委員)
【著書】
ストーリーでわかる毎月の総務のお仕事(日本法令)
ケース別年金支給額ハンドブック(すばる舎)
就業規則作成マニュアル(すばる舎)
担当者のための年金全書(法研)
社会保険・労働保険の届出と手続(ぱる出版)
WEBガイド コンブライアンス・アシスト (第一法規)
派遣法、職業安定法担当人材サービスの実務(第一法規)
企業のための人事労務様式・書式ハンドブック(第一法規)
就業規則ハンドブック(角川学芸出版)等
【テレビ】
平成25年11月~12月『ナイツのHIT商品会議室』(千葉テレビ)
【ラジオ】
平成18年4月~平成19年10月『JAZZって年金どっと来む』 (ラジオ関西)
平成19年12月~平成20年1月『JAZZってライフプランどっと来む』(ラジオ関西)年金ナビゲーターとして毎週レギュラー出演
【講演】
社会保険協会 東京支部 育児介護休業法等
東京障害者職業センター 就業支援基礎研修
㈱三井物産 経営管理プロ養成講座
人事労務管理・就業管理講師
商工会議所台東支部・新宿支部・荒川支部・練馬支部 就業規則作成講座
ダイエックス 社労士合格実務講座講師
日本マンパワー 独立成功講座講師 等
その他、社労士教育学院、グラフィックデザイン組合、江東区産業連盟等、各種団体で、労務管理中心に講演
-番外-
【CD】
昭和63年3月作詞『イマイチBOY』TINBIN シングル(ワーナーパイオニア)
昭和63年7月作詞『海岸』森高千里ミニアルバム「ロマンティック」4曲目(ワーナーパイオニア)
一般社団法人 日本作詞家協会会員