トヨタに「文春砲」一体、なにが?
安倍宏行(Japan In-depth編集長・ジャーナリスト)
【まとめ】
・週刊文春が、【巨弾レポート】としてトヨタ自動車の豊田章男会長を取り上げた。
・トヨタ関連メーカー3社の不正に焦点を当てている。
・メディアと対峙するトヨタ、経営にどのような影響が出るか。
広告を見て一瞬目を疑った。あの文春がトヨタに噛みついたのだ。最新号(2月21日号)の記事だ。
【巨弾レポート】と銘打つほど力が入っている。見出しの一部には、「豊田章男・トヨタ会長はなぜ不正を招いたのか」、とある。
不正とは言わずもがなだが、以下の3社のトヨタ関連会社の不正のことだ。
・2022年3月、トラック大手の日野自動車がエンジンの排ガスや燃費の性能を偽っていた問題が発覚。
・2023年4月、ダイハツ工業は海外向けの車両で認証試験に不正があったことを発表。 その後の調査でほかの不正も発覚し、国内での生産停止という事態に追い込まれた。
・2023年3月、豊田自動織機は、フォークリフト用エンジンで不正が発覚した。外部有識者による特別調査委員会は今年1月29日、新たな不正内容を公表した。
かつて自動車会社の不正が続いた時期があった。覚えている人も多かろう。
2016年には三菱自動車の燃費改ざん、2017年にはSUBARUと日産自動車の完成車検査、2018年にはスズキ自動車の燃費データで不正があった。
こう見てくると当時ほとんどの自動車会社が多かれ少なかれ、何らかの不正に手を染めていた。トヨタグループを除いて・・・
しかし、今回トヨタ関連会社3社の不正が立て続けに発覚したことで、トヨタ本体のトップである豊田章男会長の責任を問う声が出るかと思ったら、全くマスコミから聞こえてこない。不自然だと感じていた。
ビッグモーターにかぎらず、企業の不祥事が起きたらトップの責任を真っ先に問うはずの新聞・テレビはだんまりを決め込んでいる。これこそ最大のスポンサーであるトヨタに対するそんたくでなくしてなんであろう?
そうした中での、文春のこの特集だ。新聞・テレビはまたもや週刊誌に先を越された格好だ。
そのトヨタだが、マスコミと距離があることはよく知られている。日本最大のオウンドメディアといわれる「トヨタイムズ」を2019年に立ち上げたのだ。俳優の香川照之氏が編集長という肩書きで出演していたことが話題を呼んだ。(2022年8月に発覚した香川の不祥事の為終了)
トヨタほどの会社が自ら情報発信に動いたのだから、メディア界に与えた衝撃は大きかった。と同時にこれだけのことをやるのだから、よほどマスコミに不信感があるのだろうな、とも当時思ったものだ。
そして、2023年12月、トヨタは突如、週刊ダイヤモンドを名誉毀損で訴えたのでこれまた驚いた。(以下HPより)
「当社は、12月6日、真実と異なる内容により当社の名誉を毀損する報道について、株式会社ダイヤモンド社とその関係者を提訴いたしました。
昨今、一部のメディアにおいて、著名な人物や組織に対しては、杜撰な取材や臆測による揶揄や誹謗中傷、名誉毀損も許されるとするかのような風潮も見られますが、名誉毀損に対する社会の意識が年々高まる中、著名な人物や組織に対する報道においても、一定の節度や倫理が求められるべきと考えております。
この度、報道を受ける側の立場から、健全な報道のあり方について声をあげ、このような問題について一石を投じることに繋がればとの想いもあり、今回、提訴に踏み切りました」。
正直、どの記事を指しているのか書いてないので、どの記事が名誉毀損に当たるのか、不明だ。しかし、トヨタほどの会社がメディアを訴えるのは極めて珍しい。一体誰が主導しているのか、と正直誰もが思ったろう。(もっとも2023年1月Nidecもダイヤモンドを訴えている)この件も大手マスコミは無視した。
ダイヤモンド社との訴訟の詳細は、いずれの法廷で明らかになっていくだろうが、トヨタは文春とも全面対決に動くのだろうか。今後の注目点だ。
自動車業界を取り巻く環境は急速に変化している。ここ数年の極端なEV礼賛、急すぎたEVシフトが環境面から見直されつつあり、PHEVやHEVに一日の長があるトヨタを評価する声が出始めているのは事実だが、5年後、10年後、トヨタが世界一であり続けるために今やるべき事は多い。BYDをはじめ、中国自動車メーカーの台頭は決してあなどれない。
過去最高益を享受する中、トヨタは無論勝ち残りのための打つ手はすべて打っていると信じたいし、それを疑うものではない。しかし、昨今のトヨタの周囲で起きているさまざまな事象を見ていると、巨大な組織の中でなにかが起きているのだろうかと思ってしまう。
現在進行形のトヨタvsメディアの構図が、トヨタの経営にどんな影響を与えるのか、気になる。
トップ写真:記者会見を行うトヨタ自動車 豊田章男会長(2024年1月30日 愛知県名古屋市)出典:Tomohiro Ohsumi/Getty Images
あわせて読みたい
この記事を書いた人
安倍宏行ジャーナリスト/元・フジテレビ報道局 解説委員
1955年東京生まれ。ジャーナリスト。慶応義塾大学経済学部、国際大学大学院卒。
1979年日産自動車入社。海外輸出・事業計画等。
1992年フジテレビ入社。総理官邸等政治経済キャップ、NY支局長、経済部長、ニュースジャパンキャスター、解説委員、BSフジプライムニュース解説キャスター。
2013年ウェブメディア“Japan in-depth”創刊。危機管理コンサルタント、ブランディングコンサルタント。