仏新内閣発足 移民問題が最大の課題
Ulala(著述家)
「フランスUlalaの視点」
【まとめ】
・バルニエ氏を首相に新内閣発足。右派色強く、移民問題に力を入れる。
・移民・難民問題への対応が急務。EUとの協調も課題。
・左派からの反発、不信任案提出も。政局の安定化求められる。
フランスの新内閣が発足した。7月の国民議会(下院)選挙が終わった後、すぐにパリオリンピックという大きな行事が控えていたこともあり新内閣に移行することが先延ばしになっていたが、9月5日に新しい首相にベテラン保守政治家である中道右派・共和党のミシェル・バルニエ氏(73)が任命され、9月21日夜に閣僚名簿が発表された。バルニエ氏が新首相に任命されてから新内閣メンバーの発表までにかかった日数は16日。1958年に始まった第5共和制史上、最も長い日数がかかったものの、これでようやく政治の空白期間に終止符が打たれたのだ。
■ フランス新内閣は、右派色の強い顔触れか
発表された新内閣は、マクロン大統領が率いる与党連合、およびバルニエ氏の所属する中道右派の共和党のメンバーを中心に起用されており、全体的に右派色の強い顔ぶれだ。 社会党党首オリヴィエ・フォール氏も、バルニエ政権について「第五共和制の中で最も右翼」であると評価している 。39人の閣僚のうち、与党連合から12人、共和党のバルニエ氏のグループから10人が選出されている。しかしながら、国民議会(下院)選挙で最大議席となった左派からの閣僚起用は1人にとどまった。
この内閣メンバーを受け、左派の政党連合「新人民戦線(NFP)」の一翼を担う、極左の「不屈のフランス」を率いるジャンリュック・メランション氏は、「一刻も早く排除する必要がある」と反発。早ければ10月1日に不信任投票を呼びかけると述べた。また、極右の流れをくむ右翼「国民連合(RN)」を率いるジョルダン・バルデラ氏は、この政府には「未来はない」とコメントしているなど、すでに緊張感が高まっている。
■ 移民に対する対策強化が念頭に置かれた内閣
この新内閣の特徴は、右派色の強いだけではなく、移民・難民に対応するための人事が行われていることである。当初は、移民省を設けるといった話も出たほど バルニエ政権では移民・難民問題を重視している。
バルニエ氏は移民問題や治安を担当する内相に、共和党の中でも移民に最も厳しいブリュノ・ルタイヨー氏(63)氏を起用した。内相となったルタイヨー氏は、欧州連合(EU)のルールに縛られることなく、フランスに必要とされる移民対策を強化するよう主張してきた人物でもある。閣僚人事を通して、移民の受け入れ規制や治安回復に取り組む姿勢を見せることで国民の不安に答える形だ。
内相以外にも、移民関連に知識が深い人物がメンバーに加わっている。海外領土担当大臣には、フランソワ=ノエル・ビュフェ氏が任命された。ビュフェ氏は2006年以来、上院を通過する移民と亡命に関するすべての文書に携わり、2023年には上院法務委員長に就任し移民法強化に貢献した人物だ。海外領土では、特にニューカレドニアの緊迫した政治情勢を管理しなければならない。また、貧困と不法移民が特徴的なインド洋の諸島マヨット島、および特にインフレで9月初旬から深刻な危機に見舞われているマルティニーク島をはじめとするアンティル諸島の問題に対応していくこととなる。
■ 移民問題に揺れるヨーロッパ
移民・難民問題を年頭においた背景には、やはり、移民流入の歯止めがかからないことが原因で、国民からの不安の声も多くあがってきていることがある。 先日、ドイツは国境警備を強化させることになったが、 不法滞在だった難民申請のためにドイツにやって来たシリア人により、3人が犠牲になった事件もあり、こういった状況を受けフランスでも国境警備に賛成の声が高い。
しかし、EU内では意見がわかれ、 移民流入の対応は順調とも言えない。フランスのジェラルド・ダルマナン前内相とともに、ドイツのナンシー・フェイザー内相は、「ダブリン規則が一部の加盟国ではほとんど、あるいはまったく適用されていない」と不満に思っている。
ダブリン規則は、国際的保護の申請を審査する責任のある国を決める基準を定めたものであり、主に欧州連合(EU)加盟国間における庇護審査の責任分担協力に関する規則だ。この規則によれば、最初に審査した国が、難民として認めてEU国内の受け入れ国に送るか、難民として認められない場合は送還するなどの対応をすることになっており、対応に応じてEUから補助金もおりることになっている。
しかし、審査申請がすでに終わっているのに、また違う国で審査を受けにきたりと、きめられたプロセスが正確に機能していない場合が多い。そのため再審査という手間も増え迅速な対応の足かせにもなっているだけではなく、すでに審査申請が行われている場合はその審査した国に送り返すのだが、受け入れを拒否されることも多い状況だ。
また、フランスおよびドイツは、イギリスのEU離脱はEU内の「移民政策の一貫性」に深刻な影響を与えているとも述べている。イギリスの移民の対応について対処が明確ではないため、闇ルートで入国を目指す密航ネットワークが特に活発に活動しており、その結果、英仏海峡や北海を無謀に渡らせることで人々を危険にさらしている。ヨーロッパを横断して、イギリスに向かうルートは、不法入国の「ほぼ3分の1」を占めている。その結果、今月初めには、少なくとも12人の移民がイギリスの海岸に到達しようとしてフランス沖で命を落とした。そこで、フランスとドイツは土曜日、欧州委員会に共同書簡を送り、EUに英国との移民協定交渉を通じて不法移民に対する取り組みを強化することなどを要請した。
今回、内相となったルタイヨー氏もこういった積み重なってきた移民に関する問題を引き継ぎ、治安を守るためにも適切な対応が求められている。
■ 押し寄せるEUへの移民流入
押し寄せる移民・難民の対応に、現在、ヨーロッパは多くの問題をかかえている状態だ。フランスでも移民・難民に関する問題点の解決がせまられており、バルニエ新内閣の今後の重要課題としていることは間違いないだろう。
トップ写真:仏のミシェル・バルニエ首相と米のバイデン大統領が描かれたプラカードを持ち、マクロン大統領に抗議する様子(2024年9月7日、パリ)
出典:Photo by Remon Haazen/Getty Images
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