お金の貯め方 増やし方
.国際  投稿日:2024/10/19

アメリカ新政権の中国政策はどうなるか その2ハリス陣営はバイデン路線を継承


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

まとめ】

・トランプ政権の強硬な対中政策が、ハリス政権の対中政策の出発点となるだろう。

・ハリス政権は日本に防衛費増額だけでなく、経済面でも中国の膨張を抑えるための共同作業への参加を求めてくるだろう。

・中国の危険性は、アジアを制覇しようとしていることと、ハイテク

分野でも世界的な制覇を狙っていること。

 

 

サタ―

「中国に対しては強固に対処しなければならない、というのはいまのアメリカの超党派のコンセンサスです。ソフトであってはならない。バイデン政権もそのコンセンサスに沿ってこの3年半、対中政策を構築してきたといえます。

だからバイデン政権はトランプ政権の強硬な対中政策の多くの部分を継承する結果となりました。この点はバイデン政権が他の領域ではほとんどトランプ政権の政策を否定したことをみれば、異例でした。しかし中国に対する姿勢はバイデン政権でも強固となり、その総括がハリス政権の対中政策の出発点となるでしょう。

その内容はなにかといえば、まず中国の膨張を抑えるための国際連帯です。具体的にはQUAD(日米豪印戦略対話 クアッド)、AUKUS(米英豪三国同盟 オウカス)の結成とその強化日本、フィリピン、韓国による最近の安保連携、さらには北大西洋条約機構(NATO)諸国の中国への警戒、などです。みな中国が膨張する地域、海域での侵略的な動きに反対するという国際的な姿勢です。

バイデン大統領はこれらの国際連帯によってチェスでいうと中国へのチェックメイトをかけた、と評しました。この表現は誇張でしょう。しかし中国側がこの種の国際連帯の前にたじろぐ形でアメリカに対する姿勢をやや和らげたとはいえます。ハリス政権もこの国際連帯をまず保持して、対中政策の基礎とするでしょう。

ただし対中抑止の国際協調という大目標の下では日本などの同盟国にはそのための努力の負担のシェアを求めるようにはなることが予測されます。当面、防衛費の増額ということになるでしょうが、経済面でも中国の膨張を抑えるための共同作業への参加がこれまでよりも多くハリス政権が求めるという可能性が考えられます」

古森

「しかしバイデン政権が中国との関係の長期の展望をどうみてきたかというとトランプ政権とは明らかにソフトな面がありますね。バイデン政権は中国のアメリカにとっての脅威を認めながらも、中国を『競合相手』と定義づけます。その競合をうまく管理していこうというのがバイデン政権の対中政策です。その『管理』のなかには中国との協力も含まれます。気候変動問題、大量破壊兵器の拡散防止、国際テロの防止、感染病予防といった領域での協力です。

また中国との経済関係でもバイデン政権はディカップリング(切り離し)には反対を表明し、ディリスキング(危険を避ける)というやや曖昧な概念を推進しています。中国側としては自国への非難があっても、その非難をぶつける相手が他方では協力しましょうと、いう態度をとってくれば、自国の主張を押し通すうえでは、やりやすい、御しやすいということにもなりかねません」

サタ―:

「そうかもしれません。しかしバイデン政権も中国の基本的な危険性は十分に認めています。その危険性とは第一に中国がアジアを制覇しようとしていることです。この点での米側の認識は超党派であり、バイデン政権もきわめて懸念している中国側の野望です。

アメリカは数十年にわたり、アジアへの深い関与を保ち、その基礎としてアメリカに敵対的な国がアジアを制覇することには絶対に反対という政策をとってきました。1930年代からの日本のアジア覇権がその実例です。現在も中国が明らかにアジア制覇を目指す動きを取り始めました。これは許容できないわけです。

第二の危険性とは、中国はハイテク(高度技術)の分野でも世界的な制覇を狙っていることです。現在はハイテクではアメリカが先頭に立っている。しかし中国はそのアメリカを追い越そうとしている。もしそうなるとアメリカはハイテクに関して中国に屈従することになりかねません。高度技術は周知のように軍事に重大な役割を果たす。ハイテク領域の制覇は軍事面での制覇につながりかねない。

だからハイテクで中国の世界制覇を許すと、軍事面での中国を世界の覇権国家にしてしまうことになりうる。この展望はアメリカの国家にとっても国民にとっても絶対に許容できないのです。

この中国のアジア制覇とハイテク覇権の野望の背後には国際秩序全体にチャレンジして、既成の秩序を中国の好む方向へ変えようとする意図があります。この意図に対してはアメリカだけでなく、先に指摘した諸国、つまり既成の国際秩序を受け入れてきた諸国が猛反対するわけです」

(その3につづく。その1)

*この記事は月刊誌HANADA2024年11月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です

トップ写真:バイデン大統領、ホワイトハウスでアメリカの銃暴力について発言(2024.10.18)ワシントンD.C.

出典:Photo by Tom Brenner/Getty Images

 




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

copyright2014-"ABE,Inc. 2014 All rights reserved.No reproduction or republication without written permission."