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.国際  投稿日:2024/10/21

アメリカ新政権の中国政策はどうなるか その3トランプ陣営は対中軍事抑止


古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)

「古森義久の内外透視」

 

【まとめ】

・サタ―氏は、米中対決の原因を指摘し、両政権が中国の軍事意図に対する認識は一致していると述べた。

・トランプ政権は国防費を大幅に増額し中国を抑止する政策を明確にしたが、バイデン政権はその方針に反対。

・米国民の反中感情が強まり、議会は中国に対し強硬姿勢。ハリス政権でも国防費は増額される可能性高い。

 

古森:

「サタ―さんが指摘した諸点はきわめて重要であり、米中対決の原因そのものだといえます。またアメリカではバイデン陣営もトランプ陣営もそうした中国の意図については一致した共通認識があるわけです。しかし両陣営の姿勢が異なってくるのは、そうした危険な中国の意図に対して、どう対応するか、です。この点でのハリス、トランプ両陣営の大きな違いは軍事への対応です。

トランプ政権は中国を軍事面で抑止し、圧倒するという政策を明確にして、国防費を毎年、10数パーセントずつ、増額しました。大軍拡と呼んでよい措置でした。

 一方、バイデン政権は国防費の大幅増額には反対という方針をとっています。2025年度の国防費も前年比の名目がわずか1%増でした。いまのインフレ率数%を引くと、この金額は実質上の削減です。もともと民主党リベラル派には軍事忌避の傾向があり、バイデン政権もその傾向に影響されてきました。

 この違いを明白に反映したのは中国の軍事動向です。バイデン政権になって、中国の軍事活動は格段と攻勢的となりました。台湾の防空識別圏への中国軍の戦闘機、爆撃機の侵入が増えました。南シナ海のスプラットレー諸島ではフィリピンの統治地域に侵入し、フィリピン側の船舶を放水などで威圧し、占領水域を増しています。トランプ政権時代にはなかったことです。だから時のアメリカ政府が軍事面で中国に対峙するかどうかは、米中関係全体を特徴づけるという点で、きわめて大きな要因です

 トランプ氏は大統領時代に政権としての公式の国家防衛戦略のなかで『中国との戦争を防ぐ最善の方法』と強調して、『それはアメリカの軍事力を増強し、中国との戦争を覚悟して、もし戦争となれば、勝利できるだけの強固な軍事力を保持しておくことだ』と言明しました。中国も負けることが確実な戦争を絶対にしない。こういう発想はハリス政権ではまず出てこないでしょうね」

サタ―:

「ただしハリス政権でも国防費はもっと大幅に増額することになると思います。その理由はアメリカ議会全体に中国に対してのきわめて強硬な態度が確立されていることです。民主党、共和党の別なく中国をアメリカにとっての最大脅威とみて、軍事面でも強固な対応をする、というのが議会の一致した意見です。

 だからたとえハリス政権が誕生して、国防費を増やさないという選択をしても、議会から圧倒的な反対の声が起きるでしょう。その結果、かなりの軍事力増強という結果になるでしょう。議会でのこうした強固な反中姿勢の背景にはアメリカ国民一般の中国への強い反発があります。

 アメリカ国民の多数はまず2019年末からの新型コロナウイルス大感染で中国への激しい反感を抱くようになりました。中国政府が武漢で発生したコロナウイルスを50日ほども秘密にして、その結果、国際的な大感染を招いて、アメリカが最大の被害を受けた、という認識からです。その他の中国政府の多様なチャレンジにアメリカ国民は中国への嫌悪や怒りを強めていった。その結果がまず連邦議会に反映された。こんな経緯があるのです」

古森:

「さてトランプ氏が大統領に再選された場合ですが、その対中政策はトランプ前政権時代と基本は同じだと考えてよいだろうと思います。中国をアメリカにとって、国際秩序にとって、最大の挑戦者だとみる。脅威だとみる。この点はバイデン政権、ハリス政権と同様でしょう。だがその対処となると、大きな違いがあるといえます。トランプ陣営は中国との決定的な対決を恐れておらす、対中戦争は望まないとはいえ、軍事面を含め、断固として抑止策をとっていく、ということでしょう。

 トランプ氏は経済面でのアメリカに輸入される中国製品にはすでにかけた関税を引き上げ、60%にまでするという案を語っています。世界貿易機関(WTO)から中国を追い出すに等しい最恵国待遇の取り消しまで口にしている。だからアメリカ経済を中国から引き離すディカップリングもその通りの言葉を使って、長期の政策目標だとしています。

(その4につづく。その1,その2)

*この記事は月刊誌HANADA2024年11月号に掲載された古森義久氏の論文の転載です。

トップ写真) 北京での歓迎式典に出席した習近平国家主席とドナルド・トランプ前大統領:中国、北京 – 2017年11月9日

出典)Photo by Thomas Peter-Pool/Getty Images




この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授

産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

古森義久

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