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.政治  投稿日:2025/5/12

国民ファーストの政治はどこに?


福澤善文(コンサルタント/元早稲田大学講師)

【まとめ】

・最近の政治リーダーは、タイミングを見極めた的確な判断や、強いリーダーシップを発揮することに欠けている。

・外国人の国民健康保険加入制度や高額医療費の利用、電動キックボード導入など、民意や現実と乖離した政策が多く、政府の対応の遅さや場当たり的な判断が問題に。

・国民が求めるのは、迅速かつ民意を反映した政治的決断であるにもかかわらず、今の政治は国民の方を見ていない。

 

大きな決断を迫られる経営者には、橋を渡る人に例えて、3つのタイプがある。第一は「考えすぎて、橋を渡らない人」、第二は「何も考えずに橋を渡ってしまう人」。そして、第三は「じっくり考え、タイミングを逃さずに橋を渡るかどうか決断する人」だ。

 

高度成長期から1990年代初めにかけ、我が国は経済一流、政治二流と言われた。経済が急成長した陰には、第三のタイプの企業経営者が存在した。しかしながら、経済環境も変わり、日本の経済力は低下する一方ではあるが、これからも企業が成長する為には、やはり、第三のタイプの経営者が必要だ。政治についても第三のタイプのリーダーが必要だが、その政治的判断が適切で、しかもタイムリ―に下され、その判断説明が国民を納得させているかというと、最近の政治リーダーは第三のタイプとは程遠い。

 

国民から選ばれたのに、どこを見て政治を行なっているのか、政治家の中で選ばれたリーダーがどうしてリーダーシップを発揮できないのか、政治家不信を高める事例が最近は多い。

 

高額医療費の上限引き上げについての政府案が撤回された。この引上げについては、民間からの強い反対があった。この反対の背景には物価高、そして社会保険料の引上げによって国民の生活が益々苦しくなっているという現状がある。更に、高額医療費制度を利用しようとする国民健康保険加入の外国人の利用がある。2022年3月から1年間の高額医療費支給額総額9,606億円のうち外国人の割合は1%超と小さいが、金額は111億円だ。問題はそもそも外国人の国民健康保険加入制度自体がおかしいという議論だ。

 

2012年の民主党政権時、日本に滞在する外国人は、それまで1年だったものが、たった3か月の滞在で住民登録をして、国民健康保険に入れるようになった。この制度を悪用する外国人が増えている現実を政治家も知っているはずだ。近年、経営管理ビザを取得するため来日する中国人が多い。その準備の為に3か月滞在すれば、彼らは国民健康保険に入ることができ、更に高額医療費制度も利用できる。東大に留学してきた中国人留学生が来日して1か月で長期入院し、高額医療費制度をフルに使っていたとのニュースがネットで話題になったのは最近のことだ。

 

保険料の滞納率も増えている。保険治療を受け、未納のまま帰国されるケースも起きている。自民党は参議院選挙直前になって、やっと本件についての議論をスタートさせている。野党第一党の立憲民主党からは、余り声が聞こえてこない。なにしろ、同党の党首を始め幹部は旧民主党で、この3か月の制度を始めた張本人たちなのだから。

 

この外国人の国民健康保険加入の問題は、消費税減税と同様、参議院選挙の為の公約に入れるのではなく、今、国会で議論して、首相、大臣がリーダーシップを発揮して、法制度を緊急に替えることを国民は願っているはずだ。

 

日本で道を歩くのが益々危険になっている。自転車の危険運転にはうんざりさせられる。2024年11月に「酒気帯び運転」、「ながらスマホ」などに対する罰則規定ができ、更に、去る4月24日、違反者に対する反則金が発表された。しかしながら、その運用開始は2026年3月1日と、1年先だ。当道路交通法改正が発表された後も日本の道路は危険自転車運転者が溢れている。一般国民の多くが道を歩くときに危険にさらされている今、何故すぐに実施できないのだろうか。

 

備蓄米の放出についても、米価が下がるどころか、微増している。ブレンド米と混ぜる旨の表示やデザインを含めたパッケージ制作にコストもかかるし、それに2~3週間かかると説明する卸売り業者もいる。首相は米価引下げの為に備蓄米放出を指示し、担当大臣もそれに従って関係者に指示を下しているのに、米価は高止まりだ。もしもどこかに米価引下げへの抵抗勢力があって、政治力でどうにもならないのであれば、この国では民主主義の政治は機能していないことになる。

 

と言って、政治家はなかなか動かないのかと思えば、思わぬところで早い決断をしかけ、実行した後に問題が発生し、国民が不信を募らせることもある。例えば、この日本の狭い道で、よく認可されたと思われる電動キックボードは「自民党MaaS議員連盟マイクロモビリティPT」が緩和にむけて音頭を取り、2023年7月に 道路走行が認められた。自転車に加えて、電動キックボードは自動車運転者にとっても、歩行者にとっても危険で、いつ事故が起きてもおかしくない状況が続いている。民意を無視して、導入検討も十分せずに、急いだ結果がこの様だ。一体誰の顔色を見て、決めたのだろうか。

 

特に最近、日本の政策は国民不信を招くものが多い。日本では、物事を進めるのが実に遅い。国民が何を求めているのか明白な事項でも、政府はなかなか進めてくれない。この国では問題が発生したときに、その場しのぎで対策を考えるようなことが実に多い。事故が起きてからでは遅いのだ。国民から選ばれた政治家は民意を反映すべく、国民ファーストでスピーディーに政策を実行してもらいたいものだ。しかし、今の政治は国民を見ていない。一体どこを見ているのだろうか。 

 

トップ写真:国会議事堂(撮影時期不明)

出典:Photo by Elena Zolotova/Getty Images

                     




この記事を書いた人
福澤善文コンサルタント/元早稲田大学講師

1976 年 慶應義塾大学卒、MBA取得(米国コロンビア大学院)。日本興業銀行ではニューヨーク支店、プロジェクトエンジニアリング部、中南米駐在員事務所などを経て、米州開発銀行に出向。その後、日本興業銀行外国為替部参事や三井物産戦略研究所海外情報室長、ロッテホールディングス戦略開発部長、ロッテ免税店JAPAN取締役などを歴任。現在はコンサルタント/アナリストとして活躍中。


過去に東京都立短期大学講師、米国ボストン大学客員教授、早稲田大学政治経済学部講師なども務める。著書は『重要性を増すパナマ運河』、『エンロン問題とアメリカ経済』をはじめ英文著書『Japanese Peculiarity depicted in‘Lost in Translation’』、『Looking Ahead』など多数。

福澤善文

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