グアム島選出議員の防衛への熱意

古森義久(ジャーナリスト/麗澤大学特別教授)
「古森義久の内外透視」
【まとめ】
・グアム島選出のジェームズ・モイラン下院議員、日本との連携強化を強調。
・グアムは米中両軍が西太平洋の広大な海域で最重視する米側軍事拠点。
・グアム島の防衛強化は日本にとっても尖閣有事、台湾有事に備えた米軍支援拠点となる。
アメリカ議会でも日本に対して最も友好的、日米同盟を最も強く支持とみえるのはグアム島選出のジェームズ・モイラン下院議員である。グアムはアメリカ領土とはいえ本土から遠く離れた島であり、人口17万ほどだから、その代表は代議員と称され、下院本会議での投票は制限されている。しかし下院の軍事、外交両委員会ではモイラン氏は正規の下院議員として発言権も投票権もフルに認められている。だからモイラン議員と呼ぶのが適切である。
モイラン議員グアム生まれ、グアム育ち、教育もグアム大学卒業、いま62歳、当初はビジネスマンだったが、グアム島の地方議員を務め、2022年の連邦議会の下院選挙に出馬して当選した。所属は共和党だが、グアム選出の下院が共和党となったのは30年ぶりだった。2024年11月の選挙でも再選を果たした。
写真)2023年9月13日 -ジェームズ・モイラン下院議員(共和党)
出典)Anna Moneymaker/Getty Images
民主、共和両党間でも、こと防衛や安全保障となると伝統的に共和党が熱心だといえる。モイラン議員も防衛政策にはきわめて多くの時間と精力を投入し、下院の軍事、外交両委員会で法案や決議案を出し、発言も活発である。その背景にはグアム島が中国近海や日本周辺を含む西太平洋全域でのアメリカの最大の軍事基地となっている実態が存在する。この実態はアメリカが脅威とみる中国側にとってグアム島の米軍基地は台湾攻撃などの際の最優先の攻撃目標となる。
このグアム島の軍事面での重要性は日本側の一般では正確には認識されていないようだ。多くの日本国民にとってグアム島といえば、アメリカ本土からは遠いけれど、アメリカの空気に満ちた美しい海岸というような観光地認識が強いからだ。
だが中国側はアメリカとの軍事対決では防衛線、さらには攻撃線として第一列島線、第二列島線という戦略概念を策定してきた。そのうち第二列島線は中国軍が台湾有事にアメリカ海軍の台湾への増援を阻止する海域とされている。グアムはその第二列島線の中心に位置するのだ。だから中国人民解放軍は射程4000キロの中距離弾道ミサイルのDF(東風)―26などを有事のグアム攻撃用に配備しているとみられる。グアムは米中両軍が西太平洋の広大な海域では最重視する米側の軍事拠点なのである。
モイラン議員はそのグアム島の防衛強化を2022年の初当選のころから主唱してきた。その過程では日本との防衛協力をも強く推奨してきた。私は議会で日米防衛協力について取材するうち、モイラン議員と知り合うと、同議員は日本の防衛政策への強い関心を示し、多様な質問をも浴びせてきた。そしてグアム島の軍事能力についても説明し、日本との連携強化が欠かせないのだと強調した。そのうちモイラン議員は彼の議員事務所にまで私を招き、意見や情報の交換を求めるようにもなった。
そんなモイラン議員から5月はじめ、情報が届いた。下院軍事委員会で「グアム防衛システム」への2025年度の追加予算の2億ドルの支出が決まった、という通知だった。
「グアム防衛システム」とはアメリカ軍がグアム基地に艦対空のSM-3(弾道弾迎撃ミサイル)やSM-6(同)、THAAD(高高度迎撃ミサイル)、Patriot PAC-3(ぺトリオット地対空誘導迎撃ミサイル)など多様な防空ミサイルを配備して、迎撃網を360度の全方向に完備するという構想である。トランプ政権はそのためのミサイル防衛拠点をグアム島内に少なくとも16カ所、建設する計画で総予算は約150億ドルが予定されているという。今回、下院軍事委員会が可決したのはそのうちの2025年度分予算の追加分で、全体からみれば少額だが、グアム島選出のモイラン議員としては大きな朗報ということで関係筋に広範に知らせている次第だという。
グアム島の米軍基地の防衛強化は日本にとっても尖閣有事や台湾有事に備えての米軍の堅固な支援の拠点となる。だからそのグアム基地の対中国ミサイル防衛網の増強は日本としても歓迎すべき動きだろう。
#この記事は日本戦略研究センターのサイトに掲載された古森義久氏の寄稿の転載です。
トップ写真)2017年8月17日 -グアムのイーゴにあるアンダーセン空軍基地の駐機場に置かれた米空軍のロックウェルB-1Bランサー(左)とボーイングKC-135ストラトタンカー(右)
出典) Justin Sullivan/Getty Images
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この記事を書いた人
古森義久ジャーナリスト/麗澤大学特別教授
産経新聞ワシントン駐在客員特派員、麗澤大学特別教授。1963年慶應大学卒、ワシントン大学留学、毎日新聞社会部、政治部、ベトナム、ワシントン両特派員、米国カーネギー国際平和財団上級研究員、産経新聞中国総局長、ワシントン支局長などを歴任。ベトナム報道でボーン国際記者賞、ライシャワー核持込発言報道で日本新聞協会賞、日米関係など報道で日本記者クラブ賞、著書「ベトナム報道1300日」で講談社ノンフィクション賞をそれぞれ受賞。著書は「ODA幻想」「韓国の奈落」「米中激突と日本の針路」「新型コロナウイルスが世界を滅ぼす」など多数。

