混沌極める中東情勢 各国の思惑は
宮家邦彦(立命館大学 客員教授・外交政策研究所代表)
宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2025#25
【まとめ】
・イランの空爆後の沈黙の持つ4つの意味。
・石破首相の外交は一定の評価。
・イスラエル、イラン、米国、三国の関係を引き続き注視。
6月21日の米軍機によるイラン核施設3カ所への空爆に対し、イラン側は、予想通り、近隣国(カータルだったが)にある米軍基地に、事実上事前通告(即ち、米軍人の死傷者が出ないように)して、14発の(先週は「数発」かと思ったが、米軍が使ったバンカーバスターが14発だったからか)ミサイルを撃ち込んだ後、見事に沈黙した。
この沈黙の意味は、①イランにこれ以上戦闘を拡大する意図はないが、②ウラン濃縮を含む核開発計画全体を放棄する気など毛頭なく、③米側が停戦を求めるなら、まず対イラン制裁を解除すべしと考えていること、を意味する。だが、沈黙するもう一つの理由は、④今集中すべきは対米交渉よりも、むしろ国内対策だからだろう。
その点を書く前に、もう一つ触れておきたいことがある。今回は世界の多くの中東関係者だけでなく、恐らくはイラン自身もトランプ政権がこれほど早く対イラン攻撃に踏み切るとは思っていなかったようだ。「知ったかぶり」と言われれば身も蓋もないが、筆者は、今回米側が対イラン攻撃に踏み切るのは「時間の問題だろう」と見ていた。
筆者には苦い思い出がある。1991年1月、湾岸戦争が始まる直前のことだ。当時もマスコミは勿論、外務省内ですら「米国は本当に攻撃するのか」という疑問があった。最後の段階でイラクのサッダーム・フセイン大統領は譲歩する、いや、そもそも米国の動きは「ブラフ」に過ぎず、「攻撃はない」と見る向きも決して少なくなかったのだ。
実は当時筆者もそう考えていたのだが、それは「希望的観測」だった。誇り高きフセインは譲歩などせず、米国は有言実行を貫いた。当時米国が必ず攻撃すると見ていたのはワシントンを良く知る某先輩外交官だった。結局米国は、事前に宣言した通り、攻撃を実行した。大国とは言ったことを実行する国なのだと筆者は心に刻んだ。
その後、「米国が攻撃する」もしくは「レッドラインを越えた」などと宣言して攻撃しなかったのはオバマ大統領だけ。その点は、トランプがオバマよりも大統領的だった。これが筆者のトラウマである。トランプが合理的判断を下したか否かは歴史が決めるだろうが、イランが譲歩しない以上、攻撃は早晩不可避だったと筆者は思う。
もう一つの論点は石破外交だ。今年に入って石破首相は40人近い各国首脳と会談したというが、4月半ばからの約二か月半だけでも、20カ国以上の世界各国首脳レベル要人と東京で対面会談していることをご存じだろうか。しかも、在京各国大使館関係者に聞いてみても、会談内容は結構評判が良いのだ。
石破政権の外交というと、皆対米交渉や対中関係を考えるのだろうが、実は地道に、しかも着実に、世界各地の中小ながら重要な国々との首脳レベルの対話を続けている。石破外交については一部批判も少なくないが、やるべきことはやっていると、今週の産経新聞WorldWatchに書いた。お時間があればご一読願いたい。
さて続いては、いつもの通り、欧米から見た今週の世界の動きを見ていこう。ここでは海外の各種ニュースレターが取り上げる外交内政イベントの中から興味深いものを筆者が勝手に選んでご紹介している。欧米の外交専門家たちの今週の関心イベントは次の通りだ。
7月1日 火曜日 クアッド外相会合、ワシントンで開催
スイス大統領訪仏、フランス大統領と会談
ルクセンブルグ首相訪独、ドイツ首相と会談
EU-トルコ高級政治対話開催(アンカラ)
7月2日 水曜日 メルコスール首脳会議開催(アルゼンチン)
EU-中国戦略対話開催(ブラッセル)
7月3日 木曜日 Aix-en-Provence 経済フォーラム開催(フランス、3日間)
7月4日 金曜日 EU-モルドバ首脳会議(モルドバ)
インド首相、アルゼンチン訪問(2日間)
7月6日 日曜日 OPEC8か国がテレビ会談
BRICS首脳会議(ブラジル・リオデジャネイロ、2日間)
最後にガザ・中東情勢についてもう一言。冒頭書いた「イラン側の沈黙」のもう一つの理由は恐らく国内対策である。今のハーメネイ以下イランの政治指導者たちの発想をここで勝手に想像してみよう。
- (既に述べた通り)今米イスラエルとガチで戦えば、イスラム共和制が崩壊する可能性すらある
- 一方、最大の敗因である「イスラエル諜報機関のイラン国内への浸透度」は想像以上だったので、今はこのスパイネットワークを壊滅させることが最優先事項だ
実際にイラン国内ではこうした取り締まりが既に始まっているようであり、当分イラン国内ではイスラエル・スパイの摘発と処刑が続くだろう。だが、それには大きな問題がある。あまりに厳しく弾圧すれば、イスラエルとは直接関係ないが、現イスラム政権に批判的な一般庶民の強い反発を招く可能性があるからだ。
イスラエルもその点は承知だろう。引き続き米国を対イラン戦に巻き込みたいイスラエルは、今後もイランを挑発し続けるはず。逆に、ウラン濃縮を続けたいイランは、ギリギリまで米国との合意を模索し続けるだろう。問題はこれ以上の軍事介入を避けたいトランプの動きとなるが、既にイランに対し口では「更なる攻撃」をも示唆している。
どうやら今後も米イスラエルvsイランの戦争は続きそうだが、恐らく、これからの主戦場はイラン国内になるかもしれない。筆者が外務省入省後から50年あまり、中東政治情勢を激変させてきたイラン・イスラム共和制はこれからどうなるのだろう。先週は「人間の歴史は、全ての当事者が常に合理的な判断を下せる保証などない、ことを示している」と書いたが、今もその気持ちは変わっていない。今週はこのくらいにしておこう。いつものとおり、この続きは今週のキヤノングローバル戦略研究所のウェブサイトに掲載する。
トップ写真)イスラエルのミサイル攻撃を受けた、国営テレビ局のスタジオと編集部が入居するビル。(イラン、テヘラン、2025年6月25日)










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